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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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37.圧縮バッグ

 ジュリアに案内されてやって来たのは、ギルド内にある倉庫の一角。


「おお」


 ずらりと並ぶ圧縮バッグの数々に、イリスが感嘆の声を漏らした。


 ウエストポーチ型の小さいタイプから、登山用のような大型のバックパックまで、棚一面に並べられた様はかなり壮観だ。

 ラズライトが予想していたより、ずっと多い。


《この中から自由に選べるの?》

「はい。ですが、ものによってレンタル料が異なるので注意してくださいね。大体ですが、手前の棚は比較的安い物で、奥に行くにつれてレンタル料が上がり、壁掛けになっている物は高級ラインになります」


 手前の棚に並ぶのは、かなりくたびれた中型のバックパックや、新しいが小さなポーチのような物。

 真ん中の棚は中古だと分かるが造りのしっかりとした中型バッグが中心で、奥の棚は新品の中型バックパックや大型バッグ、デザイン性の高いバッグが並ぶ。

 壁に掛けられているバッグは大きいだけでなく造りも装飾も凝っていて、正直冒険者に需要があるのか疑いたくなるレベルだ。


「基本的には、見た目の容量の10倍入ると思ってください。重量軽減機能も、重さを10分の1にする程度です」


 大きさもタイプも様々だが、基本性能は大体同じらしい。


「それぞれのバッグのタグにレンタル料が書いてあるので、参考になさってくださいね」

「ありがとうございます」


 ジュリアに礼を言い、イリスが早速棚に向かった。

 手前の棚のウエストポーチを手に取り、タグを確認して一瞬顔をしかめる。


「…意外とお高い…」

《新品買ったら、このレンタル料の200倍くらいの値段だよ、多分》

「うへえ」


 実際、圧縮バッグは非常に高価だ。

 魔法を2種類、しかも空間圧縮と重力制御という特殊魔法を組み合わせて使うのだから、そもそも製造できる人間が限られる。


 なおカイトたちが持つガレージバッグは、ここにある圧縮バッグの遥か上を行く性能を持つので──お値段も相応、家を買えるレベルである。


 ──閑話休題。


 ともあれそんな圧縮バッグがレンタルとはいえ手の届く値段で使えるのだから、感謝こそすれ、文句を言えるものではない。


《とりあえず値段は置いといて、まずイリスが一度にどれくらい鉱石を集めるかを考えてサイズを決めたら?》

「そうだね」


 気を取り直して、イリスが真ん中の棚から中型のバックパックを引っ張り出す。

 背負ってみて首を傾げ、すぐに別のバックパックに交換した。多分、背負った感じが気に入らなかったのだろう。


「うーん…」


 その後もイリスはバックパックばかり取っ換え引っ換え試していたが、納得のいく物はなかなか見付からないようだ。

 焦げ茶色のバックパックを背負い、眉を寄せて視線を彷徨わせたイリスは、ん?と首を傾げた。


「ジュリアさん、あれは?」


 視線の先にあるのは、小型のショルダーバッグなどが並ぶ奥に押し込められた、中型のバックパック。

 一番安い方の棚に中型バッグはそれ一つだけで、良く言えば年季の入った、有り体に言えばくたびれた見た目をしている。値段相応と言うべきか。


「ああ、そちらは訳アリ品です」

「訳アリ品」


「本体自体が小分けポケットの集合体のようになっていて、形状としてはとても使いやすいんですよ。ただ…使い込まれ過ぎて、重量軽減機能が、本来の半分程度になっていまして」

《え、それダメじゃない?》

「ええ。ですので、『訳アリ品』としてお安くレンタルしているんです」


 容量は10倍なのに、重量は10分の1ではなく、5分の1にしかならない。

 それでは借り手も付きにくいだろう。


 イリスはそのくたびれたバックパックを引っ張り出し、お? と呻いて軽く目を見張った。


「バッグ自体は結構軽いんだ」


 見た目は普通だが、どうやら他と素材が違うらしい。

 イリスはそのままそれを背負い、肩紐──ショルダーハーネスと呼ぶのだったか──の長さを軽く調節してからその場で跳ねる。


「んー、上下動が激しいかな」

「ウエストベルトを締めてみてください。それから、胸のところのストラップを留めるとより安定しますよ」


 ジュリアのアドバイスに従ってウエストベルトを締め、胸のストラップで両肩のハーネスを繋ぐと、ぐっと安定感が増した。

 イリスが飛んだり跳ねたりしても、きっちり動きについて行っている。


「すごい、全然違う」


 今までイリスが使っていたバックパックは、フィット感を増すためのベルトやストラップは一切付いていなかったから、装着感も雲泥の差だろう。


「もう少しストラップは締めた方が良いですね──こんな感じでいかがですか?」


 ジュリアが胸のストラップの長さを素早く調整する。その動きがやたら手慣れて見えて、ラズライトは首を傾げた。


《ジュリア、そのバックパックにものすごく慣れてない?》


 ラズライトの指摘に、ジュリアは少し恥ずかしそうに苦笑した。


「…実はこれ、私が現役時代に愛用していたバックパックの同型品なんです。今はもう作られていないシリーズですが、ちょっとだけ思い入れがあって」


 聞けば、ジュリアは元冒険者。

 イリスのように採取を行う事もあり、採取物や旅の道具をそれぞれ分けて入れられるこのタイプのバックパックは、とても使いやすくて重宝していたという。


「ジュリアさんも冒険者だったんだ」


「ええ、怪我が元で引退しまして。商業ギルドに雇っていただいて、冒険者ギルドに出向しているんです。冒険者ギルドの受付や買取の業務は、荒事に慣れていないと大変ですから」


 受付カウンターの担当者も苦労は多いらしい。


 道理で初めて会った時、イリスにもラズライトにも気付かれずに背後を取れたわけだ。

 今はもう長期の冒険は無理でも、ギルド内でのいざこざを収める程度の実力はあるという事だろう。


 なるほどね、とラズライトが納得している横で、イリスが一つ頷いた。


「──うん、決めた」


 顔を上げ、


「ジュリアさん、このバックパックのレンタルお願いします」

《え、これで良いの?》

「うん」


 バックパックを下ろし、ラズライトに見えるよう、床に置く。


「ジュリアさんが言った通り、本体部分も小分けされてて使いやすそうだし、他のポケットも全部ちゃんと使えそうだし、背負った感じが一番しっくりくるから」

《でも、重量軽減は他の半分くらいの性能しかないよ?》


「元々私、そんな機能付いてないバックパックに鉱石ぎっしり詰めて運んでたんだもん。重いのには慣れてるし、詰め過ぎなきゃ良いってだけの話でしょ?」


 確かにその通りだが、機能優先でなくて良いのだろうか。


「あとこのバックパック、全体のシルエットが箱型でしょ?」

《? うん》


 他の物が丸みを帯びた形だったり、三角形に近いシルエットだったりするのに対し、このバックパックだけは、若干縦長の箱型をしている。


 ラズライトが確かにそうだと同意すると、イリスは自信満々に後を続けた。



「これだったら、ラズライトをバックパックの上に乗せて走っても、大丈夫だと思わない?」



《………まあ君がそれで良いなら良いと思うよ》




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