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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
西方編

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154.交易都市の朝

 翌日の朝食はとても豪華だった。


 イリスには、はちみつとバターがたっぷり乗ったパンケーキと温かいポタージュスープ、ハムエッグと温野菜サラダにフルーツの盛り合わせ。

 ラズライトには鶏、豚、牛、羊の肉をそれぞれ煮込んだもの。

 ネロには同じ肉の煮込みを少量ずつと、フルーツの盛り合わせ。


「わお」


 ケットシー用も伝令カラス用も、きちんと考えられたメニューだ。


《すごいですね!》

《流石は高級宿…》


 それぞれ、有難くいただく。


「…これだけでもここに泊まった甲斐があるかも…」


 部屋で食べるならマナーとか気にしなくて良いし。昨日の夕食は味が分からなかったし。

 少々恨めしそうに呟く。


《頑張ってお金貯めて、来年もまた来れば良いんじゃない? 食事は部屋で食べたいですってお願いしてさ。料金表見たけど、手が届かない金額じゃなさそうだよ》

「来年グラジオラスに会わなかったら考えようかな…」


 そっちの問題があったか。


 ちなみに、夕食の席で別れて以降、グラジオラスからの接触は無い。

 ラズライトたちが部屋から出ていないせいもあるが、多分グラジオラスがこの部屋に来られないよう、宿の従業員が気を遣ってくれているのだろう。有難い限りである。


《グラジオラスって、いつも決まった場所に居るの?》

「いや、何か適当にほっつき歩いてるっぽいよ」

《ほっつき歩いてる…》


 グラジオラスは、情報収集のために里の外に出る『巡りの者』という役割のエルフなのだそうだ。


「里への帰還も数年に一度みたいだから、ちゃんと役に立ってんのかは疑問だけど」

《ああ…》


 イリスに『情報収集って名目で楽しく旅暮らししてる』と揶揄されて言葉に詰まっていたのを考えるに、グラジオラスにも多少は自覚はあるのだろうが。


「楽師の格好してフラフラ歩いてるんだよね。前は秋に東の村で出くわしたから、1年周期で同じルートをぐるぐる回ってるって感じではなさそう」

《本人に確かめたことないの?》

「聞いたらこっちも教えなきゃならないでしょ? 尾け回されたくないし…」

《あー…なるほど》


 出来る限り避けたいのであちらの情報は欲しいが、こちらの情報は開示したくない。難しいところだ。



 朝食を終えたら、昨日支配人に教えてもらった通り、部屋の外、廊下側のドアノブに札を掛ける。

 テーブルの上の食器はとりあえず端に寄せ、『ありがとうございました』のメモ書きと少しのチップを添えておく。


「チップ渡すとか、何か別世界に来たみたいだよね」

《お金持ちが使うところじゃないとあんまりやらないもんね》

《そうなんですか?》

「そうそう」


 イリスがチップの文化を知っていたのが驚きだが、兄弟子のレオンから聞いたことがあったそうだ。


「ラフィ姉はそういうトコ結構無頓着だから、レオ兄がいつもフォローしてるんだよね。あと、依頼人が気を遣ってお高い宿を用意することも多いらしくて。下手したら、チップだけで1泊につき金貨が2、3枚飛んで行くらしいよ。死んだ目で愚痴ってた」

《なにそれ怖い》


 お前は色々気を付けろよ、と言われたらしい。


「その当時は『そんなの必要な所に行くことなんて無い』って言ってたんだけどねー」


 人生、何が起こるか分からないものである。


 イリスが笑いながら圧縮バッグを背負い、ラズライトとネロが定位置に収まったのを確認してから扉を開ける。


 少しひんやりとした空気の中、階段を下りて行くと、客室とは全く違うシンプルな扉の前に着いた。


「これ、もう外だね」


 扉の向こうから明るい光が漏れている。


《忘れ物は無い?》

「多分大丈夫」

《はい!》


 確認してからイリスが扉を開けると、


「おはようございます」


 朗らかに声を掛けられた。


 驚いて見遣ると、箒を持った女性がにこやかにこちらを見ている。服装からして、宿の従業員だ。


 イリスは驚くこともなく笑顔で応じる。


「おはようございます。一晩ありがとうございました」

「こちらこそ、ご利用ありがとうございます」


 深く頭を下げた後、女性は向かって右を手で示す。


「こちらへ進んで突き当たりを左に折れると、中央広場に直接出られます。()()()は朝から宿の正面で待ち構えておりますので、接触を避けたいのでしたらこちらへ行かれるのがよろしいかと」


 ここは宿の裏手のようだ。建物の向こうから、確かに竪琴の音が聞こえる。


 待ち構えているなら音を出さない方が良いと思うのだが…こちらに避けられていると気付いていないのかも知れない。


 少々気の毒な気もするが、無用なストレスは少ない方が良い。


「何から何までありがとうございます」

「また是非、ご利用くださいませ」


 笑顔の女性に見送られ、裏通りを進む。

 突き当たりを左に曲がると、道と言うか、建物と建物の隙間を通ることになった。


《え、これホントに道?》

「道だね。ホラ、ここにドアがある」

《ドアが開いたら避けられませんね…》


 ネロがちょっと青くなるが、ドアが開くこともなく、するすると進んで行く。

 ようやく細い道が途切れると──


「わっ」


 イリスが慌てて首を引っ込めた。


 中央広場はすごい人出だった。

 イリスがタイミングを見て踏み出したものの、すぐに人混みに流されてあらぬ方向へ行きそうになる。


《イリス、このままだと宿の方に行っちゃうよ》

「なぬ」


 何とか人と人の間を縫い、広場の端に出た。


 丁度、店の扉のすぐ横だ。ドアが開くスペースは、あまり人が通らないらしい。


「…何でこんなに人が…」


 イリスがげっそりとした顔で呟くと、扉が開いて若い男が顔を出した。


「旅人さん、お疲れかい?」

「うんまあ。こんなに人が多いなんて思わなくて」


 イリスが答えると、ははっと男が笑う。


「クロスラムナ名物、『船乗りの行進』さ。まあこの辺に居るのは船乗りじゃなくて、買い付けに来た商人とかだけどな。港によそからの船が着いた時は、大体こうなんだ」

「うええ…」


 今日は東方からの船と、北方からの船団が同時に入港したため、普段以上に人が多くなっているのだという。


「良かったら、うちの2階のテラス席から見てみなよ。今日はよく見えるぜ」


 親切そうな顔で言い、ニヤリと笑う。


「ちなみに、朝メシ食べてないならモーニングセット、食べた後ならハーブティーとパウンドケーキのセットがおすすめだ」

《ちゃっかりしてる》

「まあな」




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