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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
北方編

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143.発想の転換と夏の終わり

 ラズライトが言葉に詰まっていると、少し離れた所にネロとノラが降り立った。


 着地も結構、さまになっている。


《どうだー? ネロ。慣れてきたか?》

《うん!》


 ネロの目が輝いている。飛べるのが嬉しくてたまらないのだろう。


 が──



《うわー!!》



《ネロー!?》



 いざ自分の魔法で飛ぼうとしたら、また盛大に吹っ飛んで行った。


「うわあ…」

《何かさっきより勢いついてるね…》


 かなり遠くまで飛ばされたネロと、それを必死に追うノラ。

 手をひさしのようにしてそれを眺めていたイリスが、ぼそりと呟いた。


「ねえラズライト」

《なに?》

「風魔法の力加減を覚えるのと、あの勢いで飛ぶのに慣れるの、どっちが楽だと思う?」

《は?》

「いやもう、あの勢いの風が出せるなら、すっごいスピードの伝令カラスになれるんじゃないかと思って」

《…言われてみれば》


 群れで行動するわけではないので、別に他の伝令カラスと同じように飛ぶ必要は無いのだ。


 戻って来たネロとノラにイリスの思い付きを伝えると、ノラの目が点になった。


《は? あのスピードでまともに飛ぶ?》


 冗談だろという顔をしているが、残念ながらイリスは本気だ。


「あれだけの威力が出せると、逆に加減するの難しいと思うんだよね。だったらいっそ、今の状態の風で飛べるようになれば良いんじゃないかと」

《いやいやいや、それ大変だぞ?》

「魔法を精密に操作するのとどっちが大変?」

《うん? …うーん……》


 イリスが訊いたら、ノラは考え込んでしまった。多分ノラにも分からないだろう。


 難しい顔をして話を聞いていたネロが、お父さん、とノラに向き直る。


《僕、やってみたい》

《え?》


 ノラとティアが驚いてネロを見た。


《いや、大変だぞ? ネロ》

《うん…でも、僕も僕なりの方法で飛んでみたい》

《そうか…分かった》


 ネロの表情が、明らかに今までと違う。


 覚悟を決めた姿に、ノラも深く頷いた。





 その後──



「いやー、やればできるもんだねえ」


 ノラたちの巣に帰る道すがら、イリスがしみじみと言った。

 その腕には、ネロが抱かれている。


 ひたすら練習を繰り返した結果、ネロは翼を広げた状態で自分の起こした風に乗れるようになった。

 最後の方には魔力が尽きかけて風力も大分弱まっていたので、それも幸いしたのだろう。


 『コツがわかった気がします!』と笑顔で地面に降り立ったネロは、そのままぱたりと倒れて気絶した。


 今も気絶したままだが、その顔は妙に晴れ晴れとしている。


《この分だと、ホントに世界最速の伝令カラスになりそうだね》


 まだ技術は拙いが、たった半日でこの成長。

 今後が楽しみなような、怖いような。


《まっ、俺とティアの息子だからなー》


 ノラは全く心配していないらしく、飛行しながら器用に胸を張る。

 その隣で、ティアが目を細めた。


《イリスさん、ラズライトさん、本当にありがとう。ネロが自分でやってみたいと言えるようになったのは、あなたたちのお陰よ》


 ネロは兄弟たちの中で一番成長が遅く、いつも一歩退いているところがあったのだという。

 羽の生え替わりも最後で、しかもこの色。相当ショックだっただろう。

 兄弟たちにからかわれながらも、必死に飛行練習をしていたのだが──


 他の兄弟たちは次々に巣立ち、とうとうネロは最後の一羽になって、心が折れてしまった。


 岩の隙間に引き籠り、食事も拒否するようになったところに、ノラがイリスとラズライトを連れて来た、という事だったらしい。


「え、じゃあネロ、何も食べてなかったの? そんな状態で飛行練習なんて危なかったんじゃ…」

《途中で干し肉食べてたじゃない。大丈夫だよ》

《まあなー。伝令カラスはそんなにヤワじゃないぜ。──まっ、この後スープでも作ってもらえると助かるけどなー》

「分かった。任せてよ」


 イリスが笑って頷いた。



 なおその後、結局街への帰還は深夜になってしまい。


 『こんなに遅くなるなら伝令カラスにでも頼んで一報入れろ』とグレンに怒られる事になった。





 そうこうしているうちに、夏は過ぎ。


 少しひんやりとした風が吹き始めた頃、そろそろ行こうかな、とイリスが呟いた。


《行く?》

「うん。南にね」

《ああ、そっか》


 夏の間グレンの家を拠点としてあちこち出歩いていたのですっかり忘れていたが、イリスは季節ごとに生活拠点を変える旅人だ。


 ラズライトが頷くと、錬金術の素材を仕分けていたグレンがちらりと顔を上げた。


「そうか」


 呟いて、机の引き出しから紙の束を取り、イリスに渡す。


「これは?」

「追加の採集素材リストだ。どうせ来年も来るんだろう。1年かけて集めて来い」

「ちょっ、やたら多いんだけど!?」

「1年分だからな」


 ぱらぱらと、紙をめくる音が随分長く続く。


「えっ何コレ。東方産の紅睡蓮の種とかあるわけないじゃん」

「西の交易都市にでも寄れ。店に売ってるはずだ。代金は立て替えてくれれば後で俺が払う」

「ええ!? 今までそんなの頼んできたことないのに!」

「当たり前だ。金を持ってない奴に買い物の依頼が出来るわけないだろ」

「あっハイ」


 イリスが一瞬で大人しくなった。伊達に長い付き合いではないということか。


「あと、近いうちに出発するつもりなら干し肉用の生肉でも買って来い。材料があれば加工してやる」

「やった!」


 ぱあっと顔を輝かせたイリスが立ち上がり、いそいそと出掛ける準備を始める。


《僕もついて行こうか?》

「ううん、大丈夫だよ。今日はネロがラズライトの所に来るでしょ? 待っててあげた方が良いって」


 ネロは現在、伝令カラスとして『おつかい』の練習中だ。

 いきなり本番は不安だというので、ノラがラズライトに頼んできた。


 今回の目標は、今日のうちにノラとラズライトの間を2往復すること。

 ノラは1回目と2回目で場所を変えるらしいので、ラズライトもそのつもりでいる。


 確かにイリスの言う通り、初回は分かりやすい場所に居た方が良いだろう。


 ラズライトが頷くと、じゃあ行って来るね!とイリスは足取り軽く出掛けて行った。




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