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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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32.お礼

「タッカー、ギア、ありがとう。カイトとナディも、相談に乗ってくれてありがとね」


 サインの揃った書類をバックパックにしまい込んだイリスが、改めて丁寧に頭を下げる。


「何、大した事じゃねぇよ」


 冒険者が処罰の対象となった場合その保証人も同等の責を負わされるので、大した事ないはずがないのだが、タッカーは豪快に笑う。


「その代わり、だ」


 にやり、口の端を上げ、


「今度珍しい鉱石を見付けたら、ウチに優先的に持ち込んでくれ。ギルドよりは高く買い取ってやるからよ」


《なるほど、そっち目当てね》

「あれだけ良い鉱石がバカスカ出て来るんだ、放置するわけねぇだろ」


 さすがは工房持ちの武器職人である。


「そういやカイト、お前のミスリルの剣、材料調達の目途が立ちそうだ」

「ホントですか!?」


 タッカーの言葉に、カイトがぱあっと顔を輝かせる。その隣で、ギアが首を傾げた。


「ドワーフの里からの買い付けは、これ以上できないという話では?」

「いや、ミスリルの地金をここで作れそうでな」


 と、イリスを見遣り、


「まだ確定じゃねぇが、こいつが持ち込んだ石の中に、もしかしたらミスリル原鉱が入ってるかも知れねぇんだ」


 途端、カイトたちの視線がイリスに集中する。


「マジか!」

「いえ、でも有り得る話よね…」

「……イリスだからな…」


《何かイリスに対して変な評価付けてない?》


 ラズライトの突っ込みに、ギアが真顔で応じる。


「優秀だという意味だ」

「いやぁそれほどでも」


 イリスの態度は、照れているのかふざけているのか微妙なところだ。


「あ、でもじゃあ、ミスリルの剣を欲しがってる客って、カイトの事だったんだ」

「ああ。前々から頼んでてな」


 この街ではミスリルの地金が手に入らない、と、タッカーには渋られていたらしい。

 それでも何だかんだで何とかしようとしているあたり、タッカーらしいと言えばタッカーらしい。


「しかし、借りだけどんどん積み上がって行くんだが…」


 カイトががしがしと頭を掻き、ナディとギアを見遣る。


「なあ、アレ、渡しても良いか?」

「ええ」

「それが妥当だろうな」


「?」


 首を傾げるイリスの前に、ガラスの小瓶が置かれた。

 中身は薄い黄色の液体で、一口で飲める程度の量だ。


「これは?」

「完全解毒薬」


《え》


 ラズライトは思わずぴしりと固まった。


 完全解毒薬と言えば、カイトたちが必死で材料を探し求めていたあのバカ高い錬金薬である。

 彼らの仲間は回復したと言っていたから、当然これを使ったのだろうが──なぜここにもう1本あるのだろうか。


「実は、かき集めた材料を合わせてみたら、丁度2本分作れるって話になってな」


 主に、ツインヘッドの神経節とこぶし大の虫入り紅琥珀のせいだという。


「1本作るのも2本作るのも、労力的には大して変わらないって話だったんで、2本作ってもらったんだ」


 手間は変わらないかも知れないが、消費する魔力は単純計算で倍になったりしないのだろうか。

 錬金術師の価値基準が分からない。


 それに、2本分の製造費をポンと出せてしまうカイトたちの財力はどうなっているのだろうか。


 色々と疑問が頭をよぎるが、目の前のカイトたちは当たり前の顔でイリスにガラスの小瓶を差し出している。


「良かったら、俺たちからの礼ってことで受け取ってくれ」

「良いの?」

「ええ、もちろん」

「アインの命を救ってくれたことを考えれば、まだ足りないくらいだ」


 ナディとギアにも頷かれ、じゃあありがたく、とイリスはガラスの小瓶を受け取った。

 丁寧な手つきでウエストポーチに瓶を収め、額の汗を拭う。


「…な、何か滅茶苦茶緊張するんですけど、このビンの扱い…」

「そういう薬の容器は耐衝撃ガラスだ、ちっとやそっとじゃ割れねぇぞ」


 タッカーの助言に、イリスはパッと顔を上げた。


「え、そうなの?」

《だからってハンマーとかと一緒にバックパックに入れちゃダメだからね、イリス》


「…ハイ」


 釘を刺すと、イリスは小さくなって頷く。

 多分今、まさにバックパックに入れ替えようとしていたのだろう。


 ──思考の先読みができてしまうあたり、喜ぶべきか嘆くべきか。


「しっかしイリス、ミスリル原鉱採って来るって、どうやったらそんな事できるんだよ」


 カイトが呆れ返った顔で呻いた。彼らは鉱石の専門家ではないが、ミスリル製の武器を欲しがるくらいだ、ミスリル原鉱の希少性と取り扱いの難しさは知っているらしい。


「最初からそれ目的で探してたわけじゃないよ?」

「そうなのか?」

「何か珍しい物無いかなーと思ってノジュール割ってたら、偶然出て来ただけ」


「おいちょっと待てイリス」


 イリスの発言を、タッカーが据わった眼で遮った。



「お前、ノジュール割ってて出て来たって事は、いくつか割っておじゃんにしたな?」


「………ふふふーん」


 見事に墓穴を掘った採取屋が、下手な鼻歌と共に明後日の方を向く。


 おいこら正直に申告しろ、と凄むタッカーに、ラズライトはぼそりと告げた。


《とりあえず2個は割ってダメにしたらしいよ》

「お前なあ!」


 タッカーに掴み掛かられたイリスが、必死に反論する。


「だって割るまで中身分からないじゃん!」

「1個でやめろ! 1個で!!」


 もっともである。


 しかし、火種を投入したのは自分だが、このままでは収集がつかなくなりそうだ。



《そうだ、タッカー、ギア》

「あん?」

「なんだ?」


《もし知ってたらなんだけど──3年前に南の半島で起きたっていう、冒険者パーティの集団失踪事件について教えてくれないかな?》




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