第1話 無音の炎、再び燃ゆ
【ナレーション】
北方イグニス帝国
雪原の上で、妙な事件がまたひとつ起きた。
“無音の炎”が街を丸呑みにし、
焼け跡も煙も残さず、
住人たちの記憶だけを根こそぎ持っていったのだ。
……どうやら、40年前と同じ手口らしい。
場面は変わり、南方の酒場。
アイゼンハワード老人は、
酒を一滴も飲まずに“事件記事”を見つめていた。
「……冗談じゃねえ。わしが灰にしたはずの事件だぞ、これは」
その声には、渋い男の色気と、
消えない後悔が混じっていた。
ルアーナ(科学少女)、耳をぴくりと動かす。
「ねえアイゼン、それって……
あなたが“絶対に近づくな”って言ってた事件じゃ?」
「へぇ……老人の黒歴史ってやつ?イヒヒヒヒ」
死神レイヴがニヤつく。死神のくせに軽い。
「怖い事件なの?」
とリュカが不安げに聞くと
「怖ぇのはな…… 忘れたいほど愛した女が絡んでるってことだ」
アイゼンは立ち上がり、
コートをひらりと翻す。
「行くぞ、お前ら。どうせ止めてもついて来るんだろ?」
仲間3人が顔を見合わせた。
もちろん答えは決まってる。
「決まりだね、アイゼン!」
「うん、行く」
「ま、ヒマつぶしにはいイヒヒヒ」
こうして、“最強に自由な4人組”の旅が始まった。
イグニス帝国、被災現場。
焼けた建物はひとつもない。
だが人々は、まるで魂を抜かれたように
ぼんやりと空を見ていた。
ルアーナが膝をつき、土を調べる。
「……温度変化ゼロ。燃えた痕跡ゼロ。
なのに“記憶”だけが奪われてる……?」
レイヴが肩をすくめる。
「人間の記憶を喰う炎ねぇ。趣味が悪イヒヒヒh」
リュカは怯えた声で呟く。
「ここ……なんだか、すごく怖い……」
アイゼンはひとり、ある地点へ歩み寄った。
壁、地面、そして倒れた街灯──
そこに刻まれた細工が目に入った瞬間。
彼の時間が止まった。
「……やめてくれよ。
こんな形で再会なんてな……」
“それ”は小さな魔導式の刻印だった。
40年前に消えた天才魔導技師
かつての恋人。
エリシア・フロスト式魔導刻印。
ルアーナが声をかける。
「アイゼン、それ……」
彼はゆっくり、深く息を吐いた。
「間違いねぇ。
エリシアの仕事だ」
雪が静かに降り積もる中、
老人の瞳だけが激しく揺れていた。




