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第11話 俺じゃないです(大嘘)

 

 嵐山の態度にため息を吐くと、月読はもう一度俺の手を握る。


「気にしないで! 君がしたことは間違ってない。それに順位の高い奴の意見が正しいなら、僕だって負けてないから」


 そう言うと、月読はこっそりと俺にだけ自分の紙を見せた。

 俺はその内容に驚く。


        『月読(つくよみ)(あおい)

        1位/30位


「あはは。少し恥ずかしいから、みんなには内緒ね」


 そして、人差し指を自分の口元に当ててウインクをする。

 同じ男のはずなのに、なぜかドキッとしてしまった。


「つ、月読はどうしてアイドルプロデューサーになりたいんだ?」


 あの1次試験を首位通過。俺も同じ試験を受けたのだから分かる。

 月読はとんでもない実力者だ。

 嵐山がアイドルで金稼ぎをしたいように、月読も何らかの信念を持っているはず……。


 そんな月読は俺の質問に答えてくれた。


「憧れのアイドルプロデューサーがいるんだ……僕は1年間、彼に会いたくて努力してきた」


「憧れのアイドルプロデューサー? 一体誰だ?」


 この質問がとんでもない大型地雷だった。

 月読は急に眼の色を変えて、凄い勢いで語り出す。


「聞きたいよね!? 君、『シャーロット』ってアイドルグループは知ってる? そう、あの『X』が代役で出たアイドルグループ! 『X』が出る前から僕は『シャーロット』のファンだった。音楽、ダンス、全ての演出が僕の心を――いや魂を震わせた。それらを毎回たった一人で考案しているのが『シャーロット』の()()()()()()だって噂なんだ!」


「へ、へぇ~。ソウナンデスカー」


 雪華さんから取り戻しておいて良かった……。

 俺はダラダラと出てくる冷や汗を自分のハンカチで拭った。


 まだまだ語り足りない様子の月読はさらに俺に近づいてジェスチャーを交えつつ話す。

 まだ見たこともない相手(俺)をまるで崇拝でもするように。

 あとなんかこいつ、近づくと良い匂いするんだよなぁ。


「『シャーロット』のマネージャーは辞めたみたいで、きっと『X』を機に今はもう才能を認められて凄く偉い地位になってると思うけど、僕もプロデューサーになれば会えると思ったんだ! あはは、もし会えたら感動して腰を抜かしてしまうかもしれないけどね」


「ま、まさかその為にプロデューサーに?」


「最大の理由ではあるかな。同時に、僕もアイドルのマネージャーに憧れたんだ。少しでもその人に近づきたいと思ってね」


 ニコニコ笑顔の月読の目の前で考える……。

 俺が月読にそのマネージャー本人だとバレたらどうなるだろうか?


 いや、そもそもここに居る候補生の『杉浦誠』と『シャーロット』の繋がりを示す事実がバレるだけでも危険だ。

 これから俺が担当する未来のアイドルの為にも、余計なトラブルの元は作りたくない。

 なにより……


「はぁ~、でもやっぱり会いたいなぁ。彼の作る音楽も、ダンスも、すべてが至高なんだ。僕は何度も心を溶かされてしまったよ」


 この話題になると急に人が変わり過ぎて、月読がちょっと怖い。


(すまん、月読……もうしばらくは会ってあげられない。というか、多分会ったらガッカリするぞ? なんたって29位だ)


 夢は夢のまま綺麗でいさせてあげようと自分を正当化し、俺は笑顔を作る。


「……い、いつか会えると良いな」


「ありがとう! いきなり杉浦みたいな良い奴と会えたんだから、幸先は良いね!」


 そんな話をすると、月読は手をフリフリと振って自分の席に戻って行った。

 なんかあいつ、男なのに仕草が可愛いんだよな。


「――ガッデム!! 休憩は終わりだ、いつまでも立ち歩いてるな! 2次試験を開始する!」


 再び入室してきた厳ついグラサンの試験官はそう言って、ニコリと笑った。

 お前も怖ぇよ。

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