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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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61.救出作戦開始

 ナディとラズライトの魔法の灯りを頼りに、洞窟を進む。


 カイトたちは、最初こそ洞窟内の至る所に埋まっている様々な魔石に目を輝かせていたが、奥へ進むに従って次第に口数が減って行った。警戒しているのがとてもよく分かる。

 まだ大丈夫──そう伝えようとした時、不意に横を歩くイリスの足が止まった。


「──止まって」

「!」


 囁き声に、カイトたちも立ち止まる。

 ラズライトは即座にイリスの肩に飛び乗った。

 奥の方へ意識を向けると、ヒゲがピリピリと反応する。

 これは──


《…居るね》

「うん」


 小さく頷き合えば、カイトたちに緊張が走った。


 洞窟の奥に、大きな魔力の気配。

 場所は恐らく、行方不明者たちが氷漬けになっているあの広間だ。


「奴か?」

「うん──あいつだね。前来た時は、もっと奥に居たと思うんだけど」


 ラズライトには『大きな魔力』としか認識できなかったが、イリスはあのケツァルコアトルスだと断言した。


「イリスたちが戻って来るのを警戒してるって事か?」

「単純に、時間帯が違うからって線もあるわね」


 カイトの囁き声にヴィクトリアが応じる。


 魔物に限らず、野生動物は大体一日の行動が決まっている。

 ケツァルコアトルスも、朝は毎日あの広間に居るのかも知れない。


「こちらに気付いているのか?」

《動きは無いから、まだ気付かれてないと思うよ。でも、あの場に居られると…》


 救出作戦が決行できない。言外の言葉に気付いた面々が、苦い顔をする。


 イリスが一つ頷いた。


「ここはさっさと、私が囮になってあいつを洞窟から引きずり出した方が良いね」

《それは…》


 元々その予定だったのだ、イリスが言い出すのは当然。


 しかし今この時になって、ラズライトは躊躇した。

 作戦上、行方不明者の救出が優先されるため、ラズライトはカイトたちと共に洞窟に残り、イリスが一人でケツァルコアトルスを引きつける手筈になっている──魔法も使えないのに。


(前は、魔法を打たれても僕がカバーできたけど)


 今度は、イリスの背中を守る者が居ない。

 あの氷の矢を放たれたら、それに一発でも当たってしまったら、彼女は間違い無く凍り付いてしまう。

 想像した瞬間、ラズライトの背中を冷たいものが滑り落ちた。


(そんなの──)


 絶対に嫌だ。


「大丈夫だって、ラズライト」


 ラズライトの恐怖を知ってか知らずか、イリスは肩に乗るラズライトにぐりぐりと頬を擦り付けて笑った。


「洞窟の中じゃあいつも飛べないし、前回で魔法のクセは大体分かった。万が一当たっても、氷の矢の1本や2本、外套で防げるし」


 自慢げに外套の裾を翻す。自信満々な態度に、ラズライトは肩の力を抜いた。


《…君のこの外套、やっぱり変だと思う》

「誉め言葉だね」


 にやりと笑う。


 その後カイトたちと作戦の詳細を詰め、イリスが魔石ランプを頭に装着、ラズライトとナディは魔法の灯りを消した。


 魔石ランプは、灯り魔法が使えない者に重宝される携帯照明器具の一種だ。

 オイルランプと違って、エネルギー源は魔石。

 本体価格も消耗品価格もオイルランプよりずっと割高だが、魔石1個でかなり長く使える。


 そして、最大の特徴は形状の多彩さ。


 今イリスが装着している物が最たる例だ。

 可燃性の高い油を燃料とするオイルランプは危なくて頭に装着することなどできないが、魔石ランプなら熱くなったりもしないので安全に使用できる。


 ただし、ヘルメットの頂点に球状のランプが乗っかっているようなその見た目は『あちらの世界』のバラエティー番組を彷彿とさせる上、それが光り輝いて周囲を照らす光景は間抜け以外の何ものでもなく、ラズライトとしては大変微妙な気分になるのだが。


「それじゃ、行きますか」


 背中がムズムズするような感覚と戦っていると、イリスが真面目な顔で洞窟の奥を見た。

 『あちらの世界』の記憶を持つのはラズライトだけなので、カイトたちも当然緊張した面持ちでそちらを見ている。


 先程より一段暗くなった洞窟の中、ラズライトは無理矢理思考を引き戻した。


《イリス、入り口が氷で塞がってると思うから、氷の下に火と風の魔石を設置して。僕が着火する》

「最初に来た時と同じだね、了解」


《他の全員は、僕がこれから隠蔽魔法を掛ける。この坂を下り切ったら、左右に分かれて突き当りの壁に張り付いてて。絶対に音を立てないようにね》


 隠蔽魔法の最大の弱点は、音を消し切れない事だ。

 多少は消音効果もあるが、例えば咳払いなどしたら一発でバレてしまう。


「分かった」


 カイトたちは隠蔽魔法で姿を隠した上で通路側の壁に張り付き、イリスが単身で広間に突入、ケツァルコアトルスを煽るだけ煽って洞窟外へ逃走し、相手が追跡の為にその場を離れるように仕向ける。


 ケツァルコアトルスが洞窟を出てイリスを追って行けば、後はカイトたちの出番だ。

 速やかに行方不明者たちを救出し、洞窟を出て台地から降り、街まで護送する。

 状況次第では、台地を降りてから何人かは別動隊のケツァルコアトルス討伐班に合流し、彼らのフォローに回る。


 この作戦が成功するか否かは、イリスが上手くケツァルコアトルスを誘導できるかに掛かっているが──


「…うわ、結構近いな」


 頭上のランプを堂々と光らせて坂を下るイリスが、ぼそっと呟いた。


 広間に居るケツァルコアトルスの位置は、思ったよりこちら側に近かった。

 至近距離ではないし、こちらを直視できる位置関係でもないが、入り口の氷を融かしているうちに気付かれそうだ。


 動きはまだ無い。寝ているのかも知れない。


「まあ何とかなるか…」


 坂の終着点、広間への入り口があるはずの壁は、やはり再び氷で覆われていた。

 前回ラズライトたちが侵入し、逃走したのがここだから、ケツァルコアトルスが穴を塞ぐのも当然だろう。


 イリスは氷の壁の範囲を確認すると、火と風の魔石を地面に置き、一歩退いた。

 ラズライトが軽く魔力を注ぎ、前回と同じように氷の壁を融かして行く。


 その炎が消え切らないうちに、イリスは広間へ突入した。


「──!」


 入って数秒もしないうちに、甲高い咆哮が上がる。

 ラズライトの隣で壁に張り付くナディが、びくりと肩を震わせた。

 いくら実力のある冒険者とはいえ、洞窟内部の至近距離で大型飛行魔物の殺気立った声を聴いた経験はそれほどないのだろう。


 その声に対抗するように、複数の小さな爆発音と閃光。

 イリスが牽制用の魔法弾と閃光弾をばら撒いたようだ。

 ズシン、と重々しい振動と、苛立ちを込めた唸り声が上がる。


 さらに何回か打撃音が響いた後、入り口からイリスが走り出て来た。

 その手には何故か自分の頭より大きい氷の塊が抱えられている。


 間を置かず、轟音と共に巨大なくちばしが突っ込んで来た。

 入り口で詰まるのは織り込み済みらしく、イリスに向けて思い切りくちばしを突き出し──がぱ、と開いた口の前に、青白い魔法陣が展開する。


「させるか!」


 イリスが氷の塊を両手で振りかぶり、全力で投擲した。


 一抱え近くある氷塊は、ケツァルコアトルスの口の奥に盛大な音を立てて嵌め込まれる。

 魔法陣が揺らぎ、完成し損ねた魔法が小さな氷の粒になって周囲に転がった。


(物理で止めたよ…)


 いや、魔法には集中力が必要だから、方法としては間違いではないが。


 口の奥に氷塊をぶち込まれたケツァルコアトルスは、ぐげっとえづいた後、氷を無理矢理砕いて呑み込んだ。


 改めてくちばしを向けた時には、イリスは既に背中を向けて走り出している。


 タタタタ、と軽快な足音があっという間に遠ざかり──ケツァルコアトルスは即座にくちばしを引っ込め、身を翻す。


 一瞬見えた鋭い目は完全に怒り狂い、ラズライトたちに気付いた様子は無かった。



「…」


 そのままケツァルコアトルスの気配が遠ざかるのを待つこと数分。


《──もう大丈夫だよ》


 ラズライトが囁くと、周囲からため息が漏れた。


《それじゃあ──後は僕らの仕事だね》


 隠蔽魔法を解き、ラズライトは広間の入口へと足を向ける。

 カイトたちが大きく頷いた。




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