第2話 収容地で異変発生
北の大陸、氷槍の収容地
凍りつく風が鉄柵を叩き、氷の壁がヒビ割れる。囚人たちは凍えながら鉱石を運ぶ。
地下から轟音。鉄と氷が軋む。
「……心臓の鼓動だ。地下で、何かが動いている」
盲目の看守長、バルゴが低くつぶやく。長身、黒マント。目は見えないが、空気の振動、囚人の息遣い、心の温度まで読める――まさに北の掟を体現する男。
「音だけで、奴の位置がわかる……?」
ルアーナが恐る恐る囁く。
「耳だけじゃない。振動、気配、心の鼓動……すべて読む」
バルゴは氷の床に杖を軽く叩き、空気の微細な反響で地下の鉱脈を“視る”。
「逃げる者は殺す。それが北の掟だ」
地面が震える。
「ゴォォォ……」
地下の氷が割れる音。
リュカは手元の絵本を握りしめる。
「……生きたい……太陽を……見たいんだ……」
突如、巨大な影――北の巨人が地下から姿を現す。
その体は氷と鉱石で覆われ、目は鉱石の光を反射して赤く光る。
「ドゴォォン!」地響きが収容地全体を震わせる。
「……こ、これが……巨人……」
ルアーナの声は震え、囚人たちは凍りつく。
一方、例の黒い影が笑う――死神だ。
骨の指を鳴らし、氷の空気を裂く声。
「おお……崩壊の予感、大好物だなぁ……イヒヒヒヒ」
アイゼンハワードは杖を肩にかけ、雪まみれの足でゆっくりと歩き出す。
老人だが、目は鋭く、背筋に宿る老魔族の力が光る。
「フン、巨人か……久しぶりに体を動かす理由ができたな」
バルゴが氷の床に杖を叩きつける。
「奴の心拍、感情、振動……すべて読める。今だ、巨人の隙を狙え!」
リュカが絵本を握りしめながら叫ぶ。
「先生……僕、何か手伝えるかな?」
死神が突然、耳元で不気味に笑う。
「ほほう……少年よ、よく動くな……あんたも巻き込まれるとはね……イヒヒヒヒ」
地下から巨人が手を振り上げ、鉱石の破片が飛び散る。
バルゴは目を閉じたまま、感覚だけでその動きを読む。
「左腕の振り……重心は右……よし、逃げ場はこの角だ」
リュカが思わずつぶやく。
「……生きたい。外の世界、見たい……」
アイゼンは杖を振り、雪と氷の粉塵を蹴散らしながら笑う。
「さあ……おじいちゃんの力を見せてやるか」
死神は空を舞い、氷槍の収容地を見下ろしながら骨の指を鳴らす。
「ああ……崩壊の宴、楽しみだなぁ……イヒヒヒヒ」
凍てつく北の大陸
老人魔族と少年、盲目の看守、そして地下で目覚めた北の巨人。
絶望と希望、恐怖と笑い、破滅の予感が入り混じる夜が、幕を開けた。




