第3話 王冠の欠片と荒野の旅路
荒野は、昼間の光さえ吸い込むような不穏な気配に包まれていた。
アイゼンハワードは杖を肩にかけ、重い足取りで砂地を踏みしめる。ルアーナは双眼鏡を覗き、リュカは静かに後ろを警戒しながら歩く。
「先生……この荒野、何かがおかしいです」
ルアーナがつぶやく。
「自然が……狂ってるな」
アイゼンは眉間に深い皺を寄せる。荒野には封印された魔力の残滓がうずまき、風が勝手に巻き上がり、砂塵の竜巻を作っていた。
そのとき、死神レイヴがふいに立ち止まり、くすくすと笑う。
「おや……危険な死の匂いがするぜ、イヒヒヒ」
風に舞う砂の中、彼の瞳が鋭く光った。アイゼンは杖を地面に叩きつけ、魔力の結界を展開する。間一髪、砂嵐の渦が襲うも、四人は無事にやり過ごす。
「……お前ら、油断するなよ」
老体に鞭打つアイゼンの声に、ルアーナとリュカは小さくうなずく。
しかし遠くの岩陰、闇に紛れて誰かが見つめていた。
ブラックセイバー
王冠を狙う敵組織の一員である。冷たい眼光が、四人を追う。
ヴァルゴ:闇の殺し屋、刃物と暗殺術の達人。
オルフィウス:邪術師、王冠の呪力を利用して世界を支配しようと企む。
リディア:暗黒盗賊団の首領、冷酷非情に目的を遂行。
荒野の岩陰、黒いマントが風に揺れる。ヴァルゴは低い声で呟く。
「奴ら……あれがアイゼン・ハワードか。老人に見えるが、動きはまだ鋭い。」
オルフィウスは杖を指先で回し、魔力の残滓を感じ取りながら笑う。
「フフフ……王冠の欠片の匂いが濃いな。このまま野放しにすれば、世界がまた狂気に染まる……だが、それを俺の手で支配するのも悪くない。」
リディアは腕を組み、冷たい眼光で荒野の先を見つめる。
「無駄なことを考えてる暇はない。動きは計画的に。アイゼンの連れには死神もいる。あれは予測不能……接触は慎重に。」
ヴァルゴはナイフを磨きながら答える。
「イヒヒ、俺に任せろ。暗殺は得意だ。こっそり近づいて、さっと片付ける。」
オルフィウスは笑いを押し殺して杖を叩く。
「片付ける……とは言え、王冠の呪力を侮るなよ。暴走すれば、こっちも巻き込まれる。」
リディアは薄く笑い、二人を睨む。
「心配するな。計画は私が立てる。ヴァルゴは暗殺、オルフィウスは魔力解析、私は…全ての進行を掌握する。」
ヴァルゴが低くつぶやく。
「イヒヒ……俺たちの狩りは始まったな……」
オルフィウスが杖を揺らす。
「王冠の欠片、必ず手に入れる。手段は選ばぬ……世界ごと滅ぼす覚悟でな。」
リディアが荒野に視線を走らせる。
「さあ、動け。奴らが動き出した。王冠を奪い、世界を支配するのは私たちだ。」
三人は息をひそめ、影の中で動く。荒野の砂塵が風に舞い、まるで世界全体がの運命を見守っているかのようだった。
アイゼンは杖を軽く叩き、古びたマントを翻す。
「……面倒な依頼だが、乗りかかった船だ。最後まで行くしかないな、先生としてな」
ルアーナは、少し戸惑いながらも力強くうなずき、リュカも決意を固める。
そして死神レイヴは、いつものイヒヒヒ笑いを浮かべながら、二人に向かって言った。
「さて……君たち、生き残れるかな?イヒヒヒ」
こうして、世界を滅ぼしかねない王冠を追い、魔界と人間界の運命を背負った荒野の旅路が始まった。




