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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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53.事情聴取

 ヴィクトリアたちの処置を受け、ジェフは自力で歩ける程度にまで回復した。


 イリスは言わずもがな、全快である。

 もう少し大人しくしていて欲しいと思わなくもないが、『大人しいイリス』が実在したらそれはそれで気持ち悪い。


「何か失礼な事言われてる気がする」

《気のせい》


「さて──」


 ギルド2階の会議室。

 集ったメンバーを見渡し、ロベルトが軽い口調で切り出した。


「それでは、状況確認と作戦会議といこうか」


 ギルド長のロベルトの横にはヴィクトリア。

 その反対側には、南の半島の地図が貼られた黒板を背に、ペンを持ったジュリアが立っている。


 ヴィクトリアの隣には、門で出くわしたカイト、ギア、ナディ。

 それと向かい合わせに、ジェフとイリス、ラズライトが並んだ。


 コの字型にテーブルを囲み、まずは──とロベルトがイリスを見る。


「イリス、四日前に捜索依頼を受注して、今日帰って来たわけだが──その経緯を詳しく教えてくれるか?」

「分かりました」


 頷いて、イリスがざっと四日前からの流れを説明する。


 一日目、ギルドの資料を漁った結果、街から一番近い台地に目星を付けた。

 その夜、カラスの羽休め亭でジーンから魂糸の石を見せてもらい、ジェフが生きているかも知れないと考えた。


 二日目、台地の下まで移動して、野営の最中にオルニトミムスに懐かれた。


 三日目、台地に登り、探索中に洞窟を見付けて中に入ってみたところ、氷の中に閉じ込められているジェフ達を発見。

 ジェフだけ救出した直後、氷の魔法を使うケツァルコアトルスに襲われた。

 その後、台地から降下し、オルニトミムスの助力も得てケツァルコアトルスから逃走。


 四日目、街へ帰還。


「…オルニトミムスに懐かれる…?」

「…台地に、登った?」

「氷の魔法を使うケツァルコアトルス…」

「…その前に移動速度おかしくないか?」


 ヴィクトリアやカイトたちが口々に呻く。

 気持ちは分からないでもない。実際体験したラズライトも、いまだに実感が湧かないのだ。


 しかし、ジュリアとロベルトの反応は違った。


「…イリスさんですからね…」

「それで片付けるのは早計だとは思うが…まあ、そうだな」

《それ、理解を放棄したって言わない?》

「世の中には、深く考えない方が良い事もあるんだよ」


 ラズライトが突っ込むと、ロベルトは重々しく呟いた。

 まあ確かに…とカイトたちも頷いている。


 それで良いのか。


「さて…次はジェフ、3年前に何があったのか、教えてくれ」


 早々に話題を切り上げたギルド長に促され、ジェフが頷いた。


「──3年前、私は既に冒険者を引退した身ではありましたが、昔馴染みに声を掛けられて南の半島へ赴きました」


 目的は、新たな鉱床の探索。

 パーティのメンバーはジェフを含めて4人──いずれもギルドの記録と一致する。


 そもそも彼らが鉱床の探索に乗り出したのは、あの台地に登るルートの目星がついたのがきっかけだった。


 パーティの最年長であるスカウトが、地形的に乱気流の影響を受けないと思われるエリアを発見したのだ。

 そこなら、浮遊魔法で台地の上までたどり着ける可能性が高いと踏んだ。


 しかし、台地周辺は飛行型魔物の棲み処でもある。浮遊魔法で浮いている最中に襲われたらひとたまりもない。


 そこで、隠蔽魔法の使い手であるジェフに助力を頼んだ。


 隠蔽魔法で姿を隠し、浮遊魔法でパーティメンバー全員を台地の上まで運ぶ──彼らの計画は、見事に成功した。


 そして、台地の上を探索している最中、地下へ続く洞窟を発見。

 奥まで行ってみたところ、氷魔法を使うケツァルコアトルスと遭遇し、抵抗する間も無く氷漬けになった。


「氷漬けになっている間、曖昧ではありますが、意識はありました。イリスさんとラズライトさんに救出されて、3年も経っていると聞いた時は本当に驚きましたが…」

「多分、体感時間が違ったのね。詳しい原理はサッパリだけど、氷漬けに飲まず食わずで3年生きてたって事は、その氷自体に特殊な性質があったんでしょ」


 ヴィクトリアの推測に、全員が頷く。

 でなければ、今ジェフが生きている理由が分からない。


 『あちらの世界』のクマムシではあるまいし、普通は氷漬けになったら死ぬ。


「しかし、氷魔法を使うケツァルコアトルスか…」


 ロベルトが難しい顔で顎に手を当てた。


「もしかしたら、『変質個体』かも知れん」

《変質個体?》


 あまり馴染みの無い単語だ。ラズライトが首を傾げると、ジュリアが解説してくれる。


「魔物の中には、稀に本来の属性とは異なる魔力を持つ個体が居ます。冒険者ギルドや関係各所では、これを『変質個体』と呼んでいるんです」

《ああ…たまにいるあれか》


 ラズライトにも、いくつか思い当たる節があった。


 例えば、水魔法を使うサンドワーム。

 『(サンド)』と付くだけあって本来は土魔法を使うのだが、その個体は何故か地面から間欠泉のように水を噴き上げる魔法ばかり使っていた。

 自分の近くにしか発動できないらしく、距離を取っていればただの水芸だったので、しばらく鑑賞した後にラズライトはその場を去ったのだが──今思うと、あれも変質個体だったのだろう。


「変質個体については、最近色々と分かって来てな。魔物が本来の属性とは異なる魔力や魔素を短時間で大量に浴びた場合──十中八九死ぬんだが、ごく稀に生き延びて、その浴びた魔力や魔素の属性を獲得するらしい」


 ロベルトが変質個体の成り立ちを説明してくれる。

 ずいぶん具体的な情報だが、まさか誰か実験でもしたのだろうか。


 ──王都の研究所あたりならやりそうだが。


「ケツァルコアトルスが氷魔法を使えるなんて聞いたこと無いし、変質個体の可能性が高そうね」


 ナディが溜息をついた。


「自由に飛べる上に、氷魔法…最悪だわ」

「ホントだな…」


 カイトも非常に嫌そうな顔をする。

 確かに、飛行型魔物に上空から氷の塊を打ち込まれてはたまったものではない。爆撃機のようなものだ。


「あれ? でもちょっと待って」


 イリスが首を傾げた。


「変質個体で、氷魔法を使うって事は、()()()()()()()()()()()()()()()()って事だよね? …南の半島に棲んでるのに、どうやって?」


『…え?』


 全員がピタリと動きを止めた。


 南の半島はかなり温暖な気候で、冬でも基本的には凍らない。

 一部、極端に標高の高い場所にたまに雪が降るくらいだ。


 つまり、氷属性の魔力や魔素が存在する要素が極めて少ない。


《…確かに、南の半島で氷属性って…自然に湧き出すような所も無いよね?》

「そういえば…」

「少なくとも、探索が終了しているエリアでは…無いな」

「あ、あそこはどうだ? 南端の火山地帯。山頂付近は時々雪が積もってるだろ?」

「火山は前に登った事があるけど、がっつり溶岩地帯だったよ。積雪があるって言ってもまだら模様だったし、冬だけでしょ? それじゃ氷属性の魔力も魔素もそんなに無いと思うし…」

「おいちょっと待てイリス、あの火山は()()()()()だったはずだが?」

「え? そうなの?」

《考えるだけ無駄だと思うよロベルト》

「私もそう思います、ギルド長」


 イリスがまた変な事を言い出したところで、パンパン、とヴィクトリアが手を叩いた。


「ほら、脱線してるわよー。問題は、ケツァルコアトルスが変質個体だったとして、それをどうやって攻略して、どうやって残りの3人を救出するか、でしょ?」


「あ、ハイ」


 ロベルトがピシッと姿勢を正した。


 …もしかして、ヴィクトリアが同席しているのは、こういう時の軌道修正役だからなのだろうか。




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