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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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16.崖壁都市メランジ

 変則ハンモックの寝心地は、思いのほか良好だった。


 ただし、イリスが寝返りを打ったついでにこちらに抱き付いて来なければの話だ。


 両腕でこちらを拘束し、お腹に顔を埋めて来た時には、実は起きているのではないかと勘繰った。

 翌朝苦情を言ってみたら、当人は全く覚えていなかったが。


 ──そんなこんなで、簡単に朝食を済ませ、歩くこと数時間。


「──着いたー!」


 巨大な石壁を前に、イリスが大きく伸びをした。


 崖壁都市、メランジ。


 南の半島の付け根、丁度本土と半島を分断する形で立地するこの都市は、高い石壁に囲まれ、東西は海。

 その海とは高さ50mを超える崖で隔てられている、文字通り『崖』と『壁』の街である。


 特異な生態系と地質を持つ南の半島は希少素材の宝庫だが、この都市を通過しないと行き着けない。

 そのためここは、大陸の中でも辺鄙な位置にありながら、一獲千金を夢見る冒険者たちと、その消費を見込んだ商人たちを中心とした一大都市となっている。


「お腹すいたー…」


 時刻は既に昼前。

 イリスがお腹を押さえて呟くのも仕方がない。


《じゃあ、早く街に入ってお昼にしよう》

「でもお金が無い」

《君ねえ…》

「だから、先に鉱石売っ払っちゃおうと思うんだけど」


 バックパックいっぱいの鉄鉱石を売却すれば、かなり懐は潤う。


《それが良いと思う》


 ラズライトが深く頷くと、じゃあ行こうか、とイリスはラズライトを抱き上げて歩き出した。


 門で簡単な手続きを済ませ、街に入ると、イリスは真っ直ぐに中央通りを南下し、南の門に程近い武器屋に向かう。


《ここで売るの?》


 この街では、冒険者関係の店に限り、南の門に近ければ近いほど規模が大きい。

 冒険者たちの主な目的地が南の半島だからだ。


 イリスが向かったのは、そんな大店の中でも一際大きい店だった。

 鉄製の看板には金と色とりどりの石を使ったモザイク画で剣と盾が描かれ、レンガ造りの店構えも威圧感を覚える程度に重厚だ。


「そうだよ。いつもお世話になってんの」


 イリスはあっさりと重そうな店の扉を開ける。

 間を置かず、いらっしゃいませ、と店員の落ち着いた声が響いた。


 外観に違わず、中も高級感溢れる造りだ。

 正直、イリスの擦り切れて薄汚れた軽装は明らかに浮いている。


 イリスの姿に目を留めた店員が、一瞬、嘲笑うかのように目を細めた。


(嫌な感じ)


 恐らく、重装備の冒険者だったら、汚れていてもくたびれた服装でもこんな態度は取られない。

 こういう店に来るのは例外無く高位の冒険者で、金払いも良い上客だからだ。


「こんにちは」


 一方イリスは、そんな店員たちの態度を一切気にする様子も無く、買取カウンターに立つ男に話し掛けた。


「ああ、イリスさん」


 片メガネを掛けた男は、イリスを見てにっこりと笑う。

 その態度は、他の店員と違ってイリスを歓迎する気持ちに満ちていた。

 胸のネームタグを見る限り、この店の割と上の方の立場の人間のようだ。


 流石は役職持ち、と感心していると、イリスがカウンターの上に鉄鉱石を並べ始めた。


「今回も赤鉄鉱なんですけど、査定お願いします」

「承ります」


 艶やかに磨かれた黒檀のカウンター天板に並べられる赤鉄鉱、その数、実に15個。

 どれもきれいな金属光沢を持ち、一部は結晶の形がはっきり分かる。

 ラズライトは鉱石に関しては素人だが、上物なのは間違いないだろう。


 男は鉱石を一つ一つ手早く確認し、そうですね、と呟いた。


「どれも品質が安定しています。この状態ですと──この金額でいかがでしょうか」


 買取用の紙に書かれた内容を見て、ラズライトは思わず声を上げそうになった。


(え?)


 提示されている鉱石の品質は、Eランク。

 上から5番目、買取最低ラインぎりぎりの品質だ。

 当然、買取金額も些少で、一晩の宿代にもならない。


 明らかに、おかしい。


(どういうこと?)


 だがイリスは、書類を見てあっさりと頷いた。


「分かりました、その金額でお願いします」

「では、こちらにサインを」


 男の顔に笑みが浮かぶ。

 あくまでもビジネスライクな物腰の奥に、わずかな嘲笑と侮蔑が見えた。


 歓迎する態度に見えたのも道理。

 ──イリスは、カモにされている。


 だが、ラズライトが制止の声を上げるより早く、イリスはさっさと書類にサインしてしまった。


 わずかなコインを受け取り、


「では、こちらが取引の控えになります。お持ち込みありがとうございました」

「ありがとうございます」


 買取書類の控えを受け取って、あっという間に店を出た。


《…ねえイリス、毎回この店で売ってるの?》

「そうだよ」


 大通りに出て歩き出しながら、ラズライトは鼻の頭にしわを寄せる。



(じゃあ毎回、ああやって騙されてるってこと?)



 別の店に持って行けばはっきりするはずだが、イリスは他の店で売った事は無いと言う。


《冒険者ギルドの買取カウンターは?》

「あそこ、冒険者じゃないと売却価格が割安になるらしいじゃない」


 確かに基本価格の1割ほど安く買い叩かれるが、それでも先程のような詐欺まがいの査定をされることは無い。


《ちなみにそれ、誰情報?》

「さっきの店員さん」

《……》


 絶対、相手の都合の良いように騙されている。


 しかし、あの男を信頼しているらしい彼女に、どう言えば伝わるのか──


「あ」


 ラズライトが思い悩んでいると、イリスがウエストポーチに手を当てて声を上げた。


《何?》

「1個、ウエストポーチに入れてたの忘れてた…」


 中から出て来たのは、先程売却したのと同じような見た目の鉄鉱石。


 何故そんな所に入れたのだ。


「売って来なきゃ」

《待って!》


 即座に踵を返そうとするイリスを、ラズライトは咄嗟に制止した。


《それ、冒険者ギルドに持って行こう!》

「え、でも」

《良いから!》


 渋るイリスを強引に促し、自分が先導して冒険者ギルドに足を向ける。


 歩き出しながら、ラズライトは頭の中で目まぐるしく今後のプランを立て始めた。


《イリス、君は絶対冒険者になった方が良い》

「えー…何かめんどくさそう」

《面倒臭い事もあるけど、君の場合、メリットの方が大きいから》

「ええ…」

《その辺も含めて、要相談! ほら、行くよ!》

「はあい…」




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