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第60話 『X』とご対面


 三島と一緒にびしょ濡れのまま脱衣所に向かう。

 床はまぁ、三島がシャワーを浴びている間に拭けば良いだろう。


「濡れた服は全部この中に入れて、あとはこのボタンを押せば良いから」


 乾燥機の使い方を教えてやると、俺は三島を1人脱衣所に残してドアに手をかけた。


「代わりに着る服はそこに置いておく。俺のだからサイズは大きいだろうが、まぁ我慢してくれ」


「服を置きに来る時は必ずノックしてくださいよ?」


「安心しろ、俺だってまだ命が惜しい」


 三島がシャワーを浴びている間に俺は自分の服を着替えて床を拭いた。

 丁度良いジャージがあったのでTシャツと一緒に脱衣所に置いておく。

 曇りガラス一枚を隔てた向こうでは、三島のスラリとした身体のシルエットが映っていた。


       ◇◇◇


「――シャワーとお洋服、貸していただきありがとうございます」


 数分後、ドライヤーで髪まで乾かした三島がリビングにやってきた。

 袖が指先までを覆っているダボダボのシャツを着て、下にはジャージを履いている。

 自分ちのシャンプーのはずなのに、三島からは凄く良い香りが湯気と一緒に立ち上っていた。


「どういたしまして。コーヒーはテーブルに置いておいたぞ。それと……お茶請けの猫だ」


 そう言って俺は真っ白い身体に茶色が差し色の短足マンチカンを三島の胸元に預ける。

 ミャーミャー鳴きながら三島の胸にスリスリと頬をこすりつける姿を見て、三島は固まった。

 そして一言呟く。


「天使……?」


 分かる。

 三島は顔を紅潮させる。


「か……可愛すぎますっ! お名前は?」


「誠です」


「貴方の名前じゃなくて、猫ちゃんの名前ですよ」


「そいつは山田だ」


「何で他人みたいな名前付けてるんですか……まぁでも可愛いからいいか。山田ちゃん~」


 三島はスリスリと自分の頬を擦り付けて挨拶を返していた。

 そして、三島に俺の名前を呼んで可愛がってもらう作戦は失敗した。


「じゃあ、俺もシャワー浴びてくるから山田と遊んでてくれ」


 そう言って、オモチャの猫じゃらしを渡すと三島は満面の笑みで受け取る。


「分かりました、ごゆっくりどうぞ。山田ちゃん~、新しい飼い主の三言ですよ~」


「勝手に親権を奪うな」


 あと……かがむな。

 シャツがダボダボなせいで今、かなり危なかったぞ。

 当たり前だけど、三島は今下に何も着けてないんだよな……そんな状態で俺の服を。


 三島に変態と罵られても仕方がない事を一瞬考えてしまった俺は、頭から雑念を洗い落とす為に脱衣所に向かった。


       ◇◇◇


 眼鏡を外し、脱衣所の洗面台で髪を洗って無造作もじゃもじゃヘアーを作っていたワックスを洗い流すと元の直毛になった。

 鏡を見ると、そこには大人気カリスマアイドルの『X』が現れる。


(三島は別に良いって言ってたけど……約束は守らなくちゃな)


 髪を乾かすと普段の猫背から姿勢を正して、コンタクトを装着した。

 そして、こっそりと自分の部屋に戻って一番お洒落な私服に着替えて鏡を見る。


 うん、今の俺はライブの時の『X』そのままの状態だ。

 軽く咳ばらいをしてライブでの話し方やイケメンボイスを軽く練習する。

 あの時はアイドルらしくキャラや声を作ってたから。


(……これならきっと、『X』だと信じてもらえるだろう)


 そして俺は『X』として、三島が居るリビングへの扉を開いた――

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― 新着の感想 ―
[一言] 杉浦がプロデューサーで合格してXの専属プロデューサー兼マネージャになれば 事務所経費要らんから ガッポガッポと Xの美貌でアイドルを集めまくれる
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