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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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60.台地、再び。

 その後一行は台地の麓で野営し、翌朝早く、オルニトミムスたちを地上に残して台地の上へ登った。


「…」


 ナディの浮遊魔法とラズライトの隠蔽魔法を併用したため、今度の登頂は極めてスムーズだ。

 ふわふわと浮かぶこと十数分、あっさりと台地の上へ到着したのだが──イリスは何故か憮然としている。


《どうしたの? イリス》

「……つい数日前の私の労力と今回の『ただ立ってただけ』の時間の落差について、どう心の折り合いをつけたら良いのか悩んでる」

《…ああ、うん》


 気持ちは分からないでもない。


 だが、それが魔法というものだ。


《でもほら、ナディはこの前の君と同じくらい疲れてるし》


 視線を向ける先には、初めて見る台地の上の光景に目を輝かせているカイトとヴィクトリア、仰向けで地面に倒れるナディ、そのナディを介抱しつつカイトたちのはしゃぎっぷりに苦笑するギア。


 ナディは浮遊魔法で力を使い果たしていた。

 他のメンバーは気付いていないようだが、彼女は台地の上まで後少しというところで魔力が切れ掛け、残り数メートルの浮上を気力と集中力のみでやってのけたのだ。

 魔法使いとしての矜持なのか、とんでもない精神力だった。


《ナディ、大丈夫?》


 ラズライトが近寄ると、ナディは薄目を開けて恨めし気にこちらを見た。


「…何で隠蔽魔法なんて高難度の魔法を全員に掛けてケロっとしてるのよ、あなた…」

《そりゃあ──》

「ラズライトだし」


 イリスが滑らかに後を引き取った。

 ナディは遠い目をして、そうね、そうだったわ…と呻く。


 ラズライトが見た目通りのケットシーではなく、ドラゴンだという事を思い出したのだろう。


 思い出してもらったついでに、ナディの額に右前足の肉球を押し付ける。

 そこからそっと魔力を流し込むと、ナディは少し驚いた顔をした。


《ヴィクトリアにバレたらまずいから、ちょっとだけね》


 ケットシーは人間より魔力量が低いため、普通なら魔力を渡したりできない。


「ええ…ありがとう」

「良いなー…肉球」


 本気で羨ましそうなイリスの呟きは無視する。


「すまない」


 ギアが真面目な顔で頭を下げてきた。


《気にしないで。ナディが魔法を使えないと、救出の時に支障があるかも知れないでしょ》


 今回の面子の中で救出に必要な火属性の魔法が使えるのは、ラズライトを除くとナディだけだ。

 魔法ではなく魔石を使って行方不明者を氷の中から救出するにしても、最初の切っ掛けに繊細な魔力操作が必要になるので下手な人間には任せられない。

 つまり、彼女の能力は必須。


 程無くして動けるようになったナディは、自分の荷物から魔力回復薬を取り出して一気飲みした。


「──っくう…苦い」


 盛大に顔を顰める。


「そんなに苦いの?」

「今まで私が経験した限りでは、これ以上苦い液体に出会った事は無いわね。気付け薬の方がマシだわ」

「うへえ…」


 イリスは魔法が使えないので、魔力回復薬を飲んだ事は無いのだろう。


 魔力回復薬は、『あちらの世界』で言う『にがり』をさらに濃縮したような強烈な苦みのある乳白色の液体だ。

 香りも独特で、青臭いと言うか、カビのような匂い。

 はっきり言って人間の飲み物ではない。


 …ラズライトがその魔力回復薬を飲んだのは、前の前の人生か、それよりさらに前の世での話。

 下手をしたら百年以上前の時代なので、厳密には今の魔力回復薬と同じ味とは限らないが。


 と言うか、せめて少しくらいはマシな味になっていて欲しい。

 アレを味わった身としては、切実に。


「さてっ…と」


 そんな罰ゲームレベルの味だが、効果は確かだ。

 あっという間に魔力の回復したナディが立ち上がり、軽く伸びをする。


「色々と見て回りたいところだけど…まずは救助が優先よね」


 真剣な目で周囲を見渡し、


「洞窟の入り口って、ここから近いのかしら?」

「うん。でもその前に、降下ルートを確保しておかないとね」


 一度やった事があるので、イリスの動きは速い。

 登頂地点の近くの木にワイヤーロープを結び付け、降下用の金具もセットする。

 前と違うのはその本数だ。次々と用意していると、カイトたちも合流し、少し離れた場所にも設置し始める。

 最終的には、予備も含めた10本のワイヤーロープが崖下へ垂らされた。


「これで良いか?」

「十分だろ。後は、俺たち次第だな」


 カイトが右拳と左の手のひらを胸の前で打ち合わせ、気合いを入れる。


「じゃあイリス、案内を頼む」

「はいよー」


 火属性と風属性の魔石を拾いながら、イリスが一行を洞窟の入口へと案内する。


 登った場所から洞窟までは、かなり近い。

 ジェフたちが行方不明になった当時と同じルートで登って来た事を考えると、彼らが吸い込まれるように洞窟へ入り、ケツァルコアトルスと遭遇したのは必然だと思えた。


「ここなんだけど…」

「確かに、洞窟ね」

「俺らは入れそうだが…ギアは行けるか…?」

「厳しいな」


 洞窟の入り口は、先日入った時と同じく、岩の裂け目のような見た目でその場に口を開けていた。

 普通の体格の人間が一人、ギリギリ通れるかどうかという幅だ。カイトやヴィクトリアくらいなら何とかなりそうだが、ギアは明らかにサイズオーバーだった。


「魔法で少し、入り口部分の形を変えましょう。確か狭いのは入り口だけで、入ってすぐ広くなるのよね?」

「うん。2メートルくらい入れば広くなるよ」


 イリスの答えを受けて杖を構えるナディに、ヴィクトリアが待ったを掛ける。


「内部の構造を実際に確かめてからやった方が良いわ。間違った場所を拡張したら、崩落するかもしれないでしょう?」

《僕もそれが良いと思う》

「分かった。じゃあ、私が一緒に行って確認してくるよ。ナディ、行ける?」

「ええ」


 イリスとナディが頷き合い、岩の裂け目に入る。

 数秒もしないうちに、暗闇の向こうに魔法の灯りが浮かんだ。

 何やら洞窟の中で喋った後、すぐに二人は戻って来る。


「確認できたわ。行けると思う」

「大丈夫なのか?」


 カイトの疑問にはイリスが答えた。


「ここを構成してる岩盤、かなり固いんだよ。そんなに風化も進んでなかったから、多少地形を変えたところで崩れる事も無いと思う」

「そうか」


 鉱物採取を生業としているイリスの言葉には説得力がある。

 納得して頷くギアの横で、改めてナディが地属性の魔法を使い、洞窟の入り口はあっという間に拡張された。


「おお」


 イリスが軽く目を見開く。


 高さは前と変わらないが、幅は入った先の通路と同じくらい。

 両側に柱、天井部分に梁のような岩を配置した、大変丈夫そうな構造だ。


(劇的ビフォーアフタ…いやいや)


 こほん、内心で咳払いする。


 入り口が広くなれば、洞窟内でケツァルコアトルスに遭遇しても、脱出がスムーズになる。

 イリスが囮になっても、逃走距離を稼げるだろう。


《これなら大丈夫そうだね》


 ラズライトの言葉に、カイトたちが同意を返し──



 一行は、洞窟内部へと足を踏み入れた。




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