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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
北方編

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142.飛行練習

 ノラ一家と共に向かったのは、ラズライトとイリスが飛ぶ練習をした山の裏手。


 街からは見えず、登山道からも離れているので、よほど高く飛ばなければヒトに見られる心配は無い。


《魔物も近くには居ないみたいだから、思いっ切り練習できるよ》


 一応魔法で探査してからゴーサインを出す。

 イリスに抱きかかえられて来たネロは、地面に飛び降りて眩しそうに周囲を見渡した。


《広い…》

「ドラゴンが飛行練習できるくらいだからね」


 イリスが笑う。


《さあ、行こうぜネロ》


 ノラが軽やかに飛び上がると、ネロは緊張した面持ちで頷いた。


《い、行きます》


 ぶわっと魔力が膨れ上がる。

 ラズライトは目を見開いた。


(え、うそ)


 明らかに普通の魔力量ではない──伝令カラスが扱う魔力にしては、多すぎる。


 案の定、ネロはものすごい勢いで斜め上に向かって吹き飛んだ。


《うわ──!》

《ネロ落ち着け! 魔法をやめて翼を広げろ!》


 翼を広げない状態で真っ直ぐ射出される様は、鳥と言うよりもはや弾丸だ。

 風魔法が強すぎる。


「うわー…すごい」


 イリスが変に感心している。


「あんな飛び方初めて見た」

《…まあ飛んでるんじゃないしね、厳密には》


 『飛んだ』のではなく、吹き飛んでいる。


 ノラに言われた通りに風魔法を止めたネロは、何回か羽ばたいてその場に滞空した後、力尽きてべしゃっと地面に落ちた。


《…うう…》


 なるほど、これは『恥ずかしい』と言っていた気持ちが分かる。


 近付くと、ネロは目を真っ赤にして泣くのをこらえていた。


《大丈夫? ネロ》

《…はい…》


 頷くが、大丈夫じゃないのは明らかだ。


 ノラとティアが心配そうに近くに降り立った。


《ネロ、君は飛べないわけじゃないよ。風魔法が強すぎて、上手く姿勢が制御できてないだけ》

《えっ…》

「うんうん。だって飛べてたもんね。ちょっと勢いがつきすぎるだけで」


 イリスがこくこくと頷いた。


 ラズライトの飛行練習に付き合った結果、イリスの中の『飛ぶ』の基準が明らかにおかしくなっているのだが…今はその方が都合が良いので黙っておく。


 大事なのは、ネロが自分で『できる』と思えるようになることだ。


 魔法の制御能力は基本的には先天的なものだが、最終的には意志の力がものを言う。

 どんなに制御に長けていても、精神的に不安定な状態では魔法は上手く使えない。逆もまた然りだ。


《今より少しだけ魔法の威力を落としてみて。翼があるんだから、風が弱くても飛べるよ》


 そもそも伝令カラスは鳥──普通に飛べる生き物だ。


 速度を上げたり小回りを利かせたりするのに風魔法を使うが、本来は魔法を使わなくても飛べるはずなのだ。


 ラズライトが説明すると、ネロは緊張気味に頷いた。


《わ、分かりました》


 再度、ネロが魔法を使う。

 今度はちゃんと翼を広げ、風を受けるようにしているのだが──


「…そよ風?」

《…だね》


 あまりにも魔法が弱すぎて、地面からちょっと跳んでは着地、を繰り返している。


 正直、飛べてない。


 ネロがしょんぼりと翼を落とし、魔法を止めた。


《…うん、大体状況は分かった》


 ラズライトは敢えて平然として頷いた。


 正直予想以上に厳しい状況だが、ネロを不安がらせてはいけない。


 それに、


《ネロ。もしかして、風を受けるのが怖い?》

《……はい》


 ネロは驚いた顔をした後、泣きそうな顔で頷く。

 洞窟で練習していた時に壁にぶつかっていたらしいから、それも仕方ないだろう。

 力加減云々の前に、恐怖が先立ってしまって魔法が制御できないのだ。


 ノラとティアが目を見開いた後、納得の表情になった。


《そうかー。それじゃ仕方ないなー》

《ぶつかると痛いものね…》

《え…?》


 ネロがぱっと顔を上げる。


《お、怒らないの?》

《怒るわけないだろー。誰だって、壁にぶつかったら痛いもんなー》

《何度も練習していたものね。気付かなくてごめんね、ネロ》


《……うん…うん…!》


 ネロがティアに抱き付いた。

 ティアがネロを抱き締め返し、その2羽をノラが翼で包み込む。


 本当に仲の良い家族だ。


 正直、眩しい。


「…」


 ふと横を見ると、イリスもラズライトと同じような表情をしていた。


 が、それも束の間。すぐに何か企んでいる時の顔になる。


 ノラたちが落ち着くのを待って、イリスは口を開いた。


「そしたらさ、ノラ。まずは風に慣れるっていうのはどう?」

《風に慣れる?》

「ノラが風魔法使って、ネロを飛ばすんだよ。そしたら、ネロもどれくらいの強さの風が必要なのか分かるし、風に乗って飛ぶ感覚も掴めるんじゃないかな」

《そうか! そうだな!》


 ノラがぱっと目を輝かせる。


《ネロ! やってみても良いかー?》

《…うん!》


 ネロは一瞬躊躇ったが、迷いを振り切るように頷いた。


 そうしてノラの風魔法で飛び始めると、ネロの飛行はどんどん安定し始める。


 ネロは勿論、ノラも器用だ。

 自分に魔法を使うのと他の者に掛けるのとでは全く勝手が違うはずだが、平気な顔でネロに合わせている。


「ネロもノラもすごいねえ」


 低空を飛び回る親子を見上げて、イリスが感嘆の声を上げる。


《君の思い付きもすごいよ。普通、自分のじゃない魔法で飛ぶ感覚を掴もうなんて思わないもん》

「そこはほら、ラズライトの飛び方を参考に」

《ああ…なるほど》


 ラズライトも、イリスの浮遊魔法に頼って飛んでいる。それを知っているからこその発想ということか。


「あと、ジェイドが言ってたんだよね。ラズライトが飛べないままだったら、自分の能力を使って飛び方を教えるつもりだった、って」

《…どんだけ過保護なの、父上…》

「愛だよ、愛」


 イリスがニヤニヤ笑う。


 からかわれているのは確実だが、父の性格からしてイリスの言葉はどう考えても正しいので何とも言えない。





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