終章 黒い噂の拡散と狂った世界を振り返る。

東京の街は、未曾有のざわめきに包まれていた。

SNSやニュース、週刊誌、ラジオ――どのメディアも、藤田弘が築いた「見えざる帝国」の痕跡を追い、空気は緊張と疑念で震えている。

カズヤは静かに、自室のPCに向かっていた。

膨大な記録と証拠、男たちの証言、事件の経過――全てを匿名でネットに公開する。

誰もが触れたくなる衝撃の内容だが、同時に真相は断片だけが漂い、全貌は決して明かされない。

アル叔父、アイゼンハワードは紅茶を片手に窓際の椅子に座る。

カップを傾けるたび、都市のざわめきを静かに観察する目。

「人間は、欲と嫉妬の深みに沈む。光に憧れ、闇に操られる。

この事件もまた、心理の迷宮だ」

街を行き交う人々の間では、黒い噂がまるで羽虫のように広がっていく。

男たちはようやく、自分たちが単なる駒であったことを理解する。

だが、後悔や怒りの声は空に消え、虚空に残るのは自己嫌悪だけだった。

一方、警察は藤田弘の自宅に家宅捜査に入る。

書類、サーバー、現金、映像――隠された証拠の山。

藤田は部屋の隅で冷や汗をかきながら、権力の座から一気に引きずり下ろされる。

都市には静けさが戻ったかのように見える。

しかし、カズヤの記録、アル叔父の観察眼が残した「心理の痕跡」は、街の片隅で静かに生き続ける。

誰も知らぬうちに、人々はまた同じ幻想に誘われるだろう。

「真実はいつも半分だけ。残りは、人間の心に残る影だ」

アル叔父の声が紅茶の湯気とともに、静かに部屋に漂った。

そして、都市は黒い噂の羽音を背に、新たな日常へと沈んでいった。

事件が一段落した夜、カズヤとアイゼンハワードは、渋谷の街を見下ろす高層ビルの屋上に立っていた。

ネオンが夜空に散らばり、無数の光が都市を彩る。しかし、その美しさの裏には、人々の欲と嫉妬、そして操作された影が渦巻いていた。

カズヤは手にした事件記録を見つめ、低く呟く。

「芸能界……狂った世界だ。光と影、表と裏がこんなにも入り乱れているなんて……」

アイゼンは静かに頷き、鋭い目で街を見つめる。

「人間は、常に自分の欲に操られる。力と美貌に群がり、真実より幻想を追い求める……この舞台は、まさに狂気の箱庭だ」

二人の目の前には、スキャンダルの渦と操られた男たち、そして事件の痕跡が広がっていた。

報道は終わりを告げたが、真実の断片は都市の隅々にまだ残り、誰も知らぬうちに人々の心を揺さぶる。

カズヤは深く息を吐き、記録を胸に抱く。

「でも、俺たちは見た……この狂気の裏側を。これを記録として残す意味がある」

アイゼンは冷静に観察しながら微笑む。

「そして次に誰かが同じように翻弄されても、この都市には少なくとも警鐘の声が残る……」

二人は互いに視線を交わす。

芸能界の光に魅せられ、闇に翻弄された人々。欲と嫉妬が交錯する舞台。

カズヤとアイゼンハワードは、事件を振り返りながら、この狂った世界の真理を静かに胸に刻んだ。

街の明かりが夜空に溶ける中、二人の影だけが冷たく長く伸びていった。

『カズヤと魔族のおっさんの事件簿：狂った世界 人気女優殺人事件」

ー完ー