第6話 巨人の心臓部へ ― 氷槍脱出作戦
氷の大地が低く鳴動し、青白い光が地中から脈動する。
囚人たちはバラバラに倒れ、生命力を吸われて痩せ細っていく。
ルアーナは青い日記帳を押さえ、息を呑んだ。
ルアーナ
「やっぱり……この光……巨人の心臓部と“鉱石反応”が同調してる……!
このままだと全員、魂まで抜かれる……!」
アイゼンハワードは杖を突き立て、
老人のはずなのに、黒いコートの裾を風に翻し、
まるで若き怪盗時代のような鋭い目で巨人の光源を見据えた。
アイゼンハワード
「心臓部を止めるしかねぇ……。
じいさんの寿命は安売りじゃねぇが……まあ、使いどころだろうな」
そのとき――
背後から氷壁が砕け、看守隊が雪煙を上げて突撃してきた。
盲目の看守長バルゴが、杖の代わりに氷鉄の槍を地面に突き刺す。
振動が四方へ広がり、まるで世界の音を聞き取っているようだった。
バルゴ
「……逃走者、二十三名。
そのうち九名は動悸が弱い……巨人に吸われているな」
彼は顔を上げ、
見えないはずの“巨人の目”を真っ直ぐに見た。
バルゴ
「この大陸を壊す気か。
黙って見過ごすわけにはいかん……!」
氷の狂風が吹き荒れる中、バルゴは静かに命じた。
バルゴ
「追撃、続行だ。
逃げる者は殺す――それが北の掟だ」
看守隊が雪煙を巻き上げ一斉射撃。
氷弾が夜空を裂き、囚人たちを追い込む。
地下の裂け目が広がり、
その奥に“北の巨人”の心臓部が浮かび上がった。
巨大な氷塊に包まれた球状のコア。
青白い光が脈打つたび、空気が震える。
コアの表面には、人間の街ほどの大きさの“紋様”があり、
それが鼓動に合わせて淡く光り――
まるで巨人自身が目を開き、囚人を見ているようだった。
アイゼンハワードが杖を構えた瞬間、
黒い霧が背後で渦を巻き、
死神が“肩に顎を乗せるように”現れた。
死神
「いやァ……やってくれるね、じいさん。
まさか巨人と“魂の取り合い”になるとは思わんかったよ……
いやぁ、胸がドキドキしてきた……イヒヒヒヒヒ」
巨人の光がさらに強まり、囚人たちの体が浮き上がり始めた。
囚人
「だ、だめだ……力が抜ける……!」
死神は指先を鳴らし、黒い影を伸ばす。
影は巨人の光を絡め取り、一瞬だけ吸収を止めた。
死神
「ほら、じいさん。
死ぬのは“その後”でいんだろ?
ちょっとだけ手ェ貸してやるよ……」
アイゼンハワードは振り向かず、
アイゼンハワード
「俺は死ぬ気なんざ、さらさらないぞ。
全員連れて脱出……それだけだ」
死神は薄く笑った。
死神
「フフ……口が減らねェ老人ほど、死ににくい。
……いいねぇ。そういうの好きだよ」
氷の光の中、ルアーナのコートから
一冊の“青い日記帳”がこぼれ落ちた。
アイゼンハワードの目が細くなる。
「……それ。まさか“心臓部の生体構造”の記録か?」
ルアーナは一瞬迷い、しかし決意を固めた表情で言った。
「これは……元々“治療研究”のためのデータよ。
でも上層部は“兵器化”に使おうとしていた。
私は……もう裏切るしかないの」
彼女の瞳には強い涙の光があった。
ルアーナ
「このコアを止める方法……載ってるわ」
アイゼンハワードは低く笑った。
「お嬢ちゃん、最初からそう言やあよかったのじゃ」
巨人の影が天を覆い、氷の谷が崩れ始めた。
その影が囚人たちに伸びる。
死神が一歩前に出る。
「そりゃ、オレの“獲物”だ……
順番抜かしは感心しねぇな、デカブツ……」
影と影がぶつかり、
青白い光と漆黒の闇が爆ぜた。
巨人の影
「------」(言語にならない怒りの咆哮)
死神
「あ? 文句あんのか?」
死神は狂ったように笑いながら、
巨人の吸収光を押し返す。
死神
「死ぬのは……まだ“後”がいい……イヒヒヒヒ!!」
老人と死神、科学者と囚人たち。
氷の谷で、絶望と希望の境界線が揺れ動く。
次の瞬間、アイゼンハワードが叫ぶ。
「全員――心臓部まで走れ!!
ここで終わるには、人生が惜しいだろう!!」




