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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
北方編

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133/174

132.魔法発動の条件


《もしや…》

(?)


 何か分かったのだろうか。


 ラズライトが内心首を傾げていると、イリスがのろのろと身体を起こした。


「…き、気持ち悪い……」

《まだ立ち上がらない方が良いわ》

「うぬう…」


 サファイアに言われて、イリスは上体を起こしたところで止まる。

 何回かフラフラと頭が揺れた後、深呼吸と共にふらつきが止まった。


「──よし」


 回復が早過ぎる。


《イリス、もう大丈夫なの?》

「平気平気」


 まだちょっと気持ち悪いけど…と言う通り、若干顔色が悪い。

 もう一度深く息を吐いたイリスは、不思議そうに自分の手を見詰めた。


「…にしても、私って魔法使えたんだね」

《やっぱりさっきの浮遊魔法って、イリス?》

「多分…何か身体の中から出て行った感じがしたし、あの時は前に体験した浮遊魔法をすっごい頭の中に思い浮かべてたから」


 言って目を閉じ、むむむ、と何やら集中し始める。


《…何してるの?》

「魔法で火を出せないかなーと」


 両手を拍手する手前くらいの位置に掲げているが──火が起こる様子は無い。


《君ねえ…》


 なおも頑張るイリスに呆れて、ラズライトがイリスの頭の上に顎を乗せた、瞬間──



 ボワッ!



「わあっ!?」


《うわあ!!》



 イリスの両手の間に炎が上がり、瞬く間に膨れ上がった。


 咄嗟にラズライトが首を引っ込めると、炎は消える。


 その一瞬で、イリスの前髪の先とラズライトの鼻先が少々焦げた。

 冗談のような火力だ。


「え? 何? 今なんで!?」


 前髪の先がチリチリになったイリスが、目を白黒させている。


 その様子を見て、ラズライトはふとあることに思い至った。



 イリスが魔法を使う時の条件は──



《イリス》

「ふえ?」

《ちょっと、また魔法使おうとしてみてくれない? 出来ればもうちょっと火力を落として──いや、火魔法じゃなくて、風魔法使うつもりで》

「わ、分かった」


 イリスが──恐らく周囲に被害が及ばないようにだろう。誰も居ない方向に両手を向け、集中し始める。


 やはり、魔法は発動しない。


 そこまで確認して、ラズライトはゆっくりとイリスに近付いた。


 あと30センチ──20センチ──10センチ──5センチ──1センチ──



 ──ブワッ!



「わっ!?」



 ぴと、とラズライトの顎がイリスの肩に触れた瞬間、前方に向けて猛烈な風が吹き出した。


《イリス、そのまま集中してて》

「え? う、うん」


 ラズライトが離れると、風がピタリと止まる。

 次に右手でイリスの右腕に触れると、再び突風が吹いた。


 触れる場所を変え強さを変え、試すこと数回。


《…うん、もう良いよイリス》


 ラズライトは確証をもって告げた。


《君は、僕が触れてる時だけ魔法が使えるんだと思う》


 別に素肌に触れる必要は無く、服越しでも良いが、何かしらの接触が無いと魔法が発動しない。


「ええっ!?」


 イリスは何故か目を輝かせた。


「何それカッコ良い! 合体技ってやつじゃん!」

《ええ…》

「何でそこで嫌そうな顔するのさー」


 イリスがいつもの調子で絡み始めた。

 ラズライトがケットシーの姿でなくとも、距離感は変わらないらしい。


《僕は何もしてないから、合体技って言うのはどうかと思う》

「えー良いじゃん。ラズライトが居ないと使えないのは事実だし」


 これで離れられなくなったねウェヘヘヘヘ、と、気持ち悪い笑顔。


 イリスはラズライトが居ないと魔法が使えない。

 ラズライトは──浮遊魔法と風魔法の同時使用は難しいので、飛ぶためにはイリスが必要。


 事実は事実だし、ラズライトとしても離れるつもりは無いのだが──その顔、妙にイラっと来る。


《──なるほど》


 そんな間抜けなやり取りを見守っていたジェイドが、納得顔で呟いた。



《其方、()()()()()()()()()()()()()か》


「…ハイ…え? なに?」

《ハイランドエルフだ》


 首を傾げるイリスに、ジェイドが説明してくれる。


 はるか昔──この山岳地帯が侵食で形成される前。広大な高原地帯だったこの地には、特殊な『ヒト』が住んでいた。

 彼らは膨大な魔力を持ちながら、それを放出する術を持たず、魔法を使う事が出来なかった。

 唯一、他種族の者と『縁』を結んだ場合にのみ、その他種族の魔力制御能力を借りて魔法を使うことが出来たという。


《それって…》


 思い当たる節はある。


 先程イリスが浮遊魔法を使う直前、何かが繋がった感覚があったのだ。


「じゃあ逆に、『縁』を繋ぐ相手が見付からなかったら、魔法が使えないままってこと?」

《普通はな。だが──ある時、『縁』を繋ぐ相手が居なくても魔法を使える者たちが一族の中から現れ、一族と袂を分かって、高原地帯から平原へと降りて来た。彼らは平原地帯の森の奥へと居を構え、それがやがて、『エルフ』と呼ばれるようになったのだ》

「ハイランドエルフが平地に降りて来たから、『エルフ』って呼ばれるの?」

《いや、逆だ。高原の種族に、元々名前は無かった。森に住む者たちが『エルフ』と呼ばれるようになったから、高原地帯の先祖を高原(ハイランド)エルフと呼ぶようになったのだ。──もっとも、ハイランドエルフの方は絶えて久しいが》


 私の祖父が生まれた頃には、既に伝承しか残っていなかったそうだ──そうジェイドに教えられ、ハイランドエルフが居たのは本当に昔のことなのだと理解する。


 考えてみれば、この山々が風化や浸食で削られて今の形になるには、数万年単位の時間が必要だ。

 この山が出来る前の高原地帯に住んでいたというのだから、それくらい昔の話なのは当然だろう。


《其方には、ハイランドエルフの特徴が色濃く出ている。その髪と目の色や、耳の形は、今のエルフには無いもののはずだ》


「あ…」


 イリスが軽く目を見開いた。


 鉱石や金属を思わせる髪と目の色も、ヒューマンと同じ形の耳も、ハイランドエルフにはありふれた特徴だったという。


 エルフの出来損ないなどではない。

 むしろエルフの血が濃いからこそ、先祖の特徴が現れた。


「…そっか」


 ジェイドの言葉に、イリスは複雑な顔をした。


 母親に拒絶され、今までずっと『出来損ない』だと思っていたのだ。

 違うと言われても、どう受け止めれば良いのか分からないのだろう。


 嬉しそうな、けれど困惑の方が強いイリスの表情に、ジェイドはふむ…と呟いた。


《…とはいえ、私も詳しく知っている訳ではない。自分の特性を理解したいのならば、もっと詳しい者に話を聞くべきだろうな》

《詳しい者?》


《地の氏族のドラゴンの長老だ。──丁度10日後、200年に一度のドラゴンの族長会議が開かれる。イリス、其方もラズライトの相棒として参加すると良い》




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