第九話 国家犯罪の全貌―暴かれる“自作自演戦争”
禁書庫の鉄扉が
ズドォォォン!!
まるで銀行の金庫破りのように派手な音を立てて吹き飛んだ。
黒装束の「回収局」隊員たちが、次々にロープで降下してくる。
「動くなァ!禁書を返せェ!!」
カルマスは額を押さえ、深いため息。
「……君たち、毎回登場がうるさいんだよ」
リュカが叫ぶ。
「全然隠密じゃないよ!?」
死神シグルは嬉しそうにクルクル回る。
「イヒヒヒ!
ロープ降下! 待ってましたァッ!
まずは足を切り落とそうかイヒヒヒ!」
「落ち着け!!」
ルアーナが必死に羽交い締めする。
アイゼンハワードはゆっくり杖をつきながら前へ出る。
「――で、君たち。
年寄りに銃を向けるのはどうかな?」
老人のくせに妙に余裕のあるその態度に、回収局員たちが一瞬たじろいだ。
リュカが本棚を蹴ると、
魔導巻物がドミノ倒しのように崩れ、回収局員の頭を直撃!
ルアーナは一瞬で計器盤を解体し、
「禁書庫の無重力結界」を起動。
回収局員たちは浮き上がり、天井にバンバンぶつかる。
「なんだこれぇぇぇ!!」
死神シグルはくるりと宙返り。
「空中処刑会場へようこそイヒヒヒ!」
「誰も処刑しないで!」
そして最後にアイゼンハワード。
老人とは思えない華麗なステップで宙に浮く敵の背後に回り、
杖で ぽん とひと突き。
「若いなァ。もう寝なさい」
敵はフワッと失神。
完全勝利だった。
回収局の通信装置をルアーナが解析すると――
そこには、信じがたい記録の山。
カルマスが眉一つ動かさず読み上げる。
「……やれやれ。これは大物だね」
壁いっぱいに映し出される極秘文書。
■ 国家犯罪 その1
兵器欠陥の隠蔽
東西共同開発の“浮遊装置”に重大欠陥。
暴発するのを知りながら、税金と軍事利権のために隠蔽。
■ 国家犯罪 その2
皇女誘拐の偽装
皇女は自ら真実を探っていた。
それを“誘拐された”と偽り、戦意高揚プロパガンダに利用。
■ 国家犯罪 その3
市民の犠牲を敵国のせいにした
浮遊装置事故すら、双方の政府が互いに罪をなすりつけて戦争を煽る。
■ 国家犯罪 その4
戦争のビジネス化
武器、浮遊装置、魔導燃料――
全ては“継続する戦争”を利益化するための巨大な共同事業。
部屋が静まり返る。
リュカもルアーナも、言葉を失っていた。
死神シグルは震えていた。
いつもの「イヒヒヒ」と笑う口が、
ゆっくりと閉じた。
そして
「……これは死じゃない」
低く、冷たく、死神とは思えない声。
「殺された魂だ。
魂は嘘をつかない。
彼らは“国家に殺された”と叫んでるよ。」
白い手が宙をなぞると、
浮遊事故で命を落とした犠牲者たちの“残滓”がふわりと現れる。
彼らの声が、まるで証言のように響いた。
『助けて……誰かを守ろうとしてる人がいた……』
『皇女……あの人は私たちを見ていた……』
『戦争を終わらせようとしていた……』
ルアーナが涙をこぼす。
「皇女様……あなたは……」
アイゼンハワードは静かに目を閉じた。
「――全部、仕組まれてたわけだ」
カルマスが頷く。
「君たちが追っていたのは、
“行方不明の皇女”じゃない」
「真実そのものだよ。」
シグルは涙とも怒りともつかない声で叫んだ。
「許せないね……イヒ……イヒヒヒ……ッ!」
その笑いは、
狂気ではなく、完全なる 断罪の笑い だった。




