第10話 最終決戦 ― そして死神と乾杯
夜の街は、まるで舞台の幕が上がる直前のように静かだった。
風が止み、世界が一瞬だけ呼吸を忘れる。
その中心に、死神が立っていた。
黒いローブを揺らし、骨の指で鎌をくるくると回す。
死神
「アイゼンハワード……
いよいよ“あんたの最後”を見届ける時間ですよ。
イヒヒヒヒ……」
アイゼン
「そう急かすな。老人には準備運動が必要なんだ」
杖をトントンと地面に打ち込む。
青白い魔力の波紋が街路樹の影を揺らす。
シャルロット
「爺さん、本気出すのね……!」
少年
「爺さん、死神相手に勝てるの!?」
アイゼン
「勝つんじゃない…“生き延びる”んじゃ」
死神が指を鳴らす。
街の灯が一斉に落ち、完全な暗闇。
死神の声だけが響く。
死神
「さあ……
“死に場所探し”の旅も、ここで終わりかい? イヒヒヒヒヒ!」
瞬間、数十本の死鎌がアイゼンに飛ぶ。
だが老人は、まるで踊るようにかわした。
アイゼン
「おいおい、死神のクセに手加減なしとはひどいじゃろ!」
死神
「老人だからといって甘やかすと思いましたか?
イーヒッヒッヒ!」
アイゼン、地面に杖を突き刺す。
《老魔族奥義・千年逆風》
街が一瞬、巻き戻るように揺れ、
死神の死鎌が空中で逆回転して戻っていく。
シャルロット
「なにそれ!?そんな大技あったの!?」
アイゼン
「大技はな、人生と同じで“ここぞ”という時に使うんじゃ」
死神
「これは……面白くなってきましたねえ……イヒヒヒ!」
死神は手の平から大量の幻影を作り出した。
骸骨の兵士、亡者の影、巨大な手……。
死神
「さぁ若造ども……楽しませておくれ。
イヒヒヒヒヒ!」
少年
「や、やるしかないっ!!」
シャルロット
「じいさんにばっかり任せられないわ!」
少年は盗賊仕込みの身軽さで影を翻弄。
シャルロットは小悪魔的に幻影の弱点を突く。
二人
「いっけぇぇぇぇーー!!」
見事に幻影軍団を粉砕!
死神
「……ふむ、これは予想外。
成長したじゃないですか……イヒヒヒ」
アイゼン
「ワシの弟子よ。なめたらあかんぞ」
少年
「弟子じゃないけどね!?」
シャルロット
「弟子じゃないわよ!!」
死神が大鎌を振り下ろす。
死神
「終わりの時間です……アイゼンハワード!!
イヒヒヒヒヒッ!」
アイゼン、ニヤリ。
アイゼン
「終わりはな……自分で決めるもんじゃ!」
杖を高く掲げる。
《魔族奥義・金色魔炎》
金色の光が爆発し、夜の街を照らす。
死神の影が吹き飛び、黒いローブがひるがえる。
死神
「なっ……!?
これは……まだこんな力が……!」
アイゼン
「歳を取ると、力は落ちる。
だがな……“想い”は熟成するんじゃよ」
死神、膝をつく。
だが……ゆっくりと立ち上がる。
死神
「ククッ……まいった参りました。
どうやら……まだ“死ぬには早かった”ようですね。
イヒヒヒ……!」
アイゼン
「そういや、死神よ。
最後に一杯どうじゃ?」
死神
「え?いいんですか?イヒヒヒ!」
シャルロット
「いや飲むんかい!!」
少年
「仲良いなこの二人!!」
三人と一柱は、屋台の酒を飲み干す。
死神
「アイゼンよ……また会いに来ますからね。
あなたの“最期”を見届ける、その日まで。イヒヒヒ」
アイゼン
「生憎じゃが……
“死ぬのはまだ先じゃ!!」」
風が吹く。
アイゼンのマントがひるがえり、
老魔族は夜の闇へと溶けて消える。
少年
「……行っちゃった」
シャルロット
「まったく、あのじいさん……自由すぎるわ」
死神
「さて、追いかけますかね……
死に場所を探す老人の旅は、まだ終わらん……イヒヒヒヒ」
闇夜に足音だけが響いた。
「アイゼンハワード最後の旅 ~死に場所を求めて~」
ー完ー




