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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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36.審査結果


 イリスがゴーレムから剥ぎ取った宝石は、ロベルトに取り上げられた。


 と言うより、


「このゴーレムはギルドの備品だ。その石は、動作を制御する魔法回路を組み込んだコアだからな。宝石だからと言って持って行かれても困る」

「ええ…」


 ゴーレムのコアという事は、実質、この宝石がゴーレムの本体という事だ。

 身体の方は石材でいくらでも代わりが作れるが、コアは量産できるような代物ではない。


《イリス、これは試験だったんだから。試験中の戦利品が貰えるわけないじゃない》

「ぬう」


 ラズライトが告げると、イリスは渋々とロベルトに石を返す。

 陽光が透けて、透明感のある深い赤の色彩が輝いた。イリスでなくても目を惹かれる美しさだ。


《ちなみにその石、宝石としても珍しいの?》

「ガーネットだから、種類としては珍しいものじゃないよ」


 まだ未練がありそうな顔で、イリスが首を横に振る。


「でも、この色、この透明感で自形結晶かつこのサイズの12面体アルマンディンってなると、ものすごく珍しくて」

「種類まで分かるのか」


 驚くロベルトに、採取屋ですから、とイリスが胸を張る。


 アルマンディンというのは、ガーネットの種類の一つらしい。


 『ガーネット』は、成分の異なるいくつかの鉱物の総称だという。

 宝石として知られているのは、茶色掛かった深い赤のアルマンディン、赤や赤紫のパイロープ、オレンジ色や赤褐色のスペサルティン、緑、橙、無色透明などバリエーション豊富なグロシュラー、主に黄緑色から緑のアンドラダイトなど。


 特定の成分や色の石には別の名前が付いて価値が跳ね上がったりするらしいが──とにかく種類が多い。


 このゴーレムコアに使われている『アルマンディン』は、ガーネットの中でも一番産出量が多く、比較的採取しやすい石との事だが、宝石としてカットされていない状態でも整った12面体で、かつ握りこぶしより大きい結晶となると、イリスも今まで見たことが無いという。


「こんな原石をゴーレムのコアに使うとか、罰当たりもいい所だと思いますよ」


 恨めし気なイリスの言葉に、ロベルトが困り切った顔をする。


「と言われてもなあ。これくらいの品質と大きさでないと、魔法回路の焼き付けができなくてな」


《え、まさかこのゴーレムって、ロベルトが自分で作ったの?》


 驚いて見上げると、ロベルトはあっさりと頷いた。


「俺はこういう魔法回路を組むのが趣味でな。この訓練施設も、俺が設計してタッカーや街の技術者たちの協力を得て作ったんだ」


 まさかの自作だった。


 …趣味とはいえ、何という物を作るのだ。


《…ひょっとして、ロベルトって魔人?》

「お、よく分かったな」


 ロベルトが破顔した。


 魔人──『人間』に分類される種族の一つで、外見はヒューマンとさほど変わらないが、緻密な魔法制御が得意な者たちである。

 エルフが風や水、大地、植物といった自然にまつわる魔法を得意とするのに対し、魔人は魔法そのものではなく、魔法を様々な物に込める技術に特化する。


『魔法回路』と呼ばれる一種の魔法陣を物に焼き付け、魔力を込める事で特定の効果を発する、いわゆる魔法道具を作るのだ。


 そのため、多くの魔人は錬金術師や魔法道具の技術者として活躍している。


《なるほどね…納得した》

「一応、魔人の名誉のために言っておくが、俺は下手な方だからな? 本職の技術者はこんなもんじゃないからな?」

《ゴーレム作れて『下手な方』って、それどんな基準なのさ》


 魔人というのも、色々おかしい種族らしい。


 ともあれ──


《──で、とりあえず、イリスは合格?》


 ラズライトが話題を変えると、ロベルトは大きく頷いた。


「ああ、文句無しの合格だ。冒険者ランクは──そうだな、」


 ジュリアをちらりと見遣る。


「ギルド長、気に入ったからと言ってルールは無視できませんよ」

「……だそうだ」


 釘を刺されて肩を竦め、


「──というわけで、イリスの登録時冒険者ランクは7等級。ルール上許される一番上のランクだ。すまんが、これで勘弁してくれ」


 ロベルトの言葉に、イリスが軽く目を見張った。


「おお、破格の扱い」

《だから、君の能力ならそんなもんだってば》


 合格したのだから高いランクになるのは当然なのだが、イリスはもっと下のランクにされると思っていたらしい。

 こちらも色々と基準がおかしい。





 その後執務室に戻るというロベルトと別れ、応接室に戻ると、冒険者登録の手続きを終えた。


「こちらが、イリスさんの冒険者証になります。再発行には金貨4枚掛かりますから、失くさないでくださいね」


「肝に銘じます」


 ジュリアから渡されたメダルを両手で握り締め、イリスが真面目な顔で頷く。

 登録料の金貨2枚でさえギリギリだったイリスにとって、失くしただけで金貨4枚は痛い。


 イリスが登録メダルを丁寧にウエストポーチに仕舞ったのを見届けて、ラズライトはついでにジュリアに訊いてみる。


《圧縮バッグのレンタルって、今、できる?》

「ええ、可能ですよ。よろしければ、これからご覧になりますか?」

「ぜひ」


《あ、あと、寝袋とか折り畳み式テントとか、簡易コンロのレンタルはある?》

「ありますが、寝袋やテントは消耗が早いですし、その…以前の使用者の匂いが付いていたりしますから、あまりおすすめはできません。簡易コンロも、レンタルしているのは古い型のものばかりですから、火の魔石の消費量を考えると、少し無理をしてでも新しい物を買った方が良いと思いますよ」


 ジュリアの説明はとても丁寧だった。


確かに、他人の匂いが染み付いている寝袋やテントを使うのは少々気が引けるし、ランニングコストを考えるなら簡易コンロも熱効率の良い新しい型を買った方が良いだろう。

 どれも圧縮バッグを買うよりは圧倒的に安いし、もしイリスの持っているノジュールの中身がミスリル原鉱なら、そのくらいは新品を買い揃えられる。


《分かった。それじゃあ、圧縮バッグだけ見せて。イリス、それで良い?》

「うん」


 イリスに訊くと、彼女は特に考える様子も無く頷いた。


 交渉事が完全にラズライト任せになっているような気もするが…適材適所というやつだろうか。



 何となく釈然としないが。




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