96
「……そろそろ使いますね」
「ああ」
人気がない森の小道。休憩するために立ち止まり、親役の二人がそんなことを話す。
あたしは末っ子役として、早々に休憩。
お兄ちゃんお姉ちゃん役の二人は休憩するために、野営の準備を始めている。
中途半端な時間に国境を通ったからか、街を出てからは他の通行人とすれ違うこともなかったけど、戦いになった場合街の近くで戦って誰かを巻き込むことになったら悪いから。
ここでシェスタ・マーベレスト国側の奴らが出てこなかったら、また別の場所に移動して、出てくるまで何回か同じようなことを続けるらしい。
シェスタ・マーベレスト国側の奴らが出てくるタイミングは分からない。
あたしたちが通る時に出てくるかもしれないし、他の人たちの時かもしれないし、それはあたしたちには分からない。
ただ、いつ出てきてもいいように、数日掛けてシェスタ・マーベレスト国とグレースと行ったり来たりするだけだ。
「わぁ!」
いつ出てくるんだろうと思っていたら、顔の横を何かが横切って行くので、そちらに視線を向ければ、思わず感嘆のため息が洩れる。
グランディーナさんが生み出した色とりどりの沢山の蝶は幻想的とも言えそうなぐらい綺麗で、任務のことなんて忘れてしばし見惚れてしまった程だ。
蝶を生み出すしか出来ないっていってたけど、こんなに沢山の蝶を生み出せるのは純粋に凄いと思うし、見たことのないカラフルな蝶までいて、あっという間にこの光景に夢中になってしまった。
どうして祝福持ちなのに、あそこまで謙虚なんだろうか?
シェスタ・マーベレスト国と違う国の人だから?
でも、他の国もあの国のせいで祝福持ちの人たちは貴重になってしまったのだから、何かしらはグレース国内でも何かしらの対応はしているはずだから、もしかしたらこの謙虚さはグランディーナさんの性格なのかもしれない。
でも、今はそんなことどうでもよくなるぐらい、この幻想的な光景をもっと見ていたい。
家族設定だから見慣れてるだろうと、言われてしまうかなと思ったけど、こんなの何度見たって見飽きることなんて、出来る訳ないじゃない。
この光景をユリアと一緒に見たかったけど、いないからこの光景のことは忘れずに話そう。
きっとユリアもこの光景を見たいと言ってくれるはずだもん。
しばらくは呆然とその様子を見守っていたが、蝶が全てどこかに飛んで行ってしまって、ようやく我に返った。
それは、あたし以外も同じだったらしく、グランディーナさん以外のメンバーも呆然とした顔をしていた。
「あ、何度見てもお前の祝福は凄いな」
「うふふ」
我に返るのが一番早かったのは誰だったのか。
オレイオさんが声を出した頃に、あたしたちも我に返ったように辺りを見回して、誰もいないことを確認する。
家族設定のことを一瞬忘れかけていたけど、オレイオさんのお陰で思い出せた。
呆然としすぎてグランディーナさんにうっかり敬語で話し掛けちゃうところだったよ。
ちょっと慌てたけど、大丈夫だった。
シェスタ・マーベレストの奴らが現れなかったから、そこでしばらく休憩した後、あたしたちはちょっとずつ移動しながらグランディーナさんの祝福を眺めた。
何度見てもうっとりしちゃって、これじゃあ、シェスタ・マーベレストの奴らが来たとしても、反応が遅れちゃうかもしれない。
気を引き締めないとと、自分に活を入れる。
結局その日はあたしたちのところにシェスタ・マーベレストの奴らが現れることはなかったが、他のチームのところには二回現れたらしかった。
こっちには出なかったのにと、ふてくされそうになったけど、マティーナさんとフィーさんに自分たちは平和に過ごせていたんだから、よかったと思えばいいと言われた。
それでいいの?
よく分からない。
今は分からなくても、その内分かるかもしれないので、頭の片隅に忘れずに覚えておこう。
他のチームの人たちの情報はオレイオさんが、どこからか持ってくる。
あたしも他のチームの情報が気になるので、どこで情報をもらってきているのか気になっていたが、末っ子役の子だからそんなのは知らなくていいとフィーさんに止められてしまった。
「俺らは家族の設定なんだから、危ないことは父さんに任せておけばいい」
「そうよ。それに、あんたが怪我したら妹ちゃんが悲しむんじゃない? 自分たちは怪我しなかったし、あいつらが一人でも捕まってくれたらラッキーって思わなくちゃ」
「う、うん」
マティーナさんの勢いにおされて、頷いてしまう。
二人はこの話は終わりだと言うように、話題を変えてしまった。
今は宿の部屋なのだから、別に家族のフリはしなくてもいいと思うんだけど、二人はあれこれと今日見たものや、食事の味付けなんかの話に移っていた。
そんなに気楽でいいの? と思うけど、二人の言うように敵が来なければ、ただの旅行じゃん。
でも、あたしの疑問に答えてくれる人はいなかったので、いいのかな? と思いながら次の日からも任務に向かった。




