終章 夜明け ― 生存者たちの再生
氷槍の夜がようやく終わり、
北の空に、薄いオレンジの光が差し込んだ。
凍りついていた世界が、ほんの少しだけ色を取り戻す。
砕けた巨人の残骸は白い蒸気を上げ、
吹雪は止まり、静寂だけが広がっていた。
囚人たちは全員生き残り、鉄枷がひとつ、またひとつ外れていく。
ルアーナは、夜明けの光を呆然と見つめていたが、やがて微笑んだ。
ルアーナ
「……外の世界。行きましょう、みんなで。」
リュカは涙をこぼしながら、アイゼンハワードへ駆け寄る。
リュカ
「先生……ほんとに、生きてる……!」
胸にしがみつかれるアイゼンハワードは、苦笑しながら頭を撫でる。
アイゼン
「ほら、泣くな。
行こう。外の世界へ。」
その少し後ろで、死神が影に腰を下ろし、にやりと笑う。
死神
「生きようと足掻く姿……なかなか芸術的だよ……イヒヒヒ……」
氷の大地に、ようやくあたたかな風が吹いた。
◆【シーン10:エピローグ ― 次の旅へ】
数日後。
北の大陸の端で、彼らは新しい道へと歩みだす。
吹雪の世界から抜け、
遠くには山脈、さらにその向こうに西の空のきらめきが見える。
その道を前に、アイゼンハワードはため息をついた。
アイゼン
「……お前、本当に離れないのか。」
背後で黒い影がゆらめき、死神が肩をすくめる。
死神
「当たり前だろ?
お前の“死”は、俺の最高傑作なんだからぁ……イヒヒヒヒ」
リュカはドン引きしながら振り返る。
リュカ
「……その笑い方ほんと怖いんだけど……」
死神は骨の指を振った。
死神
「慣れろぉ……イヒヒヒヒヒ……」
アイゼンハワードは頭を抱える。
アイゼン
「……やれやれ。面倒なのを引き連れちまった。」
ルアーナは笑って歩き出す。
ルアーナ
「なら、私たちがフォローしてあげるわ。
行きましょう、先生。」
氷の地を抜け、三人と死神は西を目指して進む。
吹雪も巨人も、もう背後の彼方。
だが新しい都市国家では、
さらに厄介で奇妙な運命が待ち構えていることを、まだ誰も知らなかった。
「アイゼンハワード最後の旅2~氷槍の死と生の選択~」
ー完ー




