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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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17.冒険者ギルド

 冒険者ギルド崖壁都市メランジ支部は、街の中心、南北を貫く大通りと東西に繋がる中規模の通りの交差点にある。


 先程は通り過ぎた場所だが、改めて見上げると、その規模はあの詐欺まがいの武器屋以上。

 レンガではなく総石造りの建物は、街ができた当初からある建造物の特徴だ。


「本当に行くの?」


 何がそんなに嫌なのか、この期に及んで逃げ腰のイリス。

 ラズライトはジト目で彼女を見上げ、後押しするために言葉を発した。


《冒険者になるならないはともかく、ここの買取カウンターでその鉄鉱石売れば、昼食がもう一品増えるよ》

「行きます」


 素直なのは良い事だ。


 …早くも彼女の扱いが分かって来た自分に、ちょっとだけ釈然としないものを感じるが。


 古びた木の扉を開けると、中は予想通り、やや薄汚れている。

 しかし天井付近の大きな窓から降り注ぐ陽光が、全体の雰囲気を明るくしていた。


 冒険者の姿はまばらで、依頼受付カウンターも買取カウンターも、待っている者は居ない。

 ギルド職員たちはこの暇な時間に他の仕事を片付けようとしているらしく、受付担当者も手元の書類に目を通していた。


《買取はこっちだね》


 ラズライトはさっさと奥へ歩き出す。

 ギルド内の人間たちが少し驚いたように目を見張るが、ケットシーはこの街でもありふれた生き物だ。

 ギルドに出入り禁止となっているわけでもないし、大した問題はあるまい。


《すみません、買取お願いします》


 大きな樫の木のカウンターに飛び乗り、担当者に話し掛ける。

 担当の女性は軽く目をしばたいた後、すぐに頷いて立ち上がった。


「かしこまりました。売却対象は…ケットシーですか?」


《違―う!》


 ラズライトが叫んだ途端、周囲でブフッと吹き出す声がした。

 しかも複数。


 一応、街の中でイリスが一人で喋っているように見えないよう、念話の対象は特に絞らず、普通の声と同じように聞こえるように調整してあるが──まさか自分自身を買い取り対象として差し出していると認識されるとは思わなかった。


《買い取って欲しいのは、僕じゃなくてこっち! ほら、イリス!》

「すいません、買い取って欲しいのはこれです」


 一番あからさまに笑っているのはイリスだ。

 ぶくくく…と顔を笑み崩しながら、カウンターに赤鉄鉱を置く。


「鉄鉱石ですね」

「はい」

「失礼ですが、冒険者登録はされていますか?」

「いえ、冒険者ではないです」

「分かりました」


 少々お待ちください、と言い置いて、女性は一度奥の部屋に引っ込んだ。


 程無く、ルーペと天秤を持って戻って来る。

 ルーペは魔法の気配を宿していた。恐らく、鑑定用の魔法が掛かっているのだろう。


 そのルーペ越しに鉄鉱石を見詰め、真剣な顔でくるくると回しながら全面を見極める。

 先程の大店では軽く眺められただけだったが、本来査定とはこういうものだ。

 真剣な雰囲気にあてられたのか、イリスがごくりと唾を呑んだ。


 最後に天秤で重さを確認し、女性は一つ頷いた。


「とても良い品ですね。品質ランクはA、サイズも十分ですから、この金額でいかがでしょう?」


 さっとメモ用紙に走り書きされた金額を見て、イリスが見事に固まった。



「………へ?」



 先程、武器屋で売却した15個の合計金額より少し安いが、重さ当たりの単価に直せば実に10倍以上の値が付いている。


 現実を認識できずにフリーズするイリスに、女性は慌てたように付け足した。


「すみません、お安いですよね? ある程度数をそろえていただければ、もう少し単価を上げられるのですが…」


 一つだけなので、この金額になってしまうのだと言う。


 申し訳なさそうに頭を下げる女性に、ラズライトが声を掛けた。


《その金額でお願いします。イリス、良いよね?》

「え、あ、…うん」


 頷くイリスの顔色は、少々悪い。

 今まで自分が何をしてきたのか──と言うより、何をされてきたのか、ようやく理解したのだろう。


 イリスが『安すぎてショックを受けている』のだと勘違いしたらしい買取担当の女性は、終始申し訳なさそうにしながら手続きを済ませてくれた。


 コインと買取伝票を受け取り、ギルドを出ようと踵を返したイリスが、がっくりと肩を落とす。


「…私、今まで何やってたんだろう……」

《見事にカモにされてたね。ちなみに、あの店で何回売ったの?》


「………20回以上………」


《…ご愁傷さま》


 彼女の金欠は、どうやら採取物を適正価格で買い取ってもらえていなかったからのようだ。


 ラズライトが慰めの言葉を口にすると、でもさあ、とイリスは唇を尖らせる。


「まさか通常価格の10分の1以下の値段で買われてるとは思わないじゃん、普通」

《まあ、あの店構えからそれは想像できないよね》

「でしょ?」

《でも知らなかったのは君の自己責任》

「うう…」


 すっかりしょげているイリスを今後どうフォローしようか、そう思いながらラズライトが振り向くと、



「ひっ!?」


 イリスが背後からがっしり肩を掴まれ、硬直していた。


 何やら、その背後からおどろおどろしい気配がする。



「…その話、詳しく聞かせていただけますか」



 カウンターの向こうに居たはずの買取担当の女性が、一体いつの間に接近したのか、イリスの肩を掴んでいた。


 その額に青筋が浮いているのを見て、イリスとラズライトは冷や汗をたらしながら頷いた。




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