罰ゲームから開放されたらブラッドとジルが私の取り合いを始めました
校則書き写しはけっこう大変だった。
今回はジーニーもいないし、自らやるしかなかった。
いやいや、おそらくジーニーは私よりも親の爵位は上だから本来はさせてはいけなかったんだけど……
まあ、基本は前世の校則とそんなに変わらないけれど、身分についてはいたるところに書かれていた。身分に関わらずとか、身分で差別をしないとか。
殿下だけは先生に何か言われて出て行った。
「えっ、先生。王太子殿下だけは差別ですか」
マチルダがむっとして言うが、
「彼には別の仕事を頼みました。文句があるのならば、マチルダさんも殿下のお手伝いの方が良いのですか?」
先生が笑顔で聞いてきた。
「いえ、結構です」
そう言って断るとマチルダはまた校則書き写しに戻った。マチルダの勘は当たるのだ。絶対に王太子殿下の仕事のほうが大変だ。
「何か最悪だ」
「やってられない」
皆ブツブツ言いながらそれでも、写していた。
でも、私は、ローズの取り巻きたちの皆と一緒のことをやったので、多少は連帯感が湧いて、仲良く慣れるかなと思ったのだ。
これは甘い考えだった。
やっと開放された時は、ほっとした。皆で顔を見合わせたのだ。
しかし、その扉を出た途端だ。
「パティ!」
「大丈夫だったか?」
ブラッドとジルがいきなり私の前に飛んできたんだけど、何でだ?
伯爵令嬢らの視線が冷たいんだけど。せっかく少しは仲良く慣れるかと思ったのに、こいつら最悪だ!
「伯爵令嬢らに囲まれて、虐められていたと聞いて慌てて飛んできたんだ」
ブラッドが言ってくれるんだけど、本当に皆の視線が怖い。事実でも、女には女の都合があるのだ。それに、私が無敵だということは知っているはずだ。何を心配して私の邪魔をしてくれるんだろう?
「マチルダが乱入したと聞いて心配していたんだ。何もされなかったかい?」
抱きついたブラッドを無理やり、ジルが剥がしてくれたんだけど、今度は私の手を握って言ってくれるんだけど……
皆の視線が厳しい!
それにマチルダはあんたの婚約者ではないのか?
何故、その婚約者に私が虐められる未来を想像するんだろう?
本来ならば婚約者の身を心配するのでは?
「ちょっとジル、私がパティに酷いことするわけ無いでしょ。彼女は私の侍女なのよ」
「だから心配なんだよ。お前の機嫌を損ねて辞めさせられた侍女が何人いたことか」
マチルダの反論にもジルはびくともしないんだけど。
「あなたね。婚約者よりもパティを心配するわけ?」
「当然じゃないか。お前は叩かれようが何されようがびくともしない鋼鉄の心臓持ちだが、どう見てもパティのほうが繊細だろうが」
まあ、それは否定しないんだけど、でも、あなた婚約者にその言様はまずくない?
「そうだ。そこの帝国の女。俺のパティに手を出すな」
ブラッドもきついこと行っているけど、あなた、マチルダの正体知っているのよね?
「ブラッド、そんな事言うが、君はパティの婚約者じゃないだろう」
「ジル、君こそ、マチルダは婚約者じゃないか。婚約者の目の前で、婚約者以外の女を気にするってどういうことだ」
「いや、俺は昔、助けてくれた人がパティに似ていて」
「ジル、君は似た人だろう? 俺はパティ本人にに助けられたんだ」
何か二人は下らない事で喧嘩始めたんだけど、
「ふんっ、パティ、バカどもはほっておいて、食事に行くわよ」
むっとしたマチルダが、歩き出した。
「あ」
「パティ!」
二人が手を伸ばすが、マチルダに叩かれて私はマチルダと二人で一緒に食堂に向かったのだった。
食堂は混雑していた。さすが新学年の始めだ。
マチルダが場所を取ってくれると言うので、私は定食を2つ買いに行った。
食券売り場も込んでいたが、なんとか、定食2つを買うのに成功した。
定食は肉定食がとんかつで魚定食が塩サバだった。それに、とんかつはキャベツ山盛りと人参ソテーが、塩サバには野菜サラダとほうれん草のおひたしがついていた。
マチルダがどちらが好みか判らないので、取り敢えず、1つずつ買う。
後はご飯、何故か、西欧風の舞台なのに、主食はパンではなくてご飯だった。
と味噌汁、これも何故かわからないが、ゲーム制作者には日本食に対する並々ならぬ執着があるみたいだ。
それとデザートがミニケーキだ。
結構ボリュウムもある。まあ、栄養学的に高校生は男女ともたくさん食べろということなんだう。
席につくと何故か両隣にブラッドとジルが麺類を片手に座っていたんだけど。
「はい、マチルダ、肉と魚どちらにする」
私が聞くと
「当然魚よ」
私の宛は外れた。絶対にマチルダは肉だと思ったのに……
仕方がないから私は塩サバをゆずってあげたのだ。
「えっ、あなた塩サバが食べたかったの?」
「えっ、いや、そんな」
私が物欲しそうに見ていると
「わかったわよ。あんたみたいに食べ物に執着していないから塩サバはあげるわよ」
「ありがとう」
私は思わず、マチルダから塩サバを受け取ったのだ。
マチルダの気分が変わらないうちに、早速塩サバに手を付ける。
そんな私達の横でブラッドとジルがにらみ合っているんだけど。
「どうしたのよ」
「どちらがパティと話し出すかで我慢勝負をしているのよ」
「我慢勝負?」
「どちらがあなたに話し出すのを我慢できるか勝負しているみたい」
「えっ?」
私は思わず二人を二度見した。
「パティ、馬鹿じゃないのは言い過ぎよ」
「えっ、私言っていないわよ」
「あんたの顔が物語っていたわよ」
マチルダが好きなこと言ってくれるんだけど。
「この後またホームルームなんだって」
私は無視して食べだすことにした。
「そうよ。遠足の班分けがあるのよ」
「パティ、俺と一緒の班に」
「いや、パティ、ぜひとも俺と一緒に」
ブラッドとジルがいきなり私を誘ってきた。
「何を言う。今のはブラッドのほうが先にパティに話しだしたから俺の勝ちだろう。当然、パティは俺と一緒の班になるべきだ」
「何言っているんだ。最初に誘ったのは俺だろう」
「何だと」
「やるか」
二人が言い合いを始めたんだけど。
「もう、煩いわね。食べる時は食べることに集中しなさいよ」
「お前に言われたくない」
「何ですって」
ブラッドに向けてマチルダが眉をあげる。
「マチルダ。早く食べないとホームルーム始まるよ」
私が思わずそう言うと
「そうよね。こんな馬鹿達ほっておきましょう」
「いや、待て」
「そうだ。こんなの食うのは簡単だ」
「ようし、どっちが先に食べられるかだ」
「貴様にだけは負けん」
今度は二人して麺類の早食い競争を始めたんだけど。
ちょっと待ってよ。二人共イケメンなんだからそんな馬鹿なこと止めて!
私の意見は全く取り上げられなかった。





