第七話 報道と権力の蜜の罠
芸能事務所・高倉輝の背後に、
巨大メディア複合体「グローバル・ビジョン・ネットワーク(GVN)」の名が浮かぶ。
そして、その中枢にいるのがテレビ局幹部 藤田 弘。
表向きは誠実なエグゼクティブ・プロデューサー。
だが裏では、接待・情報操作・スキャンダル潰しの“黒い中枢”だった。
カズヤとアイゼンハワードは、
彼が情報・欲望・人間関係を使って芸能界を支配する構造を暴き始める。
「報道は正義じゃない。“誰の正義を映すか”で形が変わる。」
その言葉を吐いた男の口元には、笑みすら浮かんでいた。
六本木の高層ホテルのスイートルーム。
ワインの香り、ガラス越しに見える東京タワー。
テーブルの上には、高級シャンパンと招待客リスト。
藤田 弘。
テレビ玉の系列局・GVN制作本部局長。
番組一本で数千万の利益を動かす影の支配者。
彼の“接待リスト”には、政財界・広告代理店・芸能事務所の名が並ぶ。
その中に、高倉輝の事務所の名前もあった。
「早川莉奈の件も、松本真希の件も……あれは小さな波にすぎない。
我々が作るのは、“潮流”だ。
そして潮流は、スポンサーが望む方向へ流れる。」
藤田の声は、まるで教祖の説法のようだった。
港区・報道センター。
警察の捜査班が藤田の金の流れを追っていた。
が、決定的な証拠は何一つ出てこない。
佐伯刑事が呟く。
「どの金も“接待経費”で処理されてやがる……。請求書も領収書も、全部“合法”の範囲だ。」
藤堂が眉をひそめる。
「それでも、何かがおかしい。まるで、“裏帳簿”が別に存在するみたいだ。」
カズヤとアイゼンハワードは、
報道局の内部会議に潜入した。
巨大スクリーンに映し出された次週の報道企画。
そこに、莉奈の名前があった。
『独占! 早川莉奈の“逃亡劇”の真実』
だが、その“真実”の内容は、
すべて藤田の指示で捏造されたものだった。
アイゼンが冷たく呟く。
「これはニュースではない。“脚本”だ。」
「藤田弘……。この男、どこまで手を伸ばしてるんだ?」
カズヤが唇を噛む。
「“報道の神”を気取っている。
だが、神が作ったのは世界じゃなく、“錯覚”だ。」
銀座のクラブ“セレスティア”。
藤田は笑いながらワイングラスを傾けていた。
隣に座るのは人気アナウンサー。
彼女の笑顔の裏には、恐怖の影があった。
「君は分かってるね。“報道”は現実を映す鏡じゃない。
現実を“創る魔法”なんだよ。」
そう言いながら、藤田はスマートフォンを操作した。
一通のメッセージがSNSへ投稿される。
「早川莉奈、裏切りの証拠動画流出」。
投稿は一分も経たずに数千件拡散。
まるで見えない手が、世論の糸を操っているようだった。
アイゼンハワードは推理した。
「これは心理の“条件付け”だ。情報を繰り返し刷り込むことで、真実のように感じさせる。人間は“信じたい嘘”ほど容易に信じる。」
「藤田弘……報道を武器にしてる。」
カズヤが呟く。
「ああ。そして彼の狙いは、“支配”。
だが、支配には代償がある。
闇は光を呑み込み、やがて自分をも焼く。」
その夜、藤田の車が湾岸道路を疾走していた。
助手席のスマートフォンに、
見覚えのない通知が届く。
『あなたの秘密を報道します ― 敬具:カズヤとアイゼンハワード』
藤田の顔から笑みが消えた。
闇に潜む者たちが、ついに光を当てられる時が来たのだ。
被害者・芸能関係者
芸能事務所
高倉 輝:45歳/芸能事務所代表、表向き善人、裏でスキャンダル操作に関与
早川 莉奈:26歳/人気女優・モデル
松本 真希:24歳/新人女優・タレント
神崎 彩音:27歳/舞台女優・演技派
三原 聡:30歳/会社員(商社勤務)、莉奈の恋人兼操作対象
黒川 颯:28歳/IT企業勤務、真希の恋人兼操作対象
朝比奈 透:26歳/フリーライター、芸能界スキャンダル情報担当
蓮 京介:24歳/大学生(経済学部)、真希の追っかけ兼操作対象
一ノ瀬 大地:29歳/広告代理店勤務、芸能広告担当
松田 拓也:31歳/芸能プロデューサー、事務所幹部
田所 勇人:27歳/マネージャー、タレント管理担当
警察・マスコミ関係者
佐伯 翔:40歳/警視庁刑事、事件捜査担当
藤堂 翼:35歳/警視庁刑事、佐伯の部下
高橋 梨花:33歳/テレビ局リポーター、現場取材担当
村田 悠人:38歳/週刊誌記者、スクープ狙い
藤田 弘:エグゼクティブ・プロデューサー“芸能界とテレビ局を裏で操る男”




