第3話 パンドラ博士の研究都市へ
北方山脈を抜けた先に広がる、黄金のドーム都市。
その名は 《アウロラ・ラボ》。
魔導と科学が交差し、
倫理とモラルが秒速で蒸発する、世界最大の研究都市だ。
アイゼン一行は、事件の黒幕を追うため、
ひっそり潜入を開始した……はずだった。
だが、彼らはまだ知らない。
この街が“記憶”そのものを金に換える、
狂気の実験都市であることを。
市場の一角で、ルアーナは脚を止めた。
商品棚に並んでいるのは食料でも魔導書でもない。
瓶詰めにされた“光の欠片”。
商人が客に説明する。
「はいコチラ、初恋の記憶・5分間パック!
お買い得ですよ〜。
プロポーズ記憶は今なら割引です!」
ルアーナ
「……は?」
リュカ
「これ……全部、人の記憶……?」
レイヴが冷静にボードを読む。
《経験売買:1gの記憶=白金貨3枚》
ルアーナの拳が震えた。
「こんな……こんなの……‼
記憶は“人生”でしょう!?
誰が売っていいって言ったのよ!」
レイヴ
「まぁまぁ。狂気の世界へようこそ、ってねイヒヒヒヒ」
◇◇◇
禁断研究施設《バイオ棟》潜入
アイゼンは黙ったまま、
研究棟の奥に刻まれた紋章を見つめた。
《E・F》
エリシア・フロストの研究印
アイゼンハワードは歯を噛みしめる。
「……エリシア。これが、お前の残した地獄か」
ドアが自動で開く。
そこにいたのは
紫のローブをまとい、
丸いゴーグルを光らせた女科学者。
「フヘヘ……歓迎するわ、アイゼン捜査官。
そしてルアーナ・アイゼル。
君の論文、私はずっと高く評価していたのよ?」
ルアーナ
「パンドラ博士……!」
博士は愉悦に満ちて笑った。
狂気の科学者・パンドラ博士 登場
パンドラ博士(科学者)
年齢:40代半ば
職業:異世界バイオ魔術学者
特徴:黒と紫のローブにゴーグル。笑い声が「フヘヘ」
パンドラ博士
「記憶は資源よ。
そして資源は“枯渇”する。
なら奪って補充すればいい──違う?」
ルアーナ
「違うッッッ!!」
研究棟の照明がビリッと揺れたほどの怒声だった。
リュカとレイヴが驚き、アイゼンが目を細める。
ルアーナは震える声で続けた。
「記憶は……人の心。
それを奪うなんて……
あなたは科学者じゃない! “破壊者”よ!!」
パンドラ
「フヘヘ、名言ね。
だが事実は変わらない。
この都市は今、記憶産業で繁栄しているの。
需要があれば供給する……それだけのことよ」
背後の巨大装置が唸る。
《メモリア・コード》
記憶抽出・量産システム。
パンドラ
「そして、この中に――
あなたたちの大切な“死人”も保存してあるわ」
アイゼンの表情が凍りつく。
パンドラ博士が口元を歪める。
「40年前の《レッド・メモリー事件》。
あの時死んだのは……
肉体だけだったのよ?
エリシア・フロストの記憶は、こちらで保存したわ。
“研究素材”としてね」
ルアーナ
「……ッ!!!」
リュカ
「ひどい……そんなの……!」
アイゼン
「……パンドラ。お前、何をした……?」
博士はゴーグルをクイッと上げて言った。
「フヘヘ……
あなたの“最愛の人”は消えていない。
ただ、商品になっただけよ?」
ルアーナの怒り、リュカの戸惑い、
そしてアイゼンハワードの胸に刺さる、最も残酷な真実。
その時、記憶装置が轟音を上げ始める。
彼らの前に広がるのは、
希望か、絶望か、
それとも失われた“永遠のメモリー”か。




