表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/174

94.ロゼ

 ラズライトが使ったのは、敵からの魔法を受け止め、反射する防御魔法。


 実はその副次的な効果が、『周囲の魔素も遮断する』なのだ。

 だから今、火精霊の少女は、周囲の魔素を一時的に取り込めなくなっている。流れ込む魔素が無くなったことに戸惑う少女に、ラズライトはゆっくりと近付いた。


《魔素を遮断する魔法を掛けたんだ。長くはもたないけど、少しは楽になったんじゃない?》

《ええ…》


 少女が深く安堵の溜息をついた。

 本来、魔素を取り込めなければ精霊は生命の危機に晒されるのだが──何度も魔力を暴発させていた身には、救いとなったようだ。


《今なら、魔力を制御できると思うよ。試してみて》


 ラズライトが告げると、少女は目を閉じ、集中し始めた。

 魔力の放射は本当に収まったらしく、熱を帯びた空気が上昇気流に変わり、風が吹き、火口周辺の熱気を吹き飛ばして行く。振り向くと、イリスが不思議そうに周囲を見渡していた。


 程無く、少女が目を開ける。


《…何となく、魔力の流れは分かった気がする》

《制御できそう?》

《今のままなら、多分。でも…また魔素が流れ込み始めたら、難しいと思うわ》


 やはり、この場に留まるのは得策ではないようだ。なら、と、ラズライトは努めて明るい調子で伝える。


《やっぱり、ここを離れた方が良いよ。魔法はずっと効果があるわけじゃないし、今のうちにもう少し魔素濃度の低い所へ行こう》

《でも…行くあてなんて無いわ》

《それは移動しながら考えよう》


 確かに、今の所行くあては無い。


 けれど、


《君は精霊だ。どこにだって行ける。どこに居たって、咎められることは無いよ》


 精霊は、どこにでも居る。


 人間との接触を嫌い、人里離れた場所に棲む者も居れば、堂々と街に家を構えて人間と同じような暮らしをしている者も居る。

 それぞれの特性に合わせて考える必要はあるが、『どこにも居場所が無い』なんてことはないのだ。


 そう教えると、少女は目をしばたいた。


《街に住む精霊も居るの? 初めて聞いたわ》

《まあ珍しいは珍しいよ。でも、大体どの街にも1人くらいは居るんじゃないかな》


 少女の目に、少しだけ光が宿る。


《…私も住めるのかしら…でも、もしまた魔力が暴走したら…》

《どの街も、ここほど魔素濃度は高くないよ。人間の魔法使いが多くて、魔素の消費量も多いから》


 その意味では、街で暮らすのが一番安全かも知れない。

 それならばなおのこと、ここから少女を連れ出さなければ。


《ほら、行こう。ここから北に数日移動すれば、大きな街があるんだ。まずはそこで住まわせてもらえるか聞いてみよう》


 ラズライトが再度促すと、少女はようやく小さく頷き、1歩を踏み出した。

 合流すると、イリスがほっと表情を緩める。


「良かった。暴走は収まったみたいだね」

《一時的なものだけどね。今のうちに移動しようと思ってる》


 ざっくり状況を説明すると──少女が『ネコ』である事は伏せたが──、イリスは一つ頷いた。


「街に行った方が安定する可能性が高いなら、試してみよう。万が一暴走しそうになっても、魔力を吸い出す魔法道具とか、多分あるし」

《ああ、そういう手もあるね》


 魔力を魔石に込める装置がまさにそれだ。

 天然の魔石は魔力を失うとただの石になってしまうが、錬金術師や魔法道具職人が作る『精製魔石』は、魔力が空になっても、専用の魔法道具を使って魔力を込めればまた使えるようになる。


 余剰魔力を装置に吸ってもらえば、少女は魔力を暴走させるリスクが減り、精製魔石への魔力充填にもなる。それを仕事にすることもできるのではないだろうか。


「それじゃあ、早めに移動しよう。──あ」


 歩き出そうとしたイリスが、何かに気付いたように足を止めた。


《何?》

「名前名前。名乗ってなかったよね?」

《あ》


 火精霊の少女を振り返ると、きょとんとしたバラ色の目と視線が合った。


「私はイリス」

《僕はラズライト》

《あ…》


 私は、と応じようとした念話が、途中で途切れる。悲し気に目を伏せて、


《…私に名前は無いの》


 今まで誰かに呼ばれる事も無かったのだ。名前が無くても不都合は感じなかったのだろう。ラズライトが言葉に詰まると、イリスが明るい顔で少女に訊いた。


「じゃあ私が名前付けても良い?」

《え? あ……ええ。構わないけれど》


 戸惑いがちに頷く少女の姿を上から下までじっくり眺め、イリスは口の中でいくつかの単語を呟く。


「紅琥珀…呼びにくいか……ファイアオパール…ちょっと違う…ガーネット……でもないな…ルビーは面白くないし」


 一瞬、とても不真面目な言葉が聞こえた気がしたが。


「バラ輝石……ローズ──ロゼ!」


 少女の鮮やかなバラ色の瞳を見て、イリスはポンと手を打った。


「ロゼ、はどうかな?」

《ロゼ…》


 少女が小さく呟く。

 その顔が、ゆっくりと笑顔に変わって行く。


《…ええ、良いわ。これからは私のこと、ロゼって呼んでちょうだい》


 名前を受け入れた瞬間、少女の雰囲気が変わった。


 それまでは浮世離れした精霊独特の空気を纏っていたのが、一気に『地に足をついた』ような──現実的な存在感を持った気配に変わる。


《君にぴったりだね。よろしく、ロゼ》

「ロゼ、よろしく!」

《よろしくね、イリス、ラズライト》


 バラ色の瞳に光が宿り、嬉しそうに微笑む姿はとても可愛らしい。


 イリスとラズライトと共に歩き出す足に、もう迷いは無かった。





 ──この時、この場の誰も気付いていなかったが。


 『名付け』という行為は、精霊にとって非常に重要な意味を持つ。


 名を持たない精霊は、自然現象とさほど変わらない。

 放つ魔力が世界に与える影響は非常に大きく、時に災害レベルの大規模な環境変動を引き起こす、生き物にとって脅威となる可能性を秘めた存在だ。


 だが、名を持った場合──特に『誰かに名付けられた』場合、思考力や感情を制御する力が飛躍的に向上し、一気に存在が安定する。

 代わりに、一度に操作できる魔力量が減るのだが、火精霊の少女──ロゼにとっては、それが非常に良い方向に働くことになる。





「とりあえず、サラマンダーの長の所に戻ろう。ロゼのことずっと心配してたみたいだから、紹介させてね」

《サラマンダーの長? イリス、魔物と意思疎通ができるの?》

《どっちかって言うと、サラマンダーの長の方が特別なんだよ。念話が使えるから》

《そんなサラマンダーも居るのね…》

「色々知ってるから楽しいよ。あと、他のサラマンダーたちは喋れないけど、こっちの言ってる事は伝わるし、気さくな奴ばっかりだから」

《気さく…》

《…ロゼ、イリスは色々おかしいから、『そういうもんなのか』って思っておいた方が楽だよ》

《わ、分かったわ》

「何か失礼な事言われてる気がする」

《気のせい》




祝・連載開始1周年!


…ということで、新しい小説はじめました。

お仕事モノ(?)です。若干違う気もしますが…。

お時間がありましたら、作者ページから飛んでみてくださいませ。


2つ連載になりますが、更新が滞らないように頑張ります(ネタはある)。

これからも『丸耳エルフとねこドラゴン』をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ