第4話 怪盗少女との遭遇
月がやけに冴えた夜だった。
石畳の路地を歩いていたアイゼンハワードは、妙な胸騒ぎに足を止める。
「ふむ……これは、血の代わりに“事件”が流れ出すニオイじゃのう。」
その時だった。
近くの美術館から、けたたましい警報が鳴り響く。
――ビィィィィィィィィィッ!!!
「おやおや、どうやらこの町にも“お転婆”がいるみたイヒヒヒ」
死神が愉快そうに影から現れる。
ガラス窓を突き破り、赤いマントをひるがえして飛び出してきたのは
怪盗ルパン15世・通称シャルロット。
黒髪ツインテール、仮面の下からいたずらに笑う瞳。
手には高価な黄金像。
「ご機嫌よう、おじいちゃま。宝はいただくわね♡」
「お、おじいちゃま!? ワシのことか!」
アイゼンは杖をクルリと回し、口元を釣り上げた。
「盗みの技は見事じゃが……逃げ足まで見事とは限らんじゃろ?」
ピュンッ!
少女は屋根の上へ軽やかに跳躍。
まるで月光に溶けるような華麗さだ。
「追うぞ、坊主!」
「了解!」
少年は懐からロープを取り出し、建物に引っ掛けながら跳ぶ。
アイゼンも負けず、杖に魔力を込めて――
ドガァン!!
屋根まで一直線に跳び上がる。
「なっ……年寄りの跳躍じゃないわね!」
シャルロットは驚きの声を上げる。
だがそこは“怪盗”。
すぐに体勢を立て直し、煙玉を投げつける。
ぼふんっ!
「むぉっ!? スモークか!」
「師匠!視界が……!」
しかし次の瞬間――
トラップが作動した。
パシンッ!!
足元のワイヤーがシャルロットの足首に絡みつき、宙づり状態に。
「えっ……ちょ、ちょっと!?
なんで私が捕まってるのよ!?」
少年が得意げに胸を張る。
「師匠、昨日あなたが言ってた“4歩目で罠を仕掛けとけ”ってアドバイスのおかげですよ!」
「ほう……ワシ、そんなこと言ったかのう……?」
自分の記憶に曖昧なアイゼン。
そこへ死神がクスクス笑いながら登場。
「まったく……怪盗より老魔族じじいの方が面白いとはねぇ……イヒヒヒ。」
宙づりになった怪盗シャルロットが、悔しげに口を尖らせている。
アイゼンハワードは杖をコツコツ鳴らしながら少年に言う。
「ほぉ……坊主よ、罠の腕も上がったのぉ。
これではワシの死に場所探しがまた遠のくわい。」
少年は得意げに笑って胸を張る。
「えへへ! もっと凄い罠も仕掛けられますよ!」
そこに
カラカラカラッ と骨の音が響いた。
死神が、満月の光に照らされながら背後で骨の指を鳴らし、
ひょっこり影から顔だけ出す。
「フフ……
おじいさんが怪盗捕まえて、
少年が罠仕掛けて、
怪盗は宙づりで……
いやぁ~、ワシ、こういうの大好物なんですよ……」
一拍置いて、死神が肩を震わせる。
「イヒヒヒヒヒヒ!!
次はもっと面白くなりそうですねぇぇぇ……
イヒヒヒヒヒヒヒ!!」
突然、死神は空中に浮かび、グルグル回転しはじめる。
「イヒヒヒヒ!イヒヒヒヒ!
あ〜〜〜面白くなってきたァァァ!!」
シャルロット(宙づり)「ちょ、あんた誰よ!?変なのいるんだけど!?」
少年「えっ、いつもこんな感じですよ」
アイゼンハワード「放っとけ。あれはワシの死に目を見るために付いてくる“付き物”じゃ」
死神は空中でひっくり返りながら、
骨の足をパタパタさせて笑い続けた。
「イヒヒヒヒ!!!
さぁさぁ!!もっと地獄みたいな死の騒ぎを見せてくださいよぉ!!
イヒヒヒヒヒヒ!!!」
月明かりの下
老魔族、怪盗少女、スリ少年、そしてテンションMAXの死神。
チームとしては最低なのに、妙にバランスが取れている4人の旅は、
さらに混沌へと突き進んでいく。




