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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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98.採取完了

《納得いかない》


 白に近い金の輝きを放つ8角柱状結晶を前に、ラズライトは眉間にしわを寄せる。


「納得いかないと言われましても」

《だって、オリハルコンだよ? 割ったら出てきましたって、そんな御伽話みたいな》

「でも実際ここにあるじゃない」


 実際ここにある。


 確かに、イリスの言う通りだ。


 だが、オリハルコンがどれだけ希少か知っている身としては、ここで『ああオリハルコンか』で納得してはいけない気がする。


《そもそもこれがオリハルコンだって、どうしてイリスには分かるの?》

「え? だって、この色艶でこの気配、どう考えたってオリハルコン以外に選択肢無いじゃない」

《オリハルコンとは違う、別の鉱物かも知れないよ?》


「そしたら、オリハルコンじゃないけどオリハルコン並みに魔力を含んだ未知の鉱物って事になっちゃうけど」


《……じゃあオリハルコンで良いや》


 ラズライトはあっさりと意見を翻した。


 オリハルコン並みの魔力量の未発見鉱物とか、いくら何でも怖すぎる。


《これも持って帰る?》


 タッカーの工房なら、加工する方法があるかも知れない。

 ラズライトが訊ねると、イリスはこくりと頷いた。


「せっかくだから持って行ってみよう。ミスリル原鉱と違って、空気に晒されても劣化しないみたいだし」


 割ったノジュールを丁寧に革袋に収め、圧縮バッグに入れる。


 その後も周辺を探し回った結果、ミスリル原鉱入りとおぼしきノジュールが追加で5つ、オリハルコン入りらしいノジュールが3つ、見付かった。


「オリハルコン入り、そのまま持って帰ってタッカーさんに割ってもらったら、びっくりするかな?」

《びっくりし過ぎて卒倒するかもよ》


 合計で10個ほどのノジュールを確保して、とりあえずメインの目的は完了だ。


 後は、タッカーから依頼された他の鉱物を探す。

 紅琥珀はこの台地にあると言うのでイリスに任せ、ラズライトは崖に露出する翡翠の岩脈を見物することにした。


《すごい大きさ…》


 幅はおよそ1メートル。長さは、見える部分だけで20メートルを超えるだろうか。

 基本的には白いが、『翡翠色』と称される緑色や、薄紫色、濃灰色、水色掛かった部分もある。これだけの規模の岩脈は珍しいだろう。


 ここまで盛大に露出しているなら、と、岩壁に近寄って足元を探してみたが、それらしい破片は見付からない。

 翡翠の岩脈自体、岩壁から一段盛り上がった状態で露出しているし、割れにくい上、風化にも強いのだろう。


 そのうち、背後からイリスが駆けて来た。


《採取は終わった?》

「うん、必要な物は全部揃ったよ。後は──」


 翡翠の岩脈を見上げるイリスに、ラズライトは待ったを掛ける。


《翡翠に挑戦するなら、ハンマーとタガネについてタッカーに相談してからにしなよ》

「う」


 イリスがぴたりと動きを止めた。やはり再挑戦するつもりだったらしい。


《気が逸るのは分かるけど、その道具じゃ無理なんでしょ?》

「…………ハイ」


 両手に持つごくごく普通のハンマーとタガネを交互に見て、がっくりと肩を落とす。

 ただの鉄では、翡翠は砕けない。


《ほら、全部集まったなら帰らないと。下でスピネルとロゼが待ってるよ》

「……はーい…」


 しょぼくれた顔で返答したイリスが道具を仕舞い、台地の縁に向かう。


 ついこの前登った台地と違って、ここには降下用のワイヤーを括り付けられるような樹木が無い。

 どうするのかと思っていたら、イリスは登って来た場所──だろう、多分──にそのまま近付いた。


「ラズライト、肩に乗って」

《えっと…もしかしてそのまま降りるの? 素手で?》

「うん」


 崖というのは、実は登るより降りる方が難しい。


 難しいのだが──そういえば彼女は、元々降下用ワイヤーロープなどの装備無しで、単身この台地を登り降りしていたのだったか。


《……落ちないでよ》

「大丈夫大丈夫」


 万が一の落下を考え、脳内で何度も浮遊魔法の発動手順を確認しながら、ラズライトはイリスの肩に飛び乗った。

 首の後ろに回ると、すぐに上着のフードが被せられる。


「じゃ、降りるね」


 イリスが宣言して下降を始める。


 手順は、登る時とほぼ同じ。進む方向が上か下かの違いだけだ。

 やはり降りる方が難しいらしく、登りは2時間程度だったのに、降りは3時間程度掛かった。



「──到っ着!」


 地面に降り立ったイリスが、ビシッと両手を挙げてポーズを決める。

 ばさりとフードが外れ、ラズライトは深々と安堵の溜息をついた。


《よ、よかった……》


 途中、イリスが『あ』とか言うものだから、正直気が気でなかった。

 …実は崖の途中で珍しい鉱物を見付けただけだったのだが。


《もうホント、途中で変なことするのやめてよ》

「えー…だってあれ、なかなか採取できないんだよ?」

《いきなり両手放してハンマーとタガネ取り出すの見たこっちに身にもなってよ!?》


 『肝が冷えた』所の話ではない。


 『あ、これ、終わった』と一瞬で悟りを開いてしまった。

 結局、鉱物もちゃっかり採取して、無事に戻って来れたのだが。


「クルァッ!」

《おかえりなさい》


 スピネルとロゼが駆け寄って来る。


《ただいま》

「ただいまー」

《思ったより早かったわね》

「すごく順調だったからね」


 小首を傾げるロゼに、イリスが胸を張る。


 とはいえ、時刻は既に夕方。今日はこれ以上移動している時間は無いだろう。


《今日はこの辺りで野営しよう。街への到着は明後日くらいかな?》

「そうだね」


 その後一行は、手近な林の中の拓けた場所で一晩過ごした。




 翌朝は移動だ。


 ロゼがスピネルに乗り、ラズライトがイリスに乗って、身体強化魔法を掛けられたイリスがスピネルと並走するスタイル。


 途中すれ違った冒険者パーティがあんぐりと口を開けていたのは、見なかった事にする。


《…ねえラズライト、今、冒険者たちがすごい顔でこっちを見ていたのだけど…》

《気にしちゃダメだよロゼ。気のせい、気のせい》


 気のせいである。


 しかし、気のせいで済まされない相手に会ってしまった。


「あれ、イリスにラズライト!?」

「あ、やっほー!」


 陽気な声を上げたイリスが急ブレーキを掛ける。

 スピネルも即座に反応し、1人と1匹は盛大に土煙を上げながら踵で地面を削った後、止まった。


「カイト、ギア、ナディ、アイン!」


 イリスが楽しそうに名を呼ぶ。


「よう、数日振りだな」


 カイトが片手を挙げて応じるが──その視線は、スピネルに乗ったまま少し固い表情をしているロゼに向けられている。


「ええと…」

「あ、スピネルに乗ってるのは、ロゼ。火の精霊だよ」


 イリスが言った途端、カイトたちは目を剥いた。



『はあ!?』



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