第六話 偏向報道の真実
芸能スキャンダルの裏で、静かに仕組まれていた“世論の演出”。
早川莉奈失踪事件の報道が、事実ではなく“脚本”であることが露呈し始める。
男たちはSNSとメディアを通じて感情を操作され、
被害者でもあり、同時に加害者でもあった。
アイゼンハワードがその構造を読み解く
「光と影の操り」、それは“偏向報道”という名の現代の魔術であった。
深夜2時、渋谷・テレビ玉本社前。
雨に濡れた街に、無数のモニターがニュースを流していた。
『人気女優・早川莉奈、逃亡の可能性高まる』
『新証言:恋人男性の裏切りか?』
テロップは、まるで“世論の指示書”のように次々と切り替わっていく。
その中身は、真実の欠片すらない。
カズヤが腕を組んだまま呟く。
「まるで誰かが“感情”を設計してるみたいだな……怒り、嫉妬、正義感……」
隣でアイゼンハワードが冷たく笑う。
「そう、人間は“光”を見ると信じたくなる。だが、光には必ず“影”がある。
偏向報道とは、その影を自在に操る術だ。」
アイゼンハワードが手にしていたのは、内部流出した報道企画書。
ページには「心理誘導計画」「SNS拡散パターン」「感情誘発キーワード」といった項目。
「……これ、ニュース番組じゃなくて、広告のシナリオですね。」
カズヤの声は震えていた。
「正確には、“国民感情マーケティング”だ。一般視聴者をターゲットに、怒り・同情・憎悪の感情を統計的に分析して配信している。」
「誰が、こんなことを……?」
「“情報を制す者は、真実すら書き換える”。
それを理解している者だ。」
アイゼンハワードは、目を細めて夜空を見上げた。
雨に溶けるように光る広告看板には、スポンサー企業のロゴが踊っていた。
かつて莉奈や真希に心酔し、スキャンダルに踊らされた男たち。
三原聡・黒川颯・朝比奈透・一ノ瀬大地。
彼らはそれぞれの職場やSNSで、
「報道の指示通り」に発言・投稿を“促されていた”ことに気づき始めていた。
黒川が呟く。
「あの時のDM……全部“自動送信”だった。俺が打ったんじゃない。」
朝比奈は青ざめながらノートをめくる。
「“視聴者心理統計”ってメモ、テレビ局の会議で聞いた……」
三原は拳を握った。
「俺たちは、ただ利用されただけか。」
「いや――」
カズヤが冷たく言い放つ。
「利用されたというより、“操作された”。」
「情報とは、“信じたい現実”を与える毒だ。
そして、光だけを信じる者は闇の存在を知らない。」
アイゼンハワードが懐から1枚の書類を取り出す。
トランプの“スペードのキング”。
裏には古いサインがあった 藤田 弘。
「奴が動いている。情報の演出家、“藤田 弘”。
メディアの内部に巣食い、報道を“ショー”に変える男だ。」
翌朝。
テレビ玉のニュースが、突然差し替えられる。
未確認映像。
夜の街を歩く、莉奈らしき女性の影。
ナレーションは低く囁く。
『彼女はまだこの街にいる。そして次の舞台が始まる。』
報道局の内部は混乱した。誰が映像を差し込んだのか。
誰がナレーションを書いたのか。記録には存在しない“幻のファイル”。
その瞬間、アイゼンハワードが言った。
「虚構が、現実を追い越した。……いよいよ“演出家”の出番だ。」
被害者・芸能関係者
芸能事務所
高倉 輝:45歳/芸能事務所代表、表向き善人、裏でスキャンダル操作に関与
早川 莉奈:26歳/人気女優・モデル
松本 真希:24歳/新人女優・タレント
神崎 彩音:27歳/舞台女優・演技派
三原 聡:30歳/会社員(商社勤務)、莉奈の恋人兼操作対象
黒川 颯:28歳/IT企業勤務、真希の恋人兼操作対象
朝比奈 透:26歳/フリーライター、芸能界スキャンダル情報担当
蓮 京介:24歳/大学生(経済学部)、真希の追っかけ兼操作対象
一ノ瀬 大地:29歳/広告代理店勤務、芸能広告担当
松田 拓也:31歳/芸能プロデューサー、事務所幹部
田所 勇人:27歳/マネージャー、タレント管理担当
警察・マスコミ関係者
佐伯 翔:40歳/警視庁刑事、事件捜査担当
藤堂 翼:35歳/警視庁刑事、佐伯の部下
高橋 梨花:33歳/テレビ局リポーター、現場取材担当
村田 悠人:38歳/週刊誌記者、スクープ狙い
藤田 弘:エグゼクティブ・プロデューサー“芸能界とテレビ局を裏で操る男”




