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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
西方編

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161.ビオラの決意

 その後ラフェットたちと手分けして人攫い一同を洞穴から運び出し、ようやく一息つく。


 グラジオラスはエルフの里に連絡するため、この場を離れていた。

 エルフは、植物を媒介に遠くの仲間に情報を伝える『樹草伝心』という独自の魔法が使える。植物の無いこの岩場では使えないので、近くの森まで走って行った。


 ビオラと子どもたちは、イリスが提供したテントの中で休んでいる。今は穏やかな寝息が聞こえていた。

 魔法で防音結界を張ったのは正解だったようだ。


「…で、こいつらどうするの?」


 イモムシよろしく地面に転がる男たちを見渡し、ラフェットが訊いて来る。


「誘拐は犯罪だけど、エルフたちがちゃんと被害を訴えないと、罪には問えないわよ?」

「え、そうなの?」

「エルフは表向きには『この国には住んでいない』ことになっているからな。法で保護対象と定められているわけでもない」


 以前保護した魔物たちとは違う、と2人は言う。


「国民でなくとも、『この国の人間に被害を受けた』と主張すれば訴えることは出来るが…被害を受けた本人が、国の公的機関に出向いて直接申告しなければならない。出来るか?」

「うーん…どうだろう」


 イリスはテントを見遣る。


 エルフは基本、里の外に出ない。グラジオラスのような立場の方が特殊なのだ。

 今回被害を訴えるとしたら、被害者の中で唯一の大人であるビオラが適任だが…実際出来るかというと微妙なところだろう。


 ラフェットたちと共に唸っていると、テントの中からビオラが出て来た。


「ビオラ、休んでなくて良いの?」

「ええ。子どもたちもやっと寝たし…」


 先程ラフェットたちと引き合わせた時はかなり緊張した様子だったが、少し休んだことで落ち着きを取り戻したらしい。ビオラは臆することなく近寄って来る。


「そっか。──あのね、ビオラ。今回のことで確認したいんだけど──」


 この国では、このままでは人攫いを罪には問えないとイリスが伝えると、ビオラは目を見開いた。


「こうして実際に被害に遭っていても?」

《うん。…ほら、エルフは他の種族──というか、この国と交流が無いでしょ?》


 例えば被害を受けたのが鍛冶の街で有名なドワーフだったら、彼らは国民として認められているため、問答無用で誘拐罪が適用される。

 だがエルフは、元々この国には『居住していない』ことになっている。グラジオラスのような『巡りの者』は単なる旅人としてカウントされているので、厳密には国民ではない。


 居ない者を誘拐することは出来ない。よって、この国では犯罪とは認められない。


 代わる代わる説明すると、ビオラは表情を曇らせた。


「そう…。でも、そうよね。私たちは『巡りの者』から話を聞いていても、あちらは私たちのことを知らないものね」


 そうやって生きてきたから。

 ビオラの目には納得の色があった。


「どうにもならないってわけじゃないよ。エルフがちゃんと『こんな被害を受けた』って国に説明できれば、訴えることは出来るんだって」

「それは…外の世界で、説明しろということ?」

「…うん」


 イリスは後ろめたそうに頷いた。


 いくら何でも難しいだろう。ラズライトもそう思っていたのだが──ビオラは首を縦に振った。


「分かったわ。私が訴える」

「えっ!?」

「説明できれば良いんでしょう? 人攫いを野放しには出来ないもの。…それに──」


 ビオラはじっとイリスを見詰めた。



「──ずっと後悔してたの。あの日、頭に怪我をして走って逃げて行った貴女をどうして追い掛けなかったんだろう、どうして『イリスは魔法が使えないから家出した』って言ってる大人たちに、『それは違う』って言えなかったんだろう、って」


「え…」


「…聞こえてたの。あの人が『あんたなんか私の子どもじゃない』って叫んだ声。──もう、黙って泣き寝入りするのは嫌」



 涙の滲んだ目を一度きつく閉じた後、ビオラは笑った。



「あの日イリスを見たことも、今回私が攫われたことも、貴女が助けに来てくれたことも──きっと世界樹の巡り合わせだわ。エルフは、変わる時が来たのよ」






 捕らえた人攫いたちは、一先ずラフェットとレオンが最寄りの街に連行することになった。


「ちょっと北に、私たちの知り合いが治めてる街があるわ。あそこだったら、罪に問えないからって犯罪者を釈放することもないから、とりあえずそこの牢屋にぶち込んでくる」


 クロスラムナの方が近いかと思いきや、そうでもなかったらしい。

 飛んだ距離を把握するのはまだ難しい。


「明日には1回戻って来るわね。…でも、本当にエルフの里に集合で良いの?」


 ラフェットの視線の先は、ビオラ。再集合の場所を指定したのは彼女だった。


「はい。その…もしかしたら、里の者が無礼をはたらくかも知れませんが…」

「ああ、大丈夫よ。そういうのも慣れてるから」

「何か言われたら、少し離れた場所で待機しておく。それで良いか?」

「はい、よろしくお願いします」


 ラフェットとレオンは、国に訴えに行くと決めたビオラをサポートしてくれるそうだ。

 道中の護衛と、後ろ盾になってくれそうな行政関係者への紹介をタダで請け負ってくれた。


 …『()()()こういうの絶対好きだし…』と少々遠い目をしていたのが若干気になる。



 里への連絡を終えて戻って来たグラジオラスは、ビオラの決意を聞いて大層驚いていたが、最終的には折れてくれた。


 ビオラからイリスが出て行った日の話を聞いて、魂が抜けていた可能性もなきにしもあらず。


 なお意識を取り戻して動けるようになった人攫いたちは、最初逃げようともがいていたが…1人が『…あれ、『双頭龍』…?』と呟いた途端、大人しくなった。


 この国トップレベルの冒険者の効果は絶大だった。


 ノラは先行して、北の街に牢屋を準備してもらえるよう交渉に行っている。


 ノラは北の街のことを知っているらしく、『まああそこなら急でも大丈夫だろ』と軽く請け負っていた。明日はラフェットとレオンをエルフの里へ案内するようお願いしてある。


 ネロはイリスの肩の上、圧縮バッグの止まり木に掴まって、こっくりこっくり舟を漕いでいる。緊張の糸が切れたのか、今になってどっと疲れが出たらしい。


 イリスはネロを少しだけ撫でて、ラズライトに手を差し出した。


「ラズライト」

《うん》


 ラズライトが圧縮バッグの上に飛び乗ると、よし、と呟く。


「じゃあそういうことで」

『え!?』


 ビオラとグラジオラスが同時に声を上げた。


「いや待て! お前、どこ行く気だ!?」

「どこって…」


 イリスは半眼でグラジオラスを見遣る。


「旅に戻るに決まってるでしょ。ビオラたちは助けられたんだから、もう用は無いよね?」

「いやいやいや、ビオラが訴えに行く時の付き添いとか」

「それはラフィ姉とレオ兄が請け負ってくれたじゃない。私よりよっぽど頼りになるから大丈夫だよ」


 さっさと逃げを打とうとするイリスに、グラジオラスが必死に食い下がる。


「お礼! お礼してないだろ! 里に連絡したら、子どもたちの親がイリスに礼を言いたいって言ってたんだよ! せめてあいつらに顔見せてやってくれ! なっ!」

「イリス、ちょっとだけ行ってあげたら?」


 ラフェットが苦笑して言った。思わぬところからの助け舟に、グラジオラスが目を輝かせる。

 ラフェットはそんなグラジオラスを視線で示し、肩を竦めた。


「こういう手合いはしつこいし面倒よ。これっきり、絶対二度と行かないって条件つけておけば、これ以上付き纏われなくなるし」

「しつこいし面倒…」

「あの、イリス、私からもお願い」


 ショックを受けるグラジオラスを無視して、ビオラもイリスに懇願する。


「子どもたちの親の中に、私たちと同世代の子たちも居るの。カトレアとか、クレソンとか…覚えてない?」


 イリスが少しだけ目を見開いた。覚えのある名前だったらしい。


 数秒後、イリスは迷いを見せつつも頷いた。


「……今回だけ。ラズライトとネロも一緒に。それで良いなら」

「ありがとう!」


 ビオラがイリスの手を両手で握り締めた。





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