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「お姉ちゃん、また国境に行くの?」
「うん」
ジゼルに声を掛けてから出掛ける用意をしていたらユリアがやって来た。
ユリアは薄ピンクのドレスに身を包み、歩き方は多少ぎこちないものの、前よりはだいぶよくなったみたいで杖も必要なさそうで安心する。
あたしがいない間もリハビリ頑張っていたみたい。
でも、顔は半分仮面をつけたままだし、一生傷は残る。
あの国の王子は絶対にあたしが倒す。そのためには、今やるべきことをしないと。
本当はもっとユリアと一緒にいたいけど、あたしにはやらなければならないことがある。
それはユリアも分かっているから、あたしのことを止めようとはしてこない。
たまに寂しそうな顔をするけど、そういう時は帰って来てから沢山話をしたり、あたしがいなかった間にユリアが出掛けた先のお菓子を買って来て一緒に食べたりすれば、機嫌はよくなるけど、それでも、ユリアの立場からしたら心配なんだろうな。
「帰って来たらまたどっか行く?」
でも、あたしから言えるのはそんな言葉だけ。
ごめんね。
「ううん。次は家でのんびりしない? ジゼルの別荘でもいいからさ」
「そうだね」
ジゼルの別荘は何度か行ったことがある。
山の中にあるから自然が多くてのんびりするのにはうってつけの場所だ。
あそこで過ごすことを目標にしばらくはまた頑張れそう。
ユリアに約束をして屋敷を出る。
今日はお城には行かない。直接国境に向かう予定。
トマスたちもすでに城を出発していることだし、あたしもこの数年乗馬を習ったから一人で馬を駆けさせることも問題ない。
馬に乗って走らせれば、あっという間にジゼルの屋敷は遠くなって行く。
馬の練習を始めた頃は剣の稽古でかなり筋肉がついて来たのに、全身筋肉痛になってびっくりした。
乗馬って普段使ってない筋肉まで酷使するのかと、びっくりさせられたけど、この筋肉痛になった部分を鍛えたらもっと強くなれるんじゃないかって考えて、鍛えるようにしたらちょっとは強くなったような気がしないでもない。
後は実戦で強くなるしかないと言われてるし、あたしもそう思って国境行きを何度も志願していた。
だけど、あいつらの実力はほぼ横並びだから強い人って言われてもよく分からない。
グレースの強い人に指南を仰ごうと思っても、あたしなんて相手にされるはずなんかなくて、ジゼルを通してお願いしているけど、どうなることか。
あの国の城に忍び込みたいとお願いしてから二年掛かったし、今回も同じぐらい掛かったりするのかな?
それは分からないけど、今は国境に向かうのが先決だ。
慣れた風景に思考がそれて行く。
それならそれで時間を潰せるからいいけど、でも、これからあいつらの使っている秘密の通路を探すっていう任務が待っているのだから、あんまり考え過ぎるのもどうかと思う。
余計なこと考え過ぎて怪我なんかしたらユリアに心配させちゃう。
そんなのは嫌だ。
気をつけなくちゃ。
考えこともほどほどにしながら移動していたらあっという間に国境に着いた。
トマスたちはどこにいるんだろ? と探していたらすぐに見つけて合流する。
「とりあえず、道なりに進んでくつもりだが何かあるか?」
「そういえばこの中で誰が祝福持ちなんですか?」
みんな騎士だから守る必要はないのかもしれないけど、知っておいた方がいいのかもしれないと思って聞いてみる。
トマスたちは一瞬顔を見合せた後何事か囁き合っている。
あたしの立場のことは前から色々と言われている。最近はそういう目で見られるのも慣れたと思っていたのに、目の前でヒソヒソされるとうんざりするというよりは傷つく。
見えないところでやって欲しかった。
「すまないラナ殿こちらの確認不足だったのだが……」
「はい?」
目の前での内緒話にショックを受けている間に内緒話は終わったみたいだけど、何故か全員言いにくいことがあるとでも言いたげな顔をしている。
何でそんな顔をするのか分からなくて、返事に困る。
「実は我々の確認ミスで、祝福持ちを連れて来るのを忘れてしまった」
「え」
もしかして、さっきヒソヒソしていたのって、それ?
てっきりあたしが嫌われているからそんな態度を取られてるんだと思ってたけど、違ってたんだ。
思わず安堵の息を吐きそうになったけど、今はそのタイミングじゃない。
トマスたちが祝福持ちじゃなければ、今この場には祝福持ちは一人もいない。
一般の人間で国境に近寄る人なんてもういないのだから、誰か一人ぐらいは祝福持ちがいないと困る。
「今から王都に戻って祝福持ちを連れて来ますか?」
「それだと時間が掛かる……だが、いないのだからそうするしかないな」
トマスは困ったと言いたげな顔をしていたが、仕方ないと諦めたような顔になり、一緒に来た騎士の一人に声を掛け、その人は頷いて王都へと戻って行った。
その間あたしたちは出てこないと分かっていたけど、国境付近を捜索していた。




