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【ランキング12位達成】 累計62万7千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
「アイゼンハワード最後の旅2~氷槍の死と生の選択~」

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第4話 氷の谷での大追跡戦

氷嵐が収容地を飲み込む夜。

監視塔の赤い警報灯がぐるぐる回り、金属が裂けるような警報が響いた。


ウウウウウゥゥゥゥン!!


雪煙の中、盲目の看守長バルゴがゆっくりと立ち上がる。

耳ではない。

足裏で、氷の震えを“聴いている”。


バルゴ

「……逃げ道は一つ。氷の谷だ。」


看守たちがざわつく。


看守A

「え、見えてもいないのに……?」


バルゴは氷に手を触れ、わずかに微笑む。


バルゴ

「逃げる老人は……足跡が重い。」

「希望を抱えた子どもは……足跡が温かい。」

「どちらも……まっすぐ“谷”へ向かっている。」


氷点下の空気が凍る。

彼は杖を鋭く指し示した。


「全員、追え。逃亡者は氷へ還せ。」


看守部隊が一斉に駆け出す。

スパイクシューズが火花を散らし、吹雪へ吸い込まれていった。


その背後に、ふわりと黒い影。

死神が現れ、肩を揺らして笑う。


死神

「おお〜始まった始まったぁ。

老人とガキの20名の囚人との逃走劇……風情あるじゃねぇか……イヒヒヒヒ!」


バルゴは死神の方向へ視線も向けず、ある一点を見据えるように呟く。


バルゴ

「氷そのものが……笑っている。」

「この夜は、何かが蠢いているな。」


死神が喉を鳴らす。


死神

「蠢いてるさぁ。地下の“巨人”が、ねぇ……イヒヒヒヒ。」


氷の谷は、白い霧と斜面が延々と続く、天然の迷宮だった。


アイゼンハワードは杖を突きながら、

20名の囚人を導いて谷へ滑り下りる。


リュカが不安げに言う。


リュカ

「おじいちゃん、本当にこっちで合ってるの……?」


アイゼンハワード

「合ってようが外れてようが、他に道はねぇんだよ坊主。

人生も道も細けりゃ細いほど、踏み外したとき面白ぇ。」


老人らしい皮肉。

しかしその声は、どこか軽く、どこか優しい。


後ろからルアーナが走りながら叫ぶ。


彼女のコートは白い霜で覆われ、

腰には金属製の小型装置「氷結反応器」が揺れ、

胸ポケットには青い日記帳がしっかり入れてある。


ルアーナ

「あなた……本当に逃げ切る気?

看守たち、全員来てるのよ!」


アイゼンハワード

「だったらもっと走れ嬢ちゃん、

足が遅いと人生は短くなるぜ。」


足元で突然、氷が「バキンッ!」と割れた。


斜面の上から

看守部隊がスパイク付きの靴で氷を滑り降りて来る!


シャーーーーッ!


バルゴの声が、嵐の中に落ちる。


バルゴ

「風向き……良し。

距離……100。

逃亡者……21。

最初に狙うは――老人だ。」


鬼のような執念深さが、氷上を支配した。


前方から轟音が走った。


ゴゴゴゴゴゴ……!!


氷の地面が45度――

いや、50度近くにまで傾き始めた!


囚人の1人、元物理学者が叫ぶ。


囚人(物理おじさん)

「ヤバいぞ!!氷盤の傾斜が限界角を超える!!

全員滑り落ちるぞ!!」


アイゼンハワードは杖を氷に叩きつける。


バシュン!!

氷の波がせり上がり、滑落方向を変える“氷の道”が生成される。


アイゼンハワード

「さあ行け!ここは年寄りのアドリブだ!」


囚人たちが歓声を上げて走り出す。


だが。


次の瞬間、足元の氷が崩れた。


リュカ

「うわっ——!!」


少年の体が宙へ投げ出される。


下は

白い霧の底なしの断崖。


死神が現れて、リュカの耳元に囁いた。


死神

「落ちるなら今が最高だ、リュカ坊……

死ぬ瞬間って……芸術だからねぇ……イヒヒヒヒ」


アイゼンハワード

「——黙れッ!!」


老人の声が谷に響いた。


杖を叩きつける。

氷がせり上がり、わずかにリュカの落下速度を遅らせる。


アイゼンハワードは氷の斜面を滑り、

最後の一歩で身を投げるように手を伸ばした。


ガシッ!!


リュカの腕を掴んだ。


リュカ

「おじいちゃん……!」


アイゼンハワード

「坊主、そこで死んだら……ワシが逃げる理由がなくなるだろうが。」


死神の声が止まった。


一拍の沈黙。

その後、乾いた笑いが響く。


死神

「へぇ……助けるんだ……?

老人ってのは、意外としぶといなぁ……イヒヒヒヒ」


氷上にバルゴの足音が近づく。

彼は振動だけで状況を理解していた。


バルゴ

「老人が……少年を引き上げた。

……愚かな。

優しさは、死を呼ぶ。」


彼は杖を構え

追撃戦は、さらに加速する。


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