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41.男装/女装せずに、計画を練ります(後)

「ライアンに婚約者を考えている恋人がいれば、話は早かったんですけどね……」


 そんな人がいないのは、分かり切っていることだった。行き詰ってきたところに、ミアがくりっとした目をルーチェに向ける。


「なら、できることとしては、ライアン様に不満を持つご令嬢たちと一緒に、ルーチェ様のお気持ちを伝えるぐらいでしょうか」

「それはできると思いますけど……。正直、今まで散々言っても聞かなかったので、効果があるとは思えないんです」


 香りのよい紅茶を飲みながら、「考えてくれてありがとう」とミアを気遣う言葉を口にしてルーチェは首を横に振る。他のご令嬢たちと一緒にというのはなかなか爽快ではあるが、逆に開き直るのがライアンである。


 話が出きったところで、アレンは「つまり」と指を折りながら出てきた問題を数え上げる。


「ライアンを懲らしめて女遊びを止めさせること、王女に婚約を諦めさせること、俺達にはどうにもできないけど武器の密輸……厳しくない?」


 権力も人脈も乏しい令息、令嬢では荷が勝ちすぎる。空気が重くなったため、ルーチェは慌てて明るい声を出す。


「大丈夫ですよ。こうやって愚痴を聞いてもらえただけでもすっきりしましたし、我慢できなくなったらライアンの顔以外を叩きのめすので」


 剣など持てそうもない顔で、男前な発言をするルーチェにミアが「素敵!」と声を弾ませれば、ルーチェが照れくさそうに笑った。その破壊力抜群の笑顔を正面で受けたミアは、頬を押さえてキャッキャとはしゃぐ。


(いいなミア。俺もその笑顔を向けられたいし、騒ぎたい!)


 だが、場が賑わっても問題解決の糸口が全く見えていないが事実であり、「で、どうすんだ?」とフレッドの現実に戻す声に、全員が口をつぐんで考え込む。あーでもない、こーでもないとそれぞれ案を出すが、根本的な解決には程遠いものだった。


 ルーチェは真剣に考えてくれる三人に、自然と胸が温かくなり笑みが零れた。家族でもない彼らが、自分のために時間を使い考えてくれることが泣きたいくらいに嬉しい。その中心にいるアレンは

「ん~」と眉根を寄せて考え続けてくれていた。


(本当に、アレン様はお優しい。そんなアレン様だから周りの方たちも素敵なのね)


 ルーチェは事態が解決していなくても、彼らと時間を共にできたことで随分救われていた。これ以上彼らに時間を取らせるのも申し訳なく、外も暗くなって来たためそろそろお暇をしようかと考えたその時、ノックの音がして全員の視線がドアへと向けられた。


 ダリスが取り次ぎに行き、「え」と短い声を上げる。アレンとミアはダリスが驚くなんて珍しいと顔を見合わせ、ついで小首をかしげた。要件が全く思いつかないからだ。もしかして両親が何か言って来ただろうかと当たりをつけていると、緊張した面持ちのダリスが戻り、四人の顔を見まわしてから要件を述べる。


「カミラ・ヘルハンズ侯爵令嬢がお見えになりました。皆様にお会いになりたいとのことです」


 一瞬、告げられた名が予想の外過ぎて理解が遅れた。最初に反応したのは騎士団所属であるフレッドで、


「えぇ、カミラ近衛騎士!? なんで! 俺、何かしたっけ。勤務を早抜けしたのまずかった!?」


 と顔を青くしていた。アレンとミアは家としても関係が薄い彼女の来訪に、顔を見合わせて首を傾げる。


「ミアは何か知ってる?」

「う~ん、この前お母様と行った茶会でご挨拶をしたくらいよ」


 そんな中、ルーチェは「あ」と思い当たることがあったようで、申し訳なさそうにミア、フレッド、最後にアレンと視線を滑らせた。


「ごめんなさい……。私が手紙でアレン様とライアンのことを話してくるって書いたからですわ」


 ルーチェはカミラに進展があれば報告すると約束していたため、無事解決したことを伝え、ライアンへの対応をブルーム家で話してくること今朝の手紙に書いていたのだ。まさかのつながりに、アレンは目を瞬かせてルーチェを見返す。


「なんで、カミラ近衛騎士に?」

「えっと、実は王宮の夜会の時に、私が男装しているって知られたんです……。それから、気にかけてくださっていて。あ、アレン様のことは伝えていませんので!」

「それは気にしなくていいけど……。何の用だろう」


 アレンの心持ちは、ルーチェという姫を取り戻しに騎士の襲撃を受けた悪役のようで、心臓が嬉しくない早鐘を打ち、掌に嫌な汗が滲む。表情の硬いアレンに、ダリスは申し訳なさと困惑が混ざった表情で、さらに情報を追加する。


「急な訪問のお詫びにと、いくつかワインと干し肉をお持ちになっていらっしゃって、今軽食とお酒を用意しております。その間、ワインセラーを見てもらっているようです。なので、皆さまにも移動をお願いします」


 ダリスに促されソファーから立ち上がった四人の頭には、酒豪の二文字が浮かんでいるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] お酒が入ると、妙な案を妙案だと思い込みやすい
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