54.作戦会議
ヴィクトリアの一声で、会議室の面々はようやく本題に入った。
つまり、『どうやって残りの3人を助け出すのか?』である。
「イリス、ラズライト。ジェフを救出した時、他の3人の安否は確認できたか?」
《3人とも氷漬けになってたけど、正直、生きてるかどうかは分からない。最初見た時、ジェフの事も死んでると思ったし》
「ジーンにジェフの魂糸の石を見せてもらってたから、生きてるって判断できたんだよね」
氷漬けの状態では、気配も魔力も感じられなかった。
イリスが魂糸の石を本物だと断じていたため、あの光景を見ても生存を信じられたのだ。
「なるほど…」
ロベルトが難しい顔で顎に手を当てる横で、ヴィクトリアが肩を竦める。
「今この場で3人の生存可否は判断できないでしょ。生きてる前提で話を進めたらどう?」
「そうだな。──で、イリス。3人が居るのは、台地の上から入れる洞窟の奥、で間違い無いな?」
「はい」
「ふむ…」
ロベルトの視線がカイトたちとラズライトを順に巡る。
「救出作戦に、ジェフ達が台地に登ったルートを使うとして、隠蔽魔法と浮遊魔法が必要なわけだが──」
さらりとイリスが登ったルートは却下されているが、誰も突っ込まない。
と言うか、イリスの話を聞いた時点で他者には不可能だと判断されているのだろう。
海側の崖を命綱無しで登るのだから、当たり前と言えば当たり前だが。
「浮遊魔法だったら、私が使えます。6人くらいまでが限度ですけど…」
「隠蔽魔法は、私が」
ナディに続いてジェフが名乗りを上げたが、ヴィクトリアが首を横に振る。
「ジェフはダメよ、魔力も体力も戻ってないんだから。本当なら、事情聴取も会議もすっ飛ばして入院か自宅療養になるところなのよ?」
「ですが…」
《隠蔽魔法なら、僕が使える》
ジェフの反論を遮ってラズライトが言うと、その場の全員の視線が集中した。
「なに!?」
「本当ですか!?」
《ここで嘘ついても仕方ないでしょ》
溜息をついて頷く。
できれば秘密にしておきたかったが──何故かカイトたちがごく普通に参加しようとしているし、元はと言えばイリスが受けた依頼だ。
ラズライトだけ他人事でいるつもりは無い。
《僕が維持できるのは、一度に5人くらいまで。持続時間は30分が限度。登るのに間に合いそう?》
ナディに尋ねると、彼女は少し難しい顔をした。
「高さにもよるわね…」
「ジェフ、3年前に登ったのはどの辺りか分かるか?」
「ええ、確か比較的南寄りの──その辺りです」
ジュリアが地図の上を指でなぞり、ジェフが示したのは、台地の南西部、地図上では緩やかに窪んでいるように見える地点だった。
「ああ、なるほど」
その地形を一目見て、イリスが頷いた。
「窪んでるから、左右からの風が直接当たらないんだ。丁度吹き溜まりみたいになる」
「はい、まさしくそうです」
ジェフが我が意を得たりと肯定を返す。
「ここだと、高さは──大体250メートル程でしょうか」
「250…」
ジュリアの言葉を反芻し、ナディは口元に指を当てる。
反対側の手で空中に何やら文字を書き、しばらくして顔を上げた。
「──行けると思うわ」
「なら、決まりだな」
ロベルトがにやりと笑った。
「まずは、行方不明者の救助が優先だ。少数精鋭で台地に登り、洞窟内へ侵入して3名の救出を行う」
全員を見渡し、
「メンバーは、カイト、ギア、ナディ、イリスとラズライト。それからヴィクトリア」
《え》
まさか回復術師の名前まで挙げられるとは思わなかった。
ラズライトが思わず呻くと、ヴィクトリアがバチンとウインクする。
「心配無いわよ。これでも昔は、バリバリの冒険者だったんだから」
いや、筋骨隆々とした体格を見るに、今でも十分現役で通用しそうだが。
「ヴィクトリアが同行すれば、3人を救助した後すぐに応急処置ができる。それに見ての通りの力自慢だからな。歩けない者が居ても、一人や二人なら背負って運べるだろう」
「あら、力自慢だなんて失礼しちゃうわね──まあホントだけど」
でなきゃ錯乱する冒険者取り押さえて治療するなんてできないもの。
ロベルトのコメントに、ヴィクトリアが頬に手を当て小首を傾げる。
所作は上品だが、言動はなかなか豪快だ。
「3人を救助するのに並行して、ケツァルコアトルスの討伐も行う。こちらは俺の方で別動隊を組もう。──カイト、アインは動けそうか?」
「…難しいですね。毒は抜け切りましたが、体力が戻っていません。南の半島へ出るのは、最低でも半月リハビリを行った後にしろと医師に言われました」
「そうか。アインの弓があればかなり有利になると思ったんだが…無理はさせられないな」
アイン──特殊な毒を受けて倒れたカイトたちの仲間か。
完全解毒薬で解毒はできても、体調はそう簡単には元に戻らないだろう。
まして、今回は変質個体と思われる大型の飛行型魔物の討伐だ。少しでも不安要素があるなら、参加しないのが一番良い。
「あのー…」
イリスが恐る恐る手を挙げた。
「私、昨日逃げる時に思いっ切りケツァルコアトルスを挑発したんで、奴に見付かったら真っ先に狙われると思うんですけど…別動隊の方に上手く向かって行くんですかね?」
イリスが狙われたら、ケツァルコアトルスは必然的に救助部隊の方に向かう事になる。
別動隊を組んでも、そちらにケツァルコアトルスが向かわなければ意味が無い。
心配をよそに、ロベルトはにやりと笑った。
「だから、お前も台地の上に向かわせるんだ。──恐らく奴は、洞窟の中かその周辺に居るだろう。見付からずに3人を救助できれば御の字。カイトたちが3人を搬送した後、台地の上で暴れるなり何なりして、奴を引きずり出してくれ」
《救助の途中で見付かったら?》
「囮になって、奴を台地の下まで引っ張って来てくれ」
真顔でとんでもない事を言い出した。
「無茶をおっしゃる」
「相手がお前だからな」
ロベルトは大真面目に腕組みする。
「罠付きの迷路を最短ルートで突破した挙句、俺の自慢のゴーレムをハンマーとタガネの一撃で崩壊させた実力、存分に発揮してくれ」
どうやら根に持っていたらしい。
含みのあるロベルトの台詞に、ヴィクトリアが苦笑した。
「ああ、ちょっと前に愚痴ってた変態レベルの新人ってイリスの事だったのね」
《変態》
言い得て妙である。
「何か失礼な事言われてる気がする」
「あらヤダ、褒めてるわよ」
ヴィクトリアがすぐさま否定するが──目が笑っている。
なお今回に関しては、はっきりと『変態レベル』呼ばわりされているので『気のせい』ではない。
一方カイトたちは、ロベルトの発言に考える仕草をした後、ポンと手を打った。
「ああ、ギルドの裏の訓練施設のことか。あれ…結構キツかったよな…?」
「迷路はともかく、ゴーレムがな」
「私は罠が辛かったわ」
ギアとナディも渋い顔をする。
聞けば全員、個別にあの施設にチャレンジしたことがあるという。
「パーティで挑むならともかく、1人じゃ辛いだろ、あれは」
「え、そうなの?」
イリスが首を傾げると、カイトたちは顔を見合わせ、まあイリスだから…と悟ったような表情になった。
「でもあのゴーレム、額の石剥ぎ取ったら勝手に崩壊したよ?」
「そりゃあ、コアが弱点だから──いや待て、剥ぎ取るって何だ剥ぎ取るって」
「採取屋の基本スキル」
タガネを任意の場所に打ち込み、ハンマーでタガネの頭をぶっ叩いて岩を好きな位置で割る。
採取屋には無くてはならない技術だ。
ただし、普通は活動中のゴーレムに跳び乗ってコアを叩き外したりしない。
そうラズライトは指摘したが──イリスは首を傾げるばかりだった。




