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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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95.ミスリル鉱石を採りに

 一旦サラマンダーたちの棲み処に戻った一行は、長にロゼを紹介し──良かったのう、と笑う長に、ロゼは恐縮しきりだったが──長の『暴走してしまっている精霊を鎮めて欲しい』という依頼は完了した。


《うむうむ。イリスたちについて行けば、何とかしてくれるじゃろう》

《その全幅の信頼は何なの…》

「こういう時は『お任せあれ』って言っておけば良いんだって、ラズライト。多分何とかなるし」

《……根拠が無いのに、妙に説得力があるのはどうしてなのかしらね…》


 報酬として、生え変わりで抜け落ちたものだというサラマンダーのウロコや牙、棲み処の中で採れる希少鉱石などをいくつか貰い、ついでにそこで1泊させてもらった後、イリスたちは火山地帯を後にした。


 なお、宿泊のお礼としてアノマロカリスの肉の残りを振舞おうとしたのだが、半日しか経っていないのに苦くて臭くて辛い何かに変貌を遂げていたため、棲み処の外でロゼとサラマンダーたちが全力で焼却処分する羽目になった。

 代わりに食べてもらった『カラスの羽休め亭』ターニャ謹製の干し肉は大変好評だったのが不幸中の幸いである。


「……今度から、時間が経ったアノマロカリスの肉を食べるのはやめよう……」


 火山地帯を隔てる大地溝帯の谷底に降り、まだ残っていたアノマロカリスの破片を目に留めて、イリスがしみじみ呟く。


 大変な味になっていた肉を真っ先に食べたのがイリスで、最後まで悶絶していたのもイリスだ。

 その挙動に恐れをなした他の面子は、結局ほとんど食べなかった。


 一部、無謀な──もとい、勇気ある若いサラマンダーが小さな肉片を口にして、イリスと同じく地面をのたうち回っていたが。

 その肉の味を知った若いサラマンダーたちは、その後イリスと何やら通じ合っているようだったが──イリスの『初対面の魔物と仲良くなるコツ』があれだったら嫌すぎる。


《谷底はこうなってたのね…》


 ロゼが周囲を見渡し、恐る恐る呟く。

 遠くに空中遊泳するアノマロカリスが見えた。ここのアノマロカリスは縄張り内から絶対に出ないし、縄張り外の生き物には絶対に手を出さないのだとイリスは言うが、怖いものは怖い。


《多分大丈夫だと思うけど、僕らから離れないようにね、ロゼ》

《ええ》


 そのまま火山地帯と半島を隔てる谷を越え、行きに残しておいたワイヤーロープで岩壁を登ると、


「クルァっ!」

《きゃっ!?》


 至近距離で鳴き声を上げたスピネルに、ロゼが驚いて跳び上がった。


 こちらが戻って来るのを目敏く見付け、待ち構えていたらしい。イリスに首筋を撫でられるスピネルは、至極ご機嫌だった。


「ロゼ、この子はオルニトミムスのスピネル。普段はこれから行く街に住んでて、時々人間を乗せて南の半島を移動する仕事をしてるんだ。スピネル、こちらはロゼ。火の精霊だよ。仲良くしてやってね」

《えっと…よろしくね、スピネル》

「ルルッ!」


 『街で飼育されている』ではなく、『街に住んでいる』と表現するあたりがイリスらしい。


《次はミスリル原鉱を採りに行くんだっけ?》

「そうそう。半島の中間地点くらいにある台地の上だね。スピネルはまた地上で待機になるけど…」

「ルッ!」

「分かってる分かってる。なるべく早く戻るよ」


 ごつごつと頭突きをし始めたスピネルに、イリスが笑う。


 考えてみれば、本来の生息地に解き放っているにも関わらず、スピネルはきちんと自分たちの事を待っていてくれるのだ。

 帰ったら、その分も含めてお礼をした方が良いかも知れない。




 そんなこんなで、ロゼをスピネルに乗せ、ラズライトはイリスの肩に乗って彼女に身体強化魔法を掛け、1人と1匹が疾走すること1日と少し。


 一行はあっさりと台地の麓に着いた。


「着いたー!」

《結構小さい台地なんだね》

「ルルッ」


 台地を見上げるラズライトたちの横で、


《…どうしてあの距離をオルニトミムスと並走できるの…?》


 ロゼが地面に膝をつき、半分魂が抜けたような顔で呻く。


 気持ちはとても良く分かる。ラズライトもかつて通った道だ。


《ロゼ、イリスは色々おかしいから》

《分かってる…分かってるつもりなのだけど…》


 そういえば、考え方や発言だけでなく身体能力もおかしい、とは教えていなかったか。

 当の『色々おかしい』人物は、軽くストレッチしながらこちらに声を掛けて来た。


「スピネルは待機するとして、ラズライトとロゼはどうする? 一緒に行く?」

《僕は行くよ。この上がどうなってるか気になるし。ロゼ、どうする?》

《私は…》


 台地を見上げ、首を横に振る。


《登れそうにないし、ここで待ってるわ。そんなに時間は掛からないのよね?》

「早くて丸1日、時間が掛かっても丸2日くらいかな。…あ、でも、ラズライトに魔法を掛けてもらってるんだよね? 離れちゃって大丈夫?」

《3日は持つと思うけど…一応掛け直しておこうか》


 一旦魔法を解除し、改めて掛け直す。

 障壁が無くなった一瞬、ロゼが体を強張らせたのが分かった。


《ロゼ、ここじゃまだ魔素濃度が高すぎると思うんだけど、どう?》

《…ええ。私もそう思うわ》


 ほんの一瞬でも、流れ込んで来る魔素の量は感じ取れる。それまで遮断されていたのが一気に流れ込んで来るのだから、驚くのも無理も無い。


「スピネル、ロゼのことよろしくね」

「クルルッ!」


 イリスが頼むと、スピネルは胸を張ってみせた。任せろ、という意味だろうか。


「そういえばロゼ、待ってる間の食べ物とかは大丈夫?」

《精霊は基本的に食事を必要としないの。魔素も魔力もまだ十分あるし、数日待つくらいだったら問題無いわ》

「そっか、なら良かった」


 精霊は普通の生き物ではない。ロゼの説明に納得したイリスは、ラズライトを振り返った。


「それじゃあラズライト、行こう」

《分かった》


 ラズライトが肩に飛び乗る。

 いつものポジションに収まると、イリスはその上から上着を羽織った。


「それじゃあ行って来るね、スピネル、ロゼ」

《ええ、気を付けて》

「クルアッ!」

《行ってきます》



 登る台地は違うが、登り方は一緒だ。


 海側の岩壁に張り付き、手掛かりとも言えない岩の凹凸を掴み、足を突っ込み、ゆっくりと岩登りを始める。

 フードの隙間から覗くと、ロゼがハラハラした顔でこちらを見ていた。スピネルも一緒に眺めているが、平然とした態度だ。イリスなら大丈夫だと確信しているのだろう。


 実際2回目ともなると、ラズライトも冷静でいられた。

 動作自体はゆっくりしているが、イリスの動きは一つ一つ丁寧だし、危なっかしいところが無い。前回登った場所と違い、既に何回か登っている台地だからというのもあるだろう。行動に迷いが無かった。


 登りの所要時間は、2時間程度。


「──到っ着!」


 台地の上に到着すると、イリスはその場に仁王立ちして宣言した。

 ばさり、フードが外れると、少し冷たい乾いた風がラズライトのヒゲをくすぐる。


《…何にも無いね》


 行方不明者の捜索で行った台地の上は魔石由来の泉と小川があり、緑が生い茂っていたが、ここは見渡す限りの荒野。

 ほんの少しの灌木の他は、大小様々な形の石や岩ばかり。


「採掘にはこれくらいの方が向いてるんだよ」

《まあ、そりゃそうかも知れないけど》


 見た限り水も食べ物も無さそうなので、長期滞在には向かない。


「さっさとミスリル原鉱見付けて、帰ろっか。スピネルとロゼを待たせても悪いしね」

《そうだね》


 イリスが楽しそうにハンマーを取り出した。




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