第44話 進撃のツクヨ
12時間後のドキドキ早押しクイズはツクヨしか回答者が現れませんでした。
回答者を何とか集めようとするも誰も呼びかけには応じず、ヒミカに連絡を取ろうとするとツクヨから、『またヒミカ姉様を呼んだりしないわよね』という無言のプレッシャーがカシコマルを襲ったことでただただ時間だけが過ぎていきました。
それは実際の時間では大したことはありませんが、カシコマルの体感時間では何日にも、いや何週間にも及ぶ時間に感じられました。カシコマルは圧倒的なストレス過多により、心を病み、それによって心から肉体も病み、とうとう光となって消えて行きました。
カシコマルは消えて行くその時、「ようやく……解放じゃ」と微笑みました。
こうして、ドキドキ早押しクイズを突破したツクヨは鬱憤を晴らすかのように、怒濤の勢いでダンジョンを突き進んでいきました。それはまさしく侵略、蹂躙という言葉がふさわしい進み方でした。
あふれ出す神力を留めることなく、あたりにまき散らし、ダンジョンは極寒の地獄と変わっていきます。
モンスターがツクヨに近づこうにも、冷気が強すぎて、ツクヨの神力が及ぶ範囲に入るとカチンと凍ってしまい、即座に光となって消えて行きました。
ダンジョン内を自由にうごく事が出来るモンスター達は、ツクヨと戦うことは無理だと判断し、ツクヨから逃げることに全力を尽くすようになります。モンスター達は鬼ごっこで鬼から逃げるように、ツクヨから全力で逃げ続けるのでした。
しかし、ダンジョン内には逃げることの出来ないモンスター達もいます。
それは階層を任されたフロアマスター達です。ヒミカへの忠誠心を支えにツクヨに立ち向かっていきますが、相手は三大神の一柱。勝負になりません。
100階層のフロアマスターであるカシコマルのように知恵を比べを設定するモンスターがいなかったのもその一因です。ヒミカ様に戦っている姿を見ていただきたいと思うモンスターたちが多かったのです。
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ツクヨの猛威がダンジョン内で吹き荒れる中、ダンジョンの最下層では、ヒミカとタキリがスクリーンに映し出されるツクヨの進撃を身を震わせていました。
「タキリちゃん、ツクヨちゃんがちょっと怒っているように見えるのは気のせいかしたら」
ヒミカの問いかけにタキリはゴクリとつばを飲み込んで答えます。
「い、いえ、ヒミカ様。
ツクヨ様はちょっとではなく、かなり怒っているように見えますよ」
「ツクヨちゃんは、いったいなんであんなに怒っているのでしょう?」
「えっと、ヒミカ様が100階層のドキドキ早押しクイズに行かれた後から、ツクヨ様はあんな感じですよ」
「えっ、私が会ったときはそんなに怒っていなかったように思うけど。あのクイズの後に何かあったのかしら」
ヒミカは右手のひとさし指を口元に当てながら首を傾げました。そんなヒミカからタキリはそっと目をそらします。なぜならばタキリには心当たりがあったからです。
タキリは当然、ヒミカが参加したドキドキ早押しクイズをダンジョンの最下層から応援していました。
最初は「がんばれ、ヒミカ様!」と応援していたタキリですが、ヒミカの圧倒的な早押しとなんでそんなところでわかるのという理不尽な正解する様子を見ながら、オサノとツクヨに同情しました。一緒の回答者であるネッコとイッヌはヒミカの正解に喝采を送っていましたが、タキリは「ヒミカ様空気をよんでください」とスクリーン越しに祈っていたのです。しかし、そんなタキリの祈りは届くことなく、ヒミカの圧勝でドキドキ早押しクイズは幕を下ろしました。
その後からツクヨはあふれ出る神力を抑えることなく、ダンジョンを突き進んでいるのです。
ツクヨが怒っている原因はヒミカだろうとタキリは思っていますが、ヒミカの眷属であるタキリは「世の中には知らないことがいいこともあるのです」と自分に言い聞かせ、ヒミカに伝えることはありませんでした。
ヒミカとタキリが話し合う中、ツクヨの進撃はどんどんと進んで行くのです。
◆
あっという間にツクヨは200階層を突破し、250階層からは1階層毎にフロアマスターが配置されていますが、ツクヨの進撃は止まることがありません。そして、ツクヨはついにあのフロアマスターが守る階層にやってきたのでした。




