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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
西方編

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171.あるべき場所

「よっし!」

《イリス、やり過ぎ》


 ガッツポーズを取るイリスに、ラズライトは容赦なくダメ出しする。


 地面が大きく抉り取られた様は、まるで超大型魔物が爪牙を振るった後のようだ。

 その中心から、地面がゆっくりと赤黒く染まっていく。一応、地面の下に潜んでいた魔物は倒せたようだが──


《野ウサギ、逃げちゃったじゃない》

「あれ?」


 指摘したら、きょとんと首を傾げられた。


 当り前だろうに、その辺は認識から抜け落ちていたらしい。どういうことだろうか。



「…………え?」



 アイビーとビオラは呆然としている。

 …そういえば、イリスが魔法を使えるようになったとは教えていなかったか。


「アイビー、ビオラ?」


 どうしたの、とイリスが訊いたら、2人はようやく我に返った。


「──え!? イリス、今の何!?」

「何って…魔法」

「お前、魔法が使えないんじゃなかったのか!?」

「あ」


 などと言っていると──


「すごい魔力だったけど、大丈夫?」


 ラフェットたちもやって来た。

 惨状を見るなり、ああ、大口トカゲ(ビッグ・マウス)か何かが居たのね、と呟く。理解が早い。


「で、これをやったのはラズライトかしら?」

《僕じゃないよ》


 即座に否定し、視線でイリスを示す。

 ラズライトを抱き上げたままのイリスは、いやあ、と笑った。



「色々あって、条件付きで使えるようになったんだよね、魔法」


『は!?』



 驚愕する幼馴染2人と、


「ああ、そういうこと」

「道理で」


 あっさり納得する姉弟子と兄弟子。


「気配が前と少し違うから、何かあったんだろうなとは思ってたわ」

《何その感知能力…》

「流石ラフィ姉」


 その一言で片付けるのもどうかと思うが──最近分かって来た。


 この兄弟弟子は、これが普通なのだ。


「ええと……どういうこと?」


 ビオラはまだ呆然としている。


 ええとね、とイリスは簡単に説明を始めた。


 今も普通なら魔法が使えないのは変わらないこと。

 ラズライトに触れている、あるいは極めて近い距離に居る時だけ、魔法が使えること。


《ちなみに威力は僕がドン引きするくらいバカ高いよ》

「ラズライト、余計なこと言わない」

《事実でしょ》


 ふん、と目を逸らすと、ラフェットが笑った。


「でも良かったじゃない。生きていく上で、選択肢が多くなるのは大事よ」

「そうだな」


 その言葉に、アイビーとビオラが顔を見合わせて、フッと表情を緩める。


「何だか大変そうだけど…良かったわね、イリス」

「ああ、本当に」

「ありがと、ビオラ、アイビー。…あ、基本他の人には秘密にしといてね。カトレアたちにだったら言っても良いけど」

「長老様にも秘密なの?」

「秘密。絶対面倒臭いことになるから」


 イリスがラズライトを地面に下ろし、胸の前でバツ印を作る。

 ラフェットが噴き出した。


「正しい判断だと思うわ。本心がどうであれ、ガジュマルが一番優先しなければならないのはエルフの里の住民だもの」

「イリスが魔法を使えると知られたら、またあちらに取り込もうと近付いて来る可能性が高いな」


 ラフェットとレオンの指摘に、アイビーとビオラがはっと表情を変える。


「…分かったわ。私たちだけの秘密、ね」

「約束する」


 幼馴染たちが頷き合った後、で、とラフェットが視線を巡らせた。


「野ウサギは捕まった?」

「あっ」

大口トカゲ(ビッグ・マウス)を派手に倒したせいで逃げられたよ》

「ラズライトの裏切り者―!」


 イリスが叫び、ラフェットたちの笑い声が上がる。




 ──その日の夕食は、ビッグ・マウスの尾のステーキ。


 森を出て初めての食事がよりによって魔物料理(イロモノ)という珍事に、イリスはひたすらビオラとアイビーに謝罪していた。




 翌朝から半日ほど歩くと、ようやく南北を繋ぐ大きな街道に出た。

 石畳が敷かれただけの簡素な造りだが、人の手が入っている場所に出られたことにホッとする。


 ここを北に行けば交易都市クロスラムナ。南に行けば、いくつかの村や町を通り抜けた先に崖壁都市メランジがある。

 ラズライトたちが南へ向かうのに対し、ラフェットたちは北へ向かうのだという。


《クロスラムナに知り合いが居るの?》

「いいえ、もっと北西の方ね。この国の西の果て──アンガーミュラー領が目的地なの」

《え!?》


 今更ながら、ラズライトはギョッとした。


 アンガーミュラー領──『西の果ての魔窟』『王国の辺境』と呼ばれる領地である。


 見たこともない魔物がうろついているとか、毎年何人もの冒険者が廃人になって引退を余儀なくされているとか、領主が怪物じみた力を持っているとか、そういう噂の舞台は大抵アンガーミュラー領だ。


 領地として成立しているからにはきちんとした土地だとは思うが、何となく怖くてラズライトは近付かないようにしている。


 ──よりによって、そんな場所にイリスの幼馴染を連れて行くとは。


「…あ、あの、そこって危ないの…?」


 ラズライトの反応で不安になってしまったらしい。ビオラが困った顔でラフェットに訊ねる。

 ラフェットは笑って──若干首を傾げた。


「治安は良いし、住民もわりと気さくで良い所よ。──まあ、ちょっと独特と言うか…やたら領主一家の行動が早くてたまーに驚くことがあるけど」

「たまーに…?」

「ああでも、こういう時はホントに頼りになるのよ? 簡単に事情は説明してあるから、必要書類とかもう全部用意してくれてると思うし」


 仕事が速過ぎやしないか。


「じゃあビオラたちに紹介するのって、そのアンガーミュラー領の領主の人?」

「いや、現領主の娘──次期領主だ。エルフは寿命が長いからな。次代と顔つなぎをしておいた方が良いだろう」


「…正直、()()()の方が仕事が速くて権力の使い方も上手くて色々と確実だしね…」


 ぼそり、ラフェットが意味深な発言をする。


 …深く突っ込んではいけないのだ、多分。


 ──ともあれ、ラフェットたちはこれから北上し、クロスラムナよりさらに北の街から西へ向かう。

 南へ向かうラズライトたちは、ここでお別れだ。


「イリス、元気でね」

「世話になった。体に気を付けてな」

「うん、ビオラとアイビーもね」


 イリスが幼馴染たちと固く握手を交わす。


「ラフィ姉、レオ兄、2人をよろしくね」

「ええ、任せておきなさい」

「お前も気を付けて行け」


 兄弟弟子たちとも言葉を交わすと、ラズライトとネロを両肩に乗せたイリスは、軽やかに南へと足を向けた。


 一度だけ振り返り、笑顔で大きく手を振る。



「──またね!」



 ラズライトたちの居場所は、この旅路の上。

 再会を願う言葉を口に出来るのは、きっと幸せなことなのだろう。


 笑顔で手を振り返してくれるラフェットたちに、ラズライトとネロも念話を張り上げた。



《干し魔タタビありがとう! また会おうね!》


《伝令カラスが必要だったら、いつでも呼んでくださいね!》




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