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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
北方編

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146.干し肉加工

《ラズライトさーん!》


 舞い降りて来たのは、伝令カラスのネロだった。2往復目だからか、思ったよりずっと早い。


《ネロ。早かったね》

《お父さん、街の近くまで来てたんです》


 頑張って探そうと思ったら、ものすごく近くに居たらしい。

 これじゃ練習にならない、と、ちょっと膨れている。


《ノラも心配性だからね…》


 思わず苦笑する。


 ついこの間まで満足に飛べなかった子どもなのだ。何かあったらと気が気でないのだろう。


《じゃあネロ、2回目の伝言は?》

《あ、はい。…『お前のとーちゃんソワソワしてたからそろそろ顔見せに行けよー』だそうです》

《…10日前に行ったばっかりなのに…》


 そんな状態では、ラズライトがイリスと共に旅立ったらどうなるのか──考えて、ジェイドたちにもちゃんと挨拶してから出発した方が良いと思い至る。


 グレンはグレンでカナキリグサの根を欲しがっていたし、意外とやる事が多い。


《…分かった。じゃあノラに、『もうすぐイリスと街を出るから、その前に一度家族に顔を見せに行く』って伝えてくれる?》

《え!?》


 途端、ネロがショックを受けた顔をした。


《ラズライトさんたち、どこか行っちゃうんですか!?》

《あ、言ってなかったっけ。僕らずっとここに住んでるわけじゃなくて、夏はこの街、冬はもっと南の街って感じで行き来してるんだよ》


 説明すると、


《そ、そうなんですね…》


 ネロは納得したように頷いたものの、不安そうに視線を落としている。


 その反応に、ラズライトも戸惑った。

 どうやらネロは、思っていた以上に自分たちを慕ってくれていたらしい。


《ネ、ネロ! ほら、君も伝令カラスでしょ? 仕事をするようになったら君もあちこち飛び回るようになるんだし、いつでも会えるよ》


 何とか言葉を絞り出すと、ネロが顔を上げた。


《…そうですよね…分かりました。伝言、お父さんに伝えておきますね》


 ばさり、翼を広げる動作も、何だか元気がない。


 そのまましょんぼりと飛び去るネロを、ラズライトは複雑な気持ちで見送った。


(言わなきゃ良かったかな…いやでも、黙っていなくなるのもそれはそれで…)



 悶々としながらグレンの家に戻ると、


「あ、おかえりラズライト」

《うわ》


 天井から大量の肉がぶら下がっていた。


《え、何コレすごいね》

「今夜から雨が降るらしいから、外に干すわけにいかなくて」


 その前に、普通はまず一晩以上味付け用のタレなどで漬け込むと思うのだが、いきなり干して良いのだろうか。


 そう思ったのだが、よく見ると肉の色が変わっているし、部屋中に香辛料や調味料の匂いが充満している。どうやら、この短時間で下味はつけ終わっているらしい。


「イリス、肉屋に鍋を返してこい」


 奥から出て来たグレンが、巨大な鍋をイリスに渡す。

 その中を覗き込んだイリスが、あれっと声を上げた。


「これ、スパイス?」

「以前女将に、干し肉用のスパイスの配合を教えてくれと言われていたからな。鍋の礼も兼ねて渡してこい」

「ほーい」


 イリスが適当な返事をして出掛けて行く。


 …先程女将と話した感じ、何か企んでいそうなのだが…多分何を言われてもイリスは気付かないだろう。


 内心で溜息をついて、改めて部屋を見渡す。


 どうやら、肉はそれぞれ数種類の味付けをしてあるようだ。


 白っぽいのは多分シンプルな塩味。

 ハーブがまぶしてあるものと、醤油か魚醤を使って甘辛く味付けしてあるもの。

 赤っぽいやつは、唐辛子ベースの辛い味だろうか。


 色々な種類の匂いが混ざり合って、ちょっと大変な事になっている。


「…そういえばお前、乾燥魔法とやらが使えるらしいな」


 グレンがこちらを見てそんなことを言う。

 一見平静を装っているが、目が興味深そうに輝いていた。


「それ、肉に使えないか?」

《魔法で干し肉作るの?》

「作るというか、時間短縮の検証だな。物は試しというやつだ」


 これにやってくれ、と、グレンが肉の一部を降ろして皿に載せる。

 どうあってもやる流れだ。ラズライトは素直に魔力を解き放った。


乾燥(ドライ・アップ)!》


 皿の上の肉が少しずつ縮んで行く。


 4分の3くらいのサイズになったところで、一旦止めてくれ、とグレンが言った。


「良い具合だな。このまま燻製に出来そうだ」

《あ、なるほど》


 魔法だけで仕上げるのではなく、魔法で適度に水分を抜いた後、燻製にしてさらに保存性を高めるつもりらしい。


 グレンが錬金術素材の棚を漁る。

 取り出したのは、大きめの木くずのようなもの──燻製用のチップ。


 …何故素材棚から出て来たのかは聞かないことにする。


「シビレヒノキとカンゲツザクラ…アオリマツも使ってみるか…」

《ねえ待って。何使おうとしてんの!?》


 折角流そうとしたのに、色々突っ込みどころが出て来てしまった。


 シビレヒノキは、その名の通り麻痺毒を持つ樹木。

 カンゲツザクラは氷の魔力を放出する魔樹。

 アオリマツはまだ普通だが、油を多く含んでいて加熱すると一気に燃え上がる。


 当然ながら、どれもこれも普通は燻製には使わない。


 明らかにおかしいラインナップにラズライトが突っ込むと、グレンは肩を竦めた。


「心配するな。シビレヒノキの毒は抜いてあるし、カンゲツザクラはもう魔力が抜けてる」

《アオリマツは?》

「ただの着火剤だ」

《…》


 何となく信じられないのは、彼がイリスの知り合いだからか。


 ほんの数ヶ月の付き合いだが、グレンが何度か奇行に走るのを目撃している身としては警戒せざるを得ない。


 例えば、各種薬剤を入れた鍋の中に、トレントの天敵であるハガネカミキリをトレントの枝と一緒に突っ込み、真っ黄色の煙を発生させたり。


 種類の分からないキノコを複数種すり鉢ですりつぶして反応性の強い薬剤を注ぎ、フランベよろしく燃え上がらせたり。


 錬金術の実験と言えば聞こえは良いが、何をしたいのか分からないことが多々ある。


 何より、燻製は料理である。錬金術の実験と同じノリを持ち出さないで欲しい。


 …前の世の飼い主が、『料理ってどっちかって言うと化学実験に近いものがあるよね』とか言っていたのは記憶の闇に葬っておく。


「大丈夫だ。少なくともカンゲツザクラは使ったことがある」

《あるの!?》

「普通のサクラより一段深い香りがついて美味かったぞ」


 自信満々に言う。これはもう止めるだけ無駄だ。


 ラズライトは早々に諦め、後は言われるがままに肉を乾燥していった。



 程無く、イリスが帰って来る。


「ただいまー」

《おかえ…り…?》


 イリスが見覚えの無い革袋を持っている。出掛ける時は持っていなかったはずだが。


《イリス、なにそれ?》

「肉屋の女将さんから貰った。中身は羊の腸だって。ひき肉とスパイスを詰めれば腸詰が出来るらしいよ」

「…またお前は食材を増やして…」


 グレンがジト目になる。


 羊腸もナマモノなので、早々に調理するに越したことはない。

 仕事が増えた、と愚痴るグレンに、イリスは笑顔で革袋を渡す。


「まあまあ。私も手伝うし、肉はここに吊るしてあるやつ使えば良いじゃない。何だったら今からひき肉買って来ても良いし」

「本音は?」

「出来たてウインナー食べたいデス」

「…言うと思った」


 イイ笑顔で言うイリスは、よく見ると涎を垂らしそうな顔をしている。


「良いじゃん肉詰め器あるんでしょー?」

「何で知ってるんだ」

「女将さんから聞いた」


 この街──というか、グレンとイリスの間にプライバシーという概念は無いらしい。


 溜息をついたグレンは、未乾燥の塩味とハーブ味の肉を何本かフックから外した。


「これを使うぞ。あと、出来上がったウインナーの半分は俺に寄越せ」

「う、ぼったくり」

「それが嫌なら全部自分でやれ」

「ぐぬ…」


 イリスは渋々頷いた。



 ──なおその日の夕食は、出来たてのウインナーを焼いたもの、ボイルしたもの、燻製にしたもの…と、イリスの希望通りのウインナー祭りになった。






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