序章 死の北の大地
大陸最北端。
地図の端に「ここから先は命の保証なし」とでも書いてありそうな、
白と黒しか存在しない世界。
その名も——
『氷槍の収容地』。
刺さるような冷気、
耳をちぎる暴風、
空から降るのは雪じゃなくて氷の針。
ここに送られる連中はというと、
裏切り者、反逆者、政治犯、その他“社会のお荷物扱い”の人々。
まあ簡単に言えば、
「君たちには未来がありません」と国から直々に言われた人たちだ。
そして彼らは毎日、こう叫ぶ。
「働けぇ!働けぇ!……で、最後は凍死だ!」
看守の声が風に乗り、
氷の谷にこだまする。
さて。
その“死ぬための職場”に、ひとりの黒ローブ男が雪を踏みしめて現れた。
名前は
アイゼンハワード。
過去の事件で“ちょいと派手にやらかしてから”、
自分の存在意義を見失った男だ。
その背後には、
影がへばりついたような黒い形の“誰か”がついてくる。
そう、あの“死神”である。
死神は今日もご機嫌である。
「いやぁ〜寒い寒い。凍死の匂いがプンプンして最高だねぇ……イヒヒヒヒ」
アイゼンはため息をつくだけだった。
◇◇◇
アイゼンがたどり着いた先には、
信じがたい光景が広がっていた。
氷に閉ざされた鉱山。
青白い光を放つ“謎の鉱石”。
血を吐きながらツルハシを振り下ろす囚人たち。
彼らを監視するのは、笑わない看守たち。
まるで氷の像みたいで、心も凍ってる。
だが一番寒いのは空気じゃない。
“裏で消されていく真実”だ。
この収容地はただの刑罰場じゃなかった。
いやいや、とんでもない。
ここは——
生きるか死ぬかの“実験場”であり、
エネルギー鉱石を採るために作られた巨大なブラック工場だった。
死神はその光景を眺めながら肩を震わせた。
「あ〜こりゃいい。
死と絶望がフルコースで味わえるレストランだねぇ……イヒヒヒヒ」
アイゼンは、冷たい風よりも冷えた眼で収容地を見渡した。
彼の胸に浮かんだのは、
怒りか、哀れみか、
それとも復讐の炎か。
氷の世界に、
黒い影と魔族の足跡が刻まれる。
北の大陸で、アイゼンハワード最後の旅が始まった。




