第五話 過去を映す鏡
【過去を映す鏡】
如月姉妹。殺害前の過去の記憶
都心の高層ビルの一室、地下スタジオの蛍光灯が淡く光る。
そこには二つの鏡が向かい合い、室内の影を何倍にも反射していた。
長女・麗花は、冷たく透き通る美貌で人々を魅了するモデル兼インフルエンサーだった。
表情ひとつで広告の世界を支配する彼女は、光――“蝶”の象徴。
しかし、その笑顔の裏には、常に虚構の華やかさを演じる覚悟が潜んでいた。
次女・美羽、控えめで柔らかい雰囲気を持つ。
SNSで人気を集めながらも、姉リラの影に隠れることを強いられた存在。
光に憧れる影、姉の舞台の後ろで、心の奥に嫉妬と恐怖を抱えていた。
だが、その弱さもまた、周囲を翻弄するための一枚の仮面となっていた。
そして三女・夜露。
整形と偽名を駆使し、世間には別人として存在。
姉たちの活動を裏で完全に掌握し、炎上や熱愛報道、男たちへの支配まで計算していた。
彼女は闇、“蛾”の象徴。影で光を操る存在である。
地下スタジオの空気は、妙に冷たかった。
麗花が衣装に手を通すたび、鏡越しに微かに別の影が揺れる。
美月はそれに気づき、手を止めた。
「また……誰かいる?」
「指示だと思うわ。夜露の」
その声は、かすかに怯えを含んでいた。
二人の背後には、光のように華やかな姉妹の姿と、蛾のように忍び寄る黒い影が同居している。
その時、鏡の向こうから静かな気配が近づいた。
夜露、整形された顔は、麗花に酷似していた。
しかし、その瞳には冷徹な計算が宿り、血の通った人間の温もりは感じられない。
夜露「おはよう。皆、準備はいいかしら?」
その声は、甘くも鋭い刃のように二人の心を貫いた。
麗花は一瞬身を硬直させ、目を細める。
美月は息を飲み、視線を床に落とした。
夜露「今日も演出は完璧に。私の台本通りに動くのよ」
その言葉は、単なる指示ではなかった。
姉妹に課された役割、男たちへの操作、世間への幻想、全てを統括する冷徹な命令だった。
◇◇◇
アイゼンハワードが静かに解説する。
アイゼン「蝶は光に舞う。蛾は闇を知っている。
光は人々を魅了し、闇はそれを操る。この姉妹の構造、理解できるか?」
カズヤは静かに頷き、鏡の中の三つの顔を見つめた。
光の蝶、影の美月、そして計算の蛾、夜露。
誰もが操られ、誰もが知らぬうちに踊らされている。
夜露は微笑む。
その微笑みは、愛も嫉妬も計算に変え、世界を思い通りに動かす力を秘めていた。
鏡の中で、三人の姿が重なり、境界は曖昧になる。
夜露「さあ、今日も舞台は始まる。誰が光で、誰が影か誰も知らないままに」
闇は静かに笑い、光を映す鏡は、三人の秘密を映し続けた。
登場人物一覧
姉妹
如月 麗花:27歳/モデル・インフルエンサー(感電死)
如月 美羽:25歳/モデル・SNSインフルエンサー(絞殺?)
三女:夜露:23歳/正体不明・第三の影として伏線
姉妹に関わる男性たち
三原 聡:30歳/会社員(商社勤務)
黒川 颯:28歳/IT企業勤務
朝比奈 透:26歳/フリーライター
蓮 京介:24歳/大学生(経済学部)
一ノ瀬 大地:29歳/サラリーマン(広告代理店勤務)
警察・マスコミ関係者
佐伯 翔:40歳/警視庁刑事
藤堂 翼:35歳/警視庁刑事
高橋 梨花:33歳/テレビ局記者
村田 悠人:38歳/週刊誌記者




