第3話 脱走計画の決行
氷槍の夜、視界ゼロの凍結嵐。囚人たち20名を率いるアイゼンハワード。
背後には不気味に笑う死神。
その時、雪煙の中から、青いコートを翻しながら一人の女性が走り出す。
ルアーナだ。
腰のベルトに取り付けられた小型の氷結反応式の装置がチカチカと光を放ち、冷気を制御している。手には青い日記帳。雪の中でもその瞳は冷静に光っていた。
「私も行くわ! ここはもう地獄よ!」
アイゼンは杖を肩にかけて振り向く。
「おお……科学者の気迫、見せてもらおうか」
ルアーナは装置を床に置き、微量の熱エネルギーで氷壁を安定させる。
「これで凍結トンネルの通路は持つはず……計算通り」
少年リュカが小さな手で装置の一部を支えると、彼女は軽く笑った。
「ふふ……意外と手伝い上手じゃない」
アイゼンハワードは杖を肩にかけ、雪の中をゆっくりと歩く。
「フフ……おじいちゃんの最後の大冒険、始めるか……」
背後から、黒い影。死神が骨の指を鳴らしながら耳元で囁く。
「逃げても死ぬし、止まっても死ぬ……ほら、楽しくなってきたろ?イヒヒヒヒ」
少年リュカが目を丸くして聞く。
「先生……本当に……逃げられるんですか?」
アイゼン、杖を雪に突き刺し、にやりと笑う。
「ワシが老人魔族だからって、舐めるなよ。氷の壁も、雪の嵐も……全部ワシの手の内じゃ」
その時、氷の壁の向こうから足音。
盲目のバルゴ看守長が鋭く声を上げる。
「裏切り者め……死にたいのか」
視線の代わりに音と気配で全てを感知するバルゴ。
凍った地面を蹴る足音が迫る。
そこへ、ルアーナが息を切らしながら走ってくる。
彼女は杖は持たず、両手で氷結反応式の装置を抱えている。
「私も行くわ!ここはもう地獄よ!でも杖なんて持ってません、計算と装置でなんとかするわ!」
アイゼンは肩をすくめ、少年に目配せ。
「フフ……この娘、少しは気合があるな。ワシの計画に付き合えるか?」
リュカがきょとんとして言う。
「計画……?」
死神が空気を裂くように笑い声。
「ああ、逃げる宴の始まりさ……イヒヒヒヒ」
バルゴの杖が雪を蹴り、氷の壁に反響する。
「位置は……右手前、トンネルはそっちだ。見えなくても感覚は逃さない」
アイゼンは杖で氷壁を叩き、凍結した通路を少しずつ開ける。
「よし、みんな後ろに続け……雪も氷も、ワシが道を作る」
ルアーナは装置を床に設置し、氷の壁を微量加熱して通路を一時的に安定させる。
「ふふ……計算通り。寒さより科学の力よ!」
少年リュカも小さな手で装置の一部を支える。
「先生、僕も……手伝います!」
アイゼンは杖を振り、雪と氷の粉塵を蹴散らす。
「よしよし……おじいちゃんの力と、お嬢の科学力のコラボじゃ!」
ルアーナが小声で笑う。
「……変な老人ね。でも……なんか頼もしい」
北の嵐が彼らを包む。
背後で死神がまた不気味に笑う。
「さあ、北の宴の始まりだ……イヒヒヒヒ」
凍てつく夜、老人魔族・少年・科学者・死神
脱走計画は、まだ始まったばかりだ。




