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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
序章

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4.仮の姿

 結局冒険者たちは、『黙っていればバレない』という結論に達し、あっさりと去って行った。


《やれやれ、騒がしい奴らだったな》


 ノラが一段低い枝に飛び降り、肩を竦めるように翼を軽く開く。


《一番騒がしいのがまだ残ってるけどね──ダメだよ》


 ちらり、ラズライトが人間に視線を投げると、たてがみに手を伸ばそうとしていた人間がピタリと動きを止めた。


「ちっ、惜しい」

《惜しくない》


 舌打ちする人間は、既にあと一歩というところまで近付いている。

 何を言っても聞きそうにない態度に、ラズライトは半ば諦めの境地に立っていた。


 ──それより気になるのは、先程の冒険者たちの話。


 彼らが言っていた牧場は、確かこの森から街道を挟んで反対側に位置している。

 そこからここまで、徒歩で数時間。討伐対象を探すにはいささか遠すぎる。


 普通、同じ場所で続けて被害が出ている場合、討伐対象は現場付近に潜んでいる事が多い。

 エサ場の近くに居た方が、移動時のリスクを減らせるからだ。


 だがあの冒険者たちは、探索魔法を使っても牧場付近で討伐対象を見付けられず、こんな離れた森の奥までやって来た。


(…考えられるとすれば…)


 ある可能性に思い当たり、ラズライトは内心で溜息をついた。

 ゆら、と魔力を動かすと、ノラが気付いてニヤッと笑った。


《おっ、世話焼きねこドラゴン、出動だな》

《うるさいよ》


 顔を顰めながらも、複雑な魔法の構築式を描き、自分を魔力で包み込んで行く。


 人間が、おお、と呻きながら一歩退いた。

 それに満足して、さらに魔力の濃度を上げる。


 そして──


 するすると、地面に近付いて行く視界。縮む身体。

 空色のウロコが見えなくなり、代わりに長くふさふさとした毛が生える。

 大きな鉤爪は細く鋭くなって指の中に収納され、脚の裏には柔らかな肉球が。

 頭部の角は、大きな三角形の耳に取って代わられる。


《…うん、成功》


 数秒もしないうちに、ラズライトの姿はドラゴンではなくなっていた。


 背中側は茶色と黒の縞模様、腹側は真っ白で、顔は額の中心から鼻、口元、顎、胸元までが白く、額側は茶色と黒の縞模様の、所謂ハチワレ柄。

 キジ白と呼ばれる体色だが、体毛が全体的に長い『長毛種』であるため、特徴的な縞模様は顔以外、ややぼやけている。


 ネコ──『こちらの世界』では、ケットシーと呼ばれる生き物の姿だ。


 肉体を物理的に変化させる、特殊な魔法。

 空を飛べないラズライトが、本来の棲み処からここまで大きなトラブルに巻き込まれずに旅して来れたのも、この術のおかげだった。


「ふおお…」


 人間が目を見開いてラズライトを凝視する。

 ついさっきまで見下ろしていた人間を今度は見上げる事になり、ラズライトは軽く顔を上げた。


 とたん、


「ぐはっ…」


《…は?》


 何故か人間が胸の辺りを押さえて後退る。

 意味が分からず首を傾げれば、今度は腰を抜かしたようにその場に座り込んだ。


 その間、視線はラズライトから外さないが、その目が異様に血走っているのが怖い。


《え、なに、どうしたの》


 恐る恐る問い掛けると、人間はたっぷりの沈黙の後、


「…………か、」

《か?》

「…かわいい………!!」


 口元を押さえ、喉の奥から絞り出すように呟いた。


《は?》


 ラズライトがぽかんと口を開けると、人間はその場で地面に両手をつき、目を爛々と輝かせる。


「黒いアイラインで強調された藍色の目にコントラストのキレイなキジ白ハチワレ模様、ちょっとタルっとして見えるボディと真っ直ぐでボリューミーなしっぽ、ピンと張ったひげ、何より、三角形の耳の頂点にちょこんと出てる毛!」


 早口で捲し立て、


「こんな理想的な長毛ケットシー、初めて…!!」



 感極まったように目を潤ませる様は、さながら憧れの人に話し掛けられた思春期の令嬢。

 ただし、目の前に居るのはケットシーの姿をしたドラゴンであり、見物しているのは伝令カラスである。何故こんな反応をするのか、意味が分からない。


 ──いや、何となく予想はつくが、分かりたくない。


「触って良い? ねえ、触って良い!?」


 血走った眼をした変態が、四つん這いのままにじり寄って来る。

 ドラゴンの姿の時も相当しつこかったが、今回は圧力が違った。


 気持ち悪いを通り越して、命の危機を感じるレベルで、怖い。


《ヤ──》

《やってしまえ》


 拒否する台詞に被せて、伝令カラスが変態の背中を押した。


 瞬間、


「ひゃっはー!!」

《ぎゃああああ!》


 完全にテンションのおかしい奇声を上げて、人間がラズライトに飛び掛かって来た。


 避ける間もなく胴体を掴まれ、横抱きに抱えられて全身をわしわしと撫でられる。

 もみくちゃにされながら身をよじって抵抗を試みるが、こちらの動きを読んでいるように掴む場所を変えられて、全く逃げ出せない。


《何なの? 何なの!?》

《うわー…オレの時よりひどいな》

《助けろバカー!》

《いやいや無理だって》

「うえへへへへへへへ…」


 念話で絶叫するケットシーの姿をしたドラゴン、その様子を他人事として眺めながらドン引きする伝令カラス、涎を垂らしそうな緩み切った顔で気持ちの悪い笑い声を漏らしながらドラゴンの全身を撫で回す人間。



 混沌とした光景は、実に30分以上続いた。




※ネコに奇声を上げて飛び掛かってはいけません。

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