第1話 囚人街の少年リュカ
北の大陸、氷槍の収容地。
寒さも痛みも死も、すべてが日常という極寒の地である。
囚人たちはみな血と泥にまみれ、凍えながら働く。
その中でひときわ目を引く少年がいた。
名はリュカ、14歳。
体は華奢、でも瞳は透き通るほど澄んでいて、氷の世界に一筋の光を差す。
彼の唯一の宝物は、死んだ母が残した絵本。
外の世界の色、匂い、光……それを胸に、今日も息を潜める。
「……生きたい。見たいんだ……太陽。」
そんなセリフをつぶやく少年に、普通なら「やめとけ」と言うだろう。
しかしここに現れるのは、老人魔族のアイゼンハワード。
杖をつき、背中を少し丸め、肩をカクンと揺らしながら歩く。
だがその目は鋭く、経験と知恵の重みが漂う。
死神が背後で骨の指を鳴らし、いつもの笑い声。
「ふふ…こいつは面白そうだ…イヒヒヒヒ」
アイゼンは少年に近づく。
リュカは小さく身をすくめるが、恐れるよりも興味を抱く。
「お前、こんな地獄で何を見てる?」
少年は小声で答えた。
「……太陽を。」
アイゼンは杖をつきながら鼻で笑った。
体は衰えたが、視線は少年の心の奥を見抜く。
「ふーん、太陽ね。まだ生きたいか……フン、まあ、老人には老人の戦い方ってもんがある。
ちょっと面白いこと教えてやろう。ついてこい」
死神が影のように近づき、骨の指を鳴らす。
「ふふ…さて、これからどうなることやら……イヒヒヒヒ」
少年リュカ、そして死神と共に、
アイゼンハワードの“北の大陸での希望探しの旅”が静かに、だが確実に動き出した。
外は極寒、でも中はちょっと熱い。
それが魔族と少年、そして死神の珍道中の始まりである。




