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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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14.野営

 『族長殿に良い報告ができるぜー』と上機嫌で飛び立つ伝令カラスを見送った頃には、辺りはほとんど闇に包まれていた。


 西の空はまだ薄らと赤いが、東の空は既に藍色、星も輝き始めている。


《で、これからどうするの?》


 ラズライトが問うと、イリスは歩き出しながら答えた。


「とりあえず、今夜は野営かなあ。街まで行くのは厳しいし」


 ここから街までは、徒歩で半日ほど掛かる。夜通し歩くよりは、適当な場所で夜を明かした方が安全だ。


《牧場に泊めてもらうって手は?》

「泊めてもらえたとしても謝礼が払えない」

《え、そんなにお金無いの?》


 見上げると、イリスは難しい顔で視線を逸らした。


「採取屋は食って行くのが難しくてねー」


 聞けば、常に金欠気味のため、街に行っても宿に泊まらず、わざわざ街の外で野営する有様らしい。


(…あれだけの紅琥珀が採って来れるんだから、普通に旅する分には全然お金に困らないはずだけど…)


 イリスはカイトたちに『売り物にもならない』と言って紅琥珀を押し付けていたが、かなり大きな原石だ。

 宝飾品用としてはクズ石扱いだが、錬金術の素材として売れば、あれ1つで10日分の宿代くらいにはなる。


 もしや、本当は売るはずだった物を譲ってしまったのだろうか。だとしたら、とんだお人好しだ。

 ──そういう相手は嫌いではないが。


 イリスはラズライトを抱いたまま移動し、街道を横断、最初に出会った森に少し入った所で足を止めた。


「この辺で良いかな」


 街道側には灌木が茂り、森の奥の方は少し拓けている。

 広場と呼ぶほどのスペースも無いが、1人と1匹には十分だろう。


 イリスは下草の無い地面に手早く枯れ葉と枯れ枝を集め、昼間と同じように焚き火にした。

 相変わらず手際が良い。


《夕飯はどうするの?》

「狩って来る」


 イリスは真顔で短剣を掲げた。


《え、ちょっと待って。もう夜だよ? 流石に危ないんじゃない?》


 夜の森は夜行性の獣や魔物が活動していて、日中とは比べ物にならないほど危険度が高い。

 ある程度腕の立つ冒険者でも、夜の森での討伐や狩りには二の足を踏む。

 昼間以上に見通しが悪く、一歩間違えれば死に繋がりかねないからだ。


 しかしイリスは慣れているのか、大丈夫だって、と気安く請け合った。


「ラズライトは火の番してて。すぐに戻るから」

《え、ちょっ》


 こちらが止める間も無く、森の闇に消える。

 すぐに気配が追えなくなり、初めて会った時、至近距離に近付かれるまで彼女の存在に全く気付かなかった事を思い出した。


(…そういえば、エルフは植物との親和性が高いから、森そのものの気配と同化した状態で行動できるんだっけ…)


 一般的なエルフの武器が弓なのも、森の中で気配を消せるという特性を活かすのに、遠距離武器が最も適しているからだ。


 加えてエルフは、ケットシーほどではないが夜目が利く。

 完全に真っ暗にはなっていない今の時間帯なら、不自由はしないはずだ。



 ──などとつらつらと考えている間に、イリスが丸々太った野ウサギを手に戻って来た。


「ただいま」

《早いね》

「まあね」


 ふふん、と、得意気な笑い。


 そのまま慣れた手つきで野ウサギの頭を下にして木にぶら下げ、あっという間に血抜きと解体を済ませる。

 辺りに漂う血の匂いに夜行性の肉食獣が釣られて来ないかと警戒していたが、虫の声とフクロウの鳴き声がするばかりで、後は静かなものだった。


「ハーブ焼きで良い?」

《良いよ》


 毛皮と内臓と頭は穴を掘って埋め──毛皮は売れると思うのだが、腐らないように加工するのはこの時間帯では難しいか──、肉は骨ごと大雑把に切り分けてハーブと塩少々をまぶす。


 それを枝に刺して火で炙り始めるのを見ながら、ラズライトは首を傾げた。


《ハーブなんて持ってたっけ?》


 イリスが使ったのは、生のローズマリーとオレガノ。

 昼間、彼女や彼女の持ち物から匂いはしなかったはずだが。


「さっき、獲物探してる時に見付けたから、ついでに採って来た」


 この森良いよね、食べられるものがたくさんあって。


 イリスは実に楽しそうに答えた。

 しかし、この闇の中でハーブを判別できるというのは一体どんな観察眼なのだろうか。


 しかも今、彼女はウサギ肉が焼けるのを待ちながら、何やら赤い実を次々口に放り込んでいる。

 一つ一つは小さいが、ドライフルーツではなく、新鮮な果物のようだ。

 まさかそれもこの短時間で採って来たのだろうか。


《何食べてるの?》

「あ、ごめん。ラズライトも食べられる? フユイチゴって言うんだけど」


 大きめの葉に乗せて差し出されたのは、小さな赤い粒が20個くらい集まったような、ラズベリーによく似た果実。


「木イチゴの仲間って、普通は初夏くらいに実を付けるんだけど、フユイチゴだけはこの時期に採れるんだよね」


 だから『冬』イチゴと呼ぶらしい。大変分かりやすい。


 しかし、今生で果物を食べるのは初めてだ。

 恐る恐る口に含んで噛み締めると、予想より軽い甘さと爽やかな酸味が広がった。


《…結構好みかも》


 ラズライトが思わず呟くと、イリスは嬉しそうに破顔し、さらにフユイチゴを分けてくれた。


《──それにしてもイリス、植物に詳しいね》


 ウサギ肉が焼ける香ばしい匂いが漂う中、フユイチゴを食べながら話を振ってみる。

 そりゃあ、とイリスが肩を竦めた。


「これでも一応、エルフだからね。里に住んでた頃は大人に色々教えてもらってたし」


 エルフは別名、『森の人』。幼少期から身の回りの植物について学んでいる。


「里を出てからは、剣の師匠とか錬金術師の友人とかに、もっと具体的で実用的な事を教わったよ」

《錬金術師はともかく、何で剣の師匠が》

「とりあえず、1人で何でもできるようになれ、が師匠の基本方針だったからね。最低ラインは、『ナイフ1本で1ヶ月サバイバル可能』」

《君の師匠の基準が分からないよ…》


 ラズライトが呻くと、イリスがケラケラと笑った。


「正直、私にも分からない」




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