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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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57.オルニトミムスの行軍

「ルルッ」


 スピネルの一声で、選抜された個体以外のオルニトミムスたちはさっさと解散する。


 残ったオルニトミムスたちも少しだけ緊張を解き、お互いに顔を見合わせて囁くように鳴き交わし始めた。

 スマートな個体が短く鳴くと、ロクイチも慌てた様子でその輪に加わる。

 打ち合わせでもしているのだろうか。


「おーい!」


 その後門兵と色々話していると、カイトたちがやって来た。

 カイトたちは最初に森で会った時と同じような装備。ヴィクトリアは──白衣の代わりに丈夫そうな皮の胸当てと使い込まれた外套を着込み、手には鉄の鋲が打たれたグローブを嵌めている。

 どこからどう見ても、拳闘系の冒険者だ。


「すまん、待たせたな」

《大丈夫、こっちも色々やってたから》


 カイトの言葉に軽く応じていると、門兵が同僚と共にオルニトミムスたちの背中に次々装具を付けて行く。

 装具を付けると、オルニトミムスたちの顔つきが変わった。

 キリッとした目つきになり、乗り手である冒険者たちを見渡す。


「あら、壮観ね」


 ヴィクトリアが目を細めた。

 聞けば、ここまで大所帯のオルニトミムスを連れて行くのは珍しいそうだ。レンタル料がレンタル料なので、当たり前だが。


 なお、イリスが負担するのは自分で確保したスピネルのレンタル料だけで、他のオルニトミムスたちの料金はカイトたち『上弦の月』が支払う事になっている。

 この依頼が成功すればどのみちギルドが実費を補填してくれるのだが、如何せん、イリスには先立つものが無かった。


「何か失礼な事言われてる気がする」

《気のせい》


「さて──」


 イリスとラズライトのやり取りをさらりと流し、カイトが全員を見渡す。


「改めて確認するぞ。目的地は、ここから南、一番近い台地の南東部。今日中にそこまで行って野営する。道案内はイリス、頼む」

「任せて」


「明日は朝イチから行動開始だ。強行軍になるが、無理はしないこと。不調の場合はすぐに申し出ること──ヴィクトリアさんが同行するしな」

「ええ、大概の不調やケガならバッチリ対処したげるわ」

「分かったわ」

「承知した」

《特にイリスね》

「はーい」


 若干名、適当な返事をした者が居るが、カイトはそのまま続けた。


「それじゃあ、出発するぞ」


 特に誰がどのオルニトミムスに乗るか打ち合わせるでもなく、カイトはスマートな個体に飛び乗った。

 ギアはスピネルの次に大きな個体に。ヴィクトリアもナディも、それぞれ手近なオルニトミムスを選ぶ。


「スピネル、よろしくね」

《よろしく》

「クルァッ!」


 イリスが声を掛けると、スピネルは目を輝かせて背中を向けた。

 他より一回り大きな背中には、ぴったりサイズの真新しい鞍が載っている。

 ロードチェイサー用の装具は無いと思っていたのだが、聞けば、オルニトミムスの装具を作る職人たちが材料をかき集め、総力を結集して超特急で作り上げたらしい。


「ロードチェイサーを連れて帰って来た時点で、絶対に何か起こるだろうなと思ったんだよ」

「良く分かっていらっしゃる」

「そりゃあな」


 溜息をつく門兵の口元が、ちょっとだけ笑っていた。



「じゃあ、行ってきます!」


 オルニトミムスを借りた場合、2番目の門と3番目の門はほぼフリーパスだ。


 カイトの誘導で専用の出入り口を通過し、一行は南の半島の平原へ跳び出した。


「イリス、ここからは先導を頼む!」

「りょーかい! 途中休憩は挟むけど、飛ばして行くよ!」


 イリスがカイトに応じると、即座にスピネルが短く鳴いた。


 それだけで、バラバラに走っていたオルニトミムスたちが集まって来る。

 人間を乗せた比較的大型のオルニトミムスたちが、スピネルを頂点にした三角形の陣形を組む。

 その三角形の内側に、残り3頭のオルニトミムスが入った。

 スピネルの真後ろ、一番風の影響を受けにくい位置にロクイチが配置される。


 陣形が整ったところで、スピネルが軽く顎を上げた。


「──クルアァァァァ──!」


 長く尾を引く高い声に、他のオルニトミムスたちも追随して鳴く。

 途端、ぐん、とスピードが上がった。オルニトミムスたちが身体強化魔法を使ったのだ。


 その速度は、まさに風。


(すごい…!)


 圧縮バッグのベルトに身体を固定したラズライトは、内心で感嘆する。


 イリスも相当速かったが、オルニトミムスたちの走りは次元が違う。

 上下動が恐ろしく少ないのに、風圧がものすごい。正面を向いた状態で目を開けていられないくらいだ。


 多分イリスでも、素の状態では前が見えない。

 門兵が『良いから持って行け』とイリスにゴーグルを押し付けていた理由がようやく分かった。


「すごいすごい!」


 そのイリスは、門兵が貸してくれたゴーグルをちゃっかり装着し、はしゃいだ声を上げている。


 ゴーグル越しでも分かる満面の笑みには、これから行方不明者の救出に行くのだという緊迫感は欠片も無い。


(まあ、イリスらしいけど)


 風圧を避けて後ろを見ると、同じようにゴーグルを着けたカイトたちの口元も笑っていた。

 イリスのはしゃぎっぷりが面白かったらしい。

 相棒としては少々アレだが、まあ今から緊張しているより良いだろう。


 隊列を組んで走るオルニトミムスたちは、これだけの速度を出しているのに涼しい顔をしている。

 が──


(…あれ?)


 1頭だけ、例外が居た。


「…!」


 歯を食いしばり、必死の形相で走る小さなオルニトミムス。

 スピネルの真後ろを走るロクイチだけは、明らかに全力、限界ギリギリという表情だった。

 身体が小さいから、身体強化魔法を使ってもさほど速度が出ないのだろうか。


(…いや、これ、もしかして)


 ラズライトが注意深く見守っていると、小一時間も経たないうちに、ロクイチは少しずつ遅れ始めた。

 後ろを走る2頭と並んでしまい、自分より大きな2頭に渋い顔をされる。


「ルッ…」

「ピ…!」


 咎めるような視線を受けて、ロクイチは必死で元のポジションに戻ろうとする。


 しかし、ずっと限界ギリギリの速度で走っているのだ。

 それ以上のスピードが出せるわけがない。


「…」


 イリスがちらりと後ろを見て、唇を引き結んだ。

 スピネルも先程からちらちらと後ろを気にしている。


「スピネル、そろそろ休憩にしよう!」

「ルルッ!」


 イリスが声を掛けた途端、スピネルは鋭く鳴いた。

 オルニトミムスたちが各々減速を始め、足音が乱れる。


 数十メートル掛けて減速し、少し大きな岩の陰で一行は足を止めた。


「きゅーけーい」


 真っ先にスピネルの背から降りたイリスが、ぐっと伸びをする。

 その背中の圧縮バッグから飛び降り、ラズライトはロクイチに駆け寄った。


「…ピ…」


 他のオルニトミムスたちが平然としているのに、ロクイチだけは息も絶え絶えといった風情で項垂れ、荒い息をついている。


「大丈夫か?」


 カイトが心配そうにロクイチを見遣る。

 彼らの位置からは、走っている間のロクイチの様子もよく見えただろう。ナディとギアも複雑そうな顔をしているし、ヴィクトリアは少し興味深そうにこちらを見ている。


「…」


 すっかり憔悴しているロクイチに、スピネルがわざと足音を立てて真っ正面から歩み寄った。




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