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【ランキング12位達成】 累計62万7千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
「アイゼンハワード最後の旅7 ― 哀愁のハモンドは鳴り止まない」

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第2話 彼女の部屋に残った3つの違和感

キャサリーの部屋は、港から吹く湿った風が薄く漂っていた。


古い木枠の窓、壁に掛けられた色褪せたレコードジャケット。

彼女のセンスが滲むはずの部屋は、妙に“止まって”いた。


ルアーナが真っ先に動く。

白衣の裾を揺らしながら、テーブルの上のマグカップを覗き込んだ。


「……甘すぎる。アイゼン、キャサリーさん、こんな味つけしないよね?」


マグの中には、砂糖を溶かしすぎて底にザラつきが残るほどのコーヒー。

生前の彼女が“絶対に飲まなかった味”だ。


リュカは部屋の端でしゃがみ込み、指先で紙片を拾い上げる。

破れた楽譜の一部―わずかに残る書き込みは、

キャサリー特有の細く丁寧な譜面とは明らかに違う。


「誰かが……怒って破ったみたいだね。力任せに」


死神レイヴは窓の前で片足ずつ靴音を鳴らし、片方だけ残された赤いハイヒールをつまむ。


「ふーん……片方だけってのは、やたら意味深だよ。

逃げたか、追われたか、あるいは置いていったかイヒヒヒヒ」


死神レイヴは微笑しながらも、その瞳だけは鋭く光っていた。


ルアーナが振り返る。


「他殺の匂いがする……アイゼン、これは明らかに変よ」


アイゼンハワードは、部屋の中央でじっと佇んでいた。

肩越しに吹き込む潮風すら、彼の表情を動かせない。



ルアーナは部屋を一巡しただけで眉をひそめる。


① テーブルの上のカップには、舐めるように甘いコーヒーが残っていた。

キャサリーは“苦い派”だったはずだ。


② ピアノ椅子の下には、破れた楽譜の切れ端。

曲名は判別できず、ただ「♯」の書き方だけが妙に力強い。


③ 窓辺には、赤いハイヒールが片方だけ置かれている。

まるで急いで逃げたか、あるいは誰かが持ち去ったかのように。


ルアーナが小さく息を呑む。


「他殺の匂いがする……アイゼン、これは明らかに変よ」


アイゼンハワードは無言で室内を見渡し、

手袋越しにカップの縁をそっとなぞった。

彼は静かに、まるで自分に言い聞かせるように呟く。


「……まだ足りない」


その声は低く、しかし確信に満ちていた。


「彼女はいつも、俺の鈍さを見抜いていた。

なら必ず“手がかり”を残すはずだ。

これは、ただの不自然な部屋じゃない。あいつの遺言だ」


潮の匂いとともに、沈黙が落ちる。


四人は同時に察した。

ここにあるのは“違和感”ではなく導きだと。

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