第2話 失われた街の少女ノア
イグニス帝国・第三区。
“無音の炎”に襲われ、記憶喪失者ばかりとなった街の中心で
たったひとり、記憶を保った少女がいた。
もっとも、保ったのは“名前”だけらしいが。
少女ノアは、焼け跡のない廃街で
ぽつんと体育座りをしていた。
「……ノア。名前だけ、覚えてるの」
リュカがそっと膝を折り、
同じ目線まで降りてくる。
彼は、不器用で、優しい。
「名前があるなら……大丈夫だよ。
だって……名前って“最初の記憶”でしょ?」
ノアは、大きな瞳でリュカを見つめる。
「……私、ここがどこかも……
誰を好きだったのかも……全部思い出せない」
リュカは首を横に振った。
「記憶がなくても、人は優しさを失わない。
君は怖くても泣かずに、
誰かを待ってたんだよね?」
ノアの表情がわずかに揺れた。
彼の言葉が、凍った心に火を灯すように。
その頃、ルアーナは街中の魔導残滓を分析していた。
「まったく……こんな高度な記憶奪取魔導、
40年前の技術じゃ説明できないよ!」
レイヴが飄々と肩をすくめる。
「で? 犯人は幽霊かゾンビか、元カノかい?」
「元……ッ!! そ、そんな話してない!」
ルアーナの顔が真っ赤になる。
一方、アイゼンはノアを遠くから見つめていた。
視線は鋭いが、どこか怯えているようにも見える。
ノアがふと立ち上がり、
アイゼンのコートを小さく引っ張った。
「ねぇ……あなたを、知っている気がするの」
アイゼンハワードの心臓がひとつ跳ねた。
「……気のせいだ。
わしのことなんざ、覚えてなくていい」
「でも……あなたの声……懐かしいの」
リュカとルアーナが振り返る。
レイヴがニヤリと笑う。
「へぇ……、これはどういうことかな?」
アイゼンは答えない。
ただ、くしゃくしゃの煙草を握りつぶした。
失った街に、名前だけが残った少女。
そして、少女に向けられたアイゼンハワードの怯えた瞳。
記憶を喰う炎の核心へ、
物語はわずかずつ深く沈んでゆく。
ノア=クレン(街の少女)
年齢:12
職業:孤児/記憶を奪われた被害者
特徴:白髪のショート、笑顔が可愛い
関係:リュカと心を通わせる、記憶を失っても“優しさ”だけ残った少女




