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担任に式典をサボった罰則で校則を書き写さされました

ホームルームの終わった放課後、私はマチルダと一緒に職員室に行った。

応接コーナーに案内されるとそこにはすでにローズがいた。


「何故、こんなところに来ないといけないのよ」

ローズがブスリと文句を言う。

「それは私のセリフですわ。あなた達の淫行の現場に遭遇していまって、動揺してしまったあまり、式に出られなかっただけなのに」

マチルダが不機嫌に返す。


「淫行現場って何よ」

「あっ、王太子殿下」

怒ったローズの後ろをマチルダが指すと

「えっ?」

真っ赤になったローズが振り返った。



「殿下なんていないじゃない」

「えっ!」

その瞬間、怒ったローズの横に殿下が入って来たのだ。

あまりの事に真っ赤になったローズが固まる。それを驚いて固まっている王太子殿下とそれを面白くなさそうにマチルダは見ていた。

「ウホン、ウホン」

その後ろには担任のストラシー先生が立っていた。




「マチルダさん。貴方は自分自身が偉いと考えているから、入学式なんて出なくても良いと思われたのですか?」

一同が席に着いたタイミングで担任のイザベル・ストラシー先生は怒りだした。

入学式をプッチした私達に完全に切れていた。

何しろ今までに先生の長い教師人生の中で、生徒で入学式典をブッチしたのは私達が初めてだそうだ。


「先生。先ほどもローズさんに申しましたように、私は高々、一子爵なのです。それは平民の方々に比べれば爵位は持っておりますが、ローズさんのように由緒正しきアープロース侯爵家のような、偉大なお貴族様とは違うのです。私自身を偉いなどと思った事はございません」

「何をおっしゃっているのですか。貴方は帝国でも唯一無二の」

「ウホン、ウホン」

マチルダは思いっきり咳込んだ。

そして、私をつついたのだ。


「えっ?」

私はマチルダの合図が何か判らなかった。


「あ、もういいわ。先生、私はデール子爵家のマチルダですから。お間違えないように」

「しかし、あなたは」

「帝国の高々一子爵でしかないのです。そこはお間違えなきよう」

マチルダは再度念を押した。そして私に頷くのだ。良く判らないが、おそらくマチルダは私がそれを説明しろと言いたいらしい。知った事か、と私は思った。

と言うか、そのくせ、態度は絶対にその公爵令嬢よりも、いや皇子様よりもデカいと私は思ったのだが……決して私だけがそう思ったわけではないはずだ。


「ならば何故、式典に出なかったのですか? 帝国の皇帝の新年の式典に一子爵が欠席してよろしいのですか?」

先生はマチルダの話に合わせて言ってくれたけれど、絶対にマチルダの話に合わせてはいけないのだ。


「先生。申し訳ありませんが、私、帝国の皇帝陛下からは二度と式典に出なくて良いとお許しをもらっておりますの」

「はいっ?、やはりそれは公爵……」

「ウホン、ウホン」

だから言わないこととじゃないのに! マチルダの話に合わせると碌なことは無いのだ。それは前世からの付き合いの長い私にはわかる。

この咳は話を合わせろという事なの?


「まあ、先生。おそらく、陛下はマチルダさんが出ない方が帝国の他の貴族の方々のためになると思われたのでは」

マチルダが合図したので、仕方なしに、私は言ってあげた。


「ちょっと、パティ、どういう事よ」

ムッとしてマチルダが言ってきたんだけど、ここは散々、地味とか胸が無いとか言って私を貶めてくれたマチルダだ。仕返しするには今しかない。


「じゃあ、何故、陛下がそう言われたの?」

私は仕方なしに聞いてあげた。


「そんなの、陛下はお優しいから、私の美貌に免じて許して頂けたのよ」

な訳あるか? 絶対に彼女は何かをやらかしたのだ。前世が前世だし!


「宰相のかつらをみんなの前で釣り上げたんだよ」

後ろからいきなり、声がした。後ろを見るとジルがブラッドと立っていたのだ。


「えっ? 本当に!」

私はマチルダをまじまじと見た。確か帝国の宰相は鉄拳宰相とか、悪魔とか周りの国々から恐れられていたはずなのだ。その宰相のかつらを釣り上げるって、それも新年のあいさつの場でやるなんて宰相のメンツ丸つぶれじゃないか?

それは皇帝も怒るだろう。


「ちょっとジル、何を言ってくれるのよ」

ムッとしてマチルダが言うんだけど。


「ごめん、ブラッドがどうしてもパティの様子を見たいというから、陰で見ていたら、君がとんでもないことを言っていたから」

「何を言っているのよ。皇帝陛下は私の美貌に……」

「スキンヘッドの子爵の頭に禿げって落書きしたり、髪の毛があと一本しか無かった、侯爵の最後の一本を引き抜いたり、王妃様の事を着飾ったお化けと呼んでみたり……」

ジルの暴露話に、どんどんストラシー先生の顔のしわがきつくなっていく。


「判りました。マチルダさんの帝国でのご活躍が良く判りました」

完全に呆れた口調で、ストラシー先生はジルの話を途中で切った。


「いかに、帝国では皇帝陛下のお許しがあろうが、ここはリーズ王国の王立学園です。王立学園には王立学園のやり方があるのです」

先生はきっとして言い切ったのだ。


「そうなのですね。さすが王国は違いますわ。進んでいらっしゃるのですね。我が帝国では、道徳を重んじておりまして、公衆の面前で王族の方と侯爵令嬢が愛を語り合って抱き合うなんてことは、絶対に許されませんのに。私は白昼堂々の逢引きの現場に遭遇するなどという人生初めての経験にの動揺してしまって、外でその動揺を鎮めないといけない羽目に陥りましたのに!」


「ちょっと、私達は逢引きなどしていないわ」

「そうだ。マチルダ嬢。私はローズ嬢と愛を語り合うなんてことはしていないぞ」

マチルダの話を聞いていた二人が反論した。でも、論点が違う。そこでそう言うとマチルダの思いのままになるのに……


「確かに、私は愛を語り合ったかどうかの声までは聞こえませんでしたが、でも、ヒシっと抱き合っておられましたわ。ローズ様も王太子殿下の胸にはっきりと顔を寄せていらっしゃいました」

「いや、それは泣いている女性をほっておくわけには」

「そうよ。殿下はお優しいだけで」

マチルダの声に二人が反論するが、マチルダは顔を覆って、


「でも、何も婚約もしていない男女が抱き合わなくても良かったのでは。私、公衆の面前で抱き合うお二人を見て動揺してしまって」

マチルダは赤くなった顔をハンカチで覆うが横から見たら目が笑っているんだけど。


「殿下、ローズさん。あなた達は婚約もしていないのに、公衆の面前で抱き合っていたのですか」

厳しい顔でストラシー先生が二人を見た。


「いや、あの、思わず取り乱してしまって」

「そうなんです。先生。泣いている女性をほってはおけなくて」

「でも、抱き合う必要は無いですよね」

「いや、それは」

マチルダの声に思わず二人は目を逸らしたんだけど。


「殿下。生徒のお手本にならないといけない、生徒会長でもあられる殿下が何をしておられるのですか?」

先生は怒って言った。


「いや、まあ、申し訳ない」

殿下は反論しなかった。この手の先生に反論すると後が長いのだ。


「ローズ嬢もです」

「すみません」

ローズも珍しく、頷いた。


「お二人は明日までに反省文を、私に提出するように」

「判りました」

二人はしぶしぶ頷いた。

これで一件落着、マチルダの意向のままになったと私は思ったのだ。

次の瞬間私はミサイルがこちらにと飛んでくるとは思ってもいなかったのだ。


「そして、入学式をサボったマチルダさんとパトリシアさんはこの学園の校則を書き写して明日までに提出するように」

先生の言葉に私は目を疑った。


「えっ? そんな、校則を書き写す方が時間がかかりますわ」

マチルダが文句を言うが、

「何か文句があるのですか。なんでしたら今ここで校則の話を一からきちんとお二人に説明させていただいてもいいのですが」

先生の目が笑っていないんだけど……これは絶対に長くなる。


「判りました。ちゃんと書き写してきます。マチルダ様にも必ずさせますから」

「ちょっとパティ」

これ以上いたら怒られ続ける未来しか見えないので、私は抵抗しようとするマチルダを連れて強引に職員室を出たのだった。





男女が抱き合うのを見るだけで動揺など絶対にしないマチルダの意向に逆らって連れ出したパティ。

でも、その宿題やるのは誰……

次は今夜の予定です。

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