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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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65.連携作戦開始


《……えーと》


 割と近くで魔法が飛び交い、大きな羽音と爆発音が交錯する中、ラズライトは停止した思考を無理矢理再起動させる。


(──いやいやいや、正気?)


 再起動させたところで、最初に浮かんだのはそんな感想だったが。


「ちょ、ちょっと待って。跳ぶって……え? ケツァルコアトルスのところまで?」


 ナディが目を白黒させながら訊ねる。こちらも完全に理解が追い付いていない。

 イリスはこくりと頷いた。


「昨日身体強化魔法掛けてもらった時に跳んだ感じだと、スピネルに手伝ってもらえば届くと思うんだ」

《スピネルに手伝ってもらう?》


 呟いた途端、


「クルァ!」


 大柄なオルニトミムスが駆け寄って来た。


「ピルルッ!」

「ルルッ」


 ロクイチが目を輝かせると、スピネルは短く鳴いて応える。

 そのまま得意気に、イリスの横で胸を張った。


 その首筋に右手をのせて、イリスが続ける。


「身体強化を掛けたスピネルに乗って、跳んでもらって、できれば頭突きで障壁を壊して、さらにそこから私が跳べばあいつの頭をぶん殴れると思う」

「ルルルッ!」

「で、あいつが動揺してる隙に、ナディとラズライトには全力で攻撃魔法を打ち込んで欲しい」

《…》


 何となく、作戦は理解できた。理解できたが。


「……無謀すぎるでしょ……」


 ナディがラズライトの内心を代弁してくれた。


「そう? 少なくとも、今一番勝算がありそうな作戦だと思うけど」


 イリスが首を傾げた直後──



「──っあ゛ー! また外れた!」



 爆発音と共に、ロベルトの罵声が響いた。

 見遣ると、腕を前に突き出したゴーレムの横で、ロベルトが頭を抱えている。


 上空を舞うケツァルコアトルスの反撃──降り注ぐ氷の矢をゴーレムを盾にすることで防ぎ切り、かの冒険者ギルド長は苛立った様子で叫んだ。


「イリス、ナディ、ラズライト! 何でもいいから隙を作ってくれ!」


 ラズライトたちが話し込んでいる間、魔法使いたちと連携してずっとケツァルコアトルスを引きつけてくれていたのは分かっていたが、どうやら限界らしい。


 巨大な翼竜の血走った眼がイリスを捉え、甲高い鳴き声が上がった。


《…迷ってる暇はなさそうだね…》


 溜息と共に、イリスに身体強化魔法を掛ける。

 イリスは両手を何度か握ったり開いたりした後、一つ頷いて、ナディが背負う布包みに目を向けた。


「…ところでそれ、持って行って良い?」

「それ?」

「その布包み。ぶん殴るのにちょうど良さそう」


 包みの中身は、台地の上の洞窟から回収した例の杖だ。


《…いや、これ多分結構大事な物なんだけど》


 まさか鈍器認定されるとは思わなかった。


 ラズライトは渋ったが、イリスはなおも食い下がる。


「良いじゃん、減るもんじゃないし。あいつに隙を作りたいだけだから、そんなに力一杯ぶん殴るわけじゃないし」


 イリスの手持ちには、長さのある武器が無いらしい。

 確かに、徒手空拳で挑むより成功率は上がりそうだが──


「おい頼む! はやーく!」


 ロベルトの切羽詰まった叫びで、ラズライトは迷いを振り切った。


《──分かった。絶対壊さないでよね》

「可能な限り善処しマス」

「えっと…」


 ナディが戸惑いながらもイリスに包みを渡す。


《ちなみに、布は外しちゃダメだからね》


 うっかりすると体中の魔力を吸い取られるか、暴走した魔力で氷漬けにされるかも知れないから。


「え」


 告げた瞬間、イリスはぴたりと動きを止めた。

 手元にある布包みを見下ろし、ひくりと頬を引きつらせる。


「何、その危険物」

《だから、結構大事な物だって言ったじゃない。受け取ったからには持って行ってよね》


 精々活用して。


「うええ…騙された気分……」

《気のせい》


 布で包まれ、さらに丈夫な紐でぐるぐる巻きにされているから、振り回しても中身が出て来る心配は無いだろう。


 イリスは諦めたようにくるりと杖を回し、感触を確かめてから左手に持った。

 ひらりとスピネルの背に飛び乗り、


「じゃ、後はよろしく。スピネル、頼むよ!」

「クルァ!」


 切り替えの早さは、イリスのイリスたる所以。


 走り出すスピネルを目で追い、もどかしそうに足踏みをするロクイチに、ラズライトは一つ頼みごとをする。


《ロクイチ、イリスたちの補助に行って》

「ピ!?」

《地上を駆け回って、できるだけケツァルコアトルスの注意を引くんだ。ケツァルコアトルスがスピネルとイリスだけを狙わないように。他の人間とも連携して、くれぐれも、あいつの攻撃を喰らわないようにね》


 要は、囮だ。


 ケツァルコアトルスがずっとスピネルとイリスに注目していたら、彼らが跳んでもあっさり避けられてしまうだろう。

 少しでも注意を分散させ、ケツァルコアトルスがイリスとスピネルから視線を外す瞬間を作る必要がある。

 危険なのは間違いない。野生ならまだしも、ロードランナーの牧場で生まれた、戦闘経験の無いオルニトミムスには荷が重い。


 しかし、


「ル…ルルッ!」


 迷いは一瞬。


 巨大な翼竜がイリスたちを狙って旋回するのを見て、ロクイチはぐっと背筋を伸ばした。

 眼光が鋭くなり、心なしか顔つきも変わる。


《イリスとスピネルのこと、頼んだよ》

「ピルルルッ!」


 ラズライトの言葉に高い鳴き声で応え、ロクイチは木の下から駆け出した。

 真っ直ぐケツァルコアトルスに向けて走りながら、自分に身体強化魔法を掛ける。


 その背中を見送り、ラズライトはナディに視線を移した。


《ナディ、高威力の火属性魔法は使える?》

焔槍(ファイア・ジャベリン)が限界よ。一撃で倒すには足りないんじゃないかしら」


 焔槍(ファイア・ジャベリン)は、上級寄りの中級に分類される魔法だ。

 魔力を1本の槍状に集中・成形するため、威力の高さに対して消費魔力が低く、術の発動までの時間が短い。

 ツインヘッドを倒す際に使ったように、ラズライトも重宝している。


《僕の魔法と重ねれば十分だと思う。タイミングは僕が合わせるよ》

「分かったわ」


 同属性の魔法を重ね合わせると、威力が飛躍的に上昇する。

 完全に位置とタイミングを合わせなければならないため難易度が高く、あまりメジャーな方法ではないが、ラズライトなら可能だ。


 少し場所を移動して視界を確保し、ナディとラズライトは魔法をいつでも発動できるように集中を始める。


 その向こうで、スピネルとロクイチが甲高い声で鳴き交わし、平原を駆け回る。

 ロベルトのゴーレムが火炎弾を放ち、魔法使いたちが様々な属性の魔法を乱発する。


 その魔法をことごとく躱し、ケツァルコアトルスは苛立たし気にイリスを目で追っていた。

 まだ、ナディとラズライトの動きに気付いた様子は無い。


(万が一、こっちが狙われたら──)


 恐らくその瞬間、ケツァルコアトルスがこちらに攻撃を放つ前に、イリスは仕掛けるだろう。


 ならばラズライトたちは、ケツァルコアトルスの攻撃を気にすることなく、とにかくこちらの魔法を確実に打ち込むことを考えれば良い。



 イリスと出会う前だったら、絶対にそうは考えなかった。



 それが、少し心地良い。



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